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【獣医師が教える】猫に歯磨きをする理由~全身疾患の予防、歯磨きの仕方

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人は歯磨きをしますが、猫にとって歯磨きは必要なのでしょうか? 柔らかい食事が多い家猫は、歯石がたまりやすく、歯周病になりやすいといわれています。また、口腔内で細菌が繁殖し、全身疾患を引き起こしたり、口内炎のために摂食障害になったりと、命に関わることも。愛猫の健康寿命を延ばすために、歯磨きの必要性と、歯磨きの仕方を知っておきましょう。

1.猫に歯磨きは必要?

飼い主の皆さんが毎日欠かさず一日に3回している事といえば、そう、歯磨きですね。歯磨きは人にとってもはや生活の一部で、ルーティンワークとして何も考える事なく皆さん毎日している事と思います。これは細菌の増殖場所となる歯垢や、その元となる食べカスを口腔内から除去する目的で行われるもので、言うまでもなく歯磨きを怠ると口腔内で細菌が増殖して虫歯になり、最悪の場合歯を抜く羽目になります。しかしこの人間にとって欠かせない歯磨きが果たして動物にとって有用なものなのか? そもそも動物は人間と同じように虫歯になったり、歯を抜いたりする事態に陥るのか? 今回は中でも猫にとっての歯磨きについてその意義や有用性を考えてみたいと思います。猫の口腔内疾患について正しい知識を身につけて頂くことで、歯磨きにトライしてもらうきっかけや、お口の中を気にするきっかけにしてもらい、少しでも多くの猫に健康で幸せに暮らしてもらえると幸いです。

2. 猫の歯磨きの有用性とは?

歯磨きをする事で、様々な病気を予防する

結論からお話しすると、猫にとって歯磨きは有用なものです。実際に歯磨きをさせてくれるかはさて置き、歯磨きをする事で様々な病気を予防できるということを、はじめに断言しておきます。これは人間と同じように歯の表面に付着する食べカスや歯垢を除去することで、口腔内環境を清潔に保つ事ができるからです。

猫は歯石がたまりやすい

そもそも猫の口腔内はアルカリ性になっており、酸性の人間とは異なるため虫歯になることは少ないです。その代わり、歯の表面に付着した歯垢が固まり、歯石を形成します。歯石は唾液に含まれるカルシウムやリンといったミネラルを歯垢が取り込み石灰化したもので、文字通り石の様に硬く一度形成されてしまうとご家族の力だけでは除去できないほど頑固な汚れです。歯石の表面は粗く凸凹しているので、そこに新たな細菌が大量に付着して歯石に隣接した歯肉や口腔粘膜に炎症を引き起こします。つまり歯磨きをすることでこの歯石の元となる食べカスや歯垢を口腔内から除去して、歯周病を未然に防ぐ事ができるのです。

歯磨きをすることで、様々な病気の発症を遅らせることができる

また一般的に野生動物より、飼育動物の方が食べている物が柔らかい傾向にあり、歯の表面の汚れを物理的にこそげ落とす機会が少ないと言われています。また噛む回数も少ないので歯石もつきやすいです。くわえて野生動物より寿命が長い分、口腔内の問題が増えてくる事もあり、若い頃からの歯磨きが健康を長く保つ上でとても重要になってくるのです。

しかし歯周病はこれらの歯石や細菌だけが原因でおこる訳でもありません。歯周病をはじめ、口腔内の病気は様々な原因が絡み合って引き起こされるものです。しかしそれらの病気も歯磨きをすることで発症を遅らせられたり、症状を軽くできます。口腔内に起こる様々な病気をいかに予防できるか、そのメカニズムについて理解するには、まずいかにして猫が口腔内の病気にかかるのか、場合によってはそれが口腔内に留まらず全身性の問題に発展するのかを理解していただくことが近道かと思います。

3. 猫の口腔内疾患とは?

猫の口腔内疾患は、全身性の問題へ発展することもある

猫の口腔内には様々な病気(症状)が様々な原因によって発生します。症状は口内炎・歯肉炎・による出血や口臭の発生。炎症から潰瘍へ進行すると疼痛による食欲減退、元気消失が見られたりします。またこの様な口腔内に限局した問題だけではなく全身性の問題へ発展することもあり、口腔内の細菌やウイルスが腎不全を引き起こしたり、骨髄の働きを抑えてしまうと、場合によっては死に至る事もあります。

猫の口腔内疾患の原因とは?

これら口腔内疾患の原因となるものは外傷性、腫瘍性、免疫介在性、細菌性、ウイルス性などあらゆるものが挙げられますが、これらの原因が単独で重篤な症状を引き起こすというよりも、これら複数の原因が互いに関連して、重篤な症状を引き起こすことが多いように思います。仮に口腔内に細菌が入っても口腔内粘膜のバリアー機能が正常であれば問題は起こりにくいですが、外傷や腫瘍があり粘膜構造に破綻があれば細菌の感染が成立しやすくなります。

口腔内の細菌で、無害だったウイルスが細菌感染を引き起こす

また全身性の問題を抱えていることで免疫力が下がり、カリシウイルスや猫エイズなど既に感染はしていたけれど、無害だったウイルスが口腔内に歯周炎や口内炎を引き起こすこともあります。これらウイルス性の口内炎も口腔内に歯垢や歯石があると二次的に細菌感染を引き起こす事になり、状況はさらに悪化します。免疫力を下げてしまう全身性の病気は、腎不全やホルモン病、糖尿病や癌など様々ではあるものの、それによって引き起こされた口腔内の問題をさらに増悪化してしまう原因のひとつは、やはり口腔内の細菌なんです。

難治性口内炎や口腔後部口内炎は、全ての歯を抜かないといけなくなる

もちろん歯磨きをするだけでは(歯石がない状態でも)、口内炎が抑えられない猫もいます。難治性口内炎や口腔後部口内炎と呼ばれるもので摂食障害が出るほどの強烈な口内炎が特徴の病気です。抗生剤やステロイドなどの内科療法に無反応なものも少なくなく、全身麻酔をかけて全ての歯を抜かないと(グラグラしていない歯も全て)、そのまま弱って亡くなってしまうこともある怖い病気です。(全顎抜歯をしても口内炎が改善しない子も存在します。)様々な原因が示唆されていますが、詳しい発症のメカニズムは未だに不明です。しかし既にお伝えした通り口腔内の病気は様々な原因がいくつも絡み合って発症すること多いです。日頃の歯磨きで口腔内をできる限り清潔に保つことで、この様な怖い病気を予防できたり、発症を遅らせる事ができる可能性は大きいと思います。

4. 猫の歯磨きのやり方とは?

猫の歯磨きは、飼い主との関係性が大切

猫の歯磨きをするにあたって、大前提として飼い主と猫の関係性を崩さない様にしてください。基本的に動物は口の中を触られる事が好きではありません。健康の為にとやっていることも、猫は理解できません。嫌がる猫を執拗に追いかけ回すといい関係を継続できなくなるかもしれないので、せっかくの関係性が崩れてしまうくらいなら歯磨きはしない方がいいでしょう。また猫の歯は鋭く、歯磨きに抵抗する際、噛まれる危険性もあります。本気で噛まれれば簡単に手に穴があきます。はじめのうちは念のため厚手の革手袋などを着用してもいいと思います。

猫の歯磨きの時に用意するもの

用意するものは
・猫用の歯ブラシ
・猫用の歯磨き粉

人間用の歯ブラシは毛が固く、猫の歯肉を傷つけてしまう可能性があります。また人間用の歯磨き粉は猫にとって嗜好性が悪く、成分の無害性も立証されていません。必ず両方とも猫用のものを準備してください。

猫の歯磨きのやり方とは?

歯垢や歯石は、臼歯と呼ばれる奥歯に付着しやすいです。猫の頭を手で後ろから掴み、その掴んだ手の親指を使い、唇を上にめくりあげます。臼歯が露出すれば猫用歯ブラシに猫用歯磨き粉をつけて優しく磨いてあげてください。全ての臼歯を綺麗に磨ければベストですが、表面についた汚れを取ってあげるだけでも十分効果はあります。

実際はすんなり磨かせてくれる子は少なく、歯磨きにあまり時間を駆け過ぎるとストレスになります。歯磨きの制限時間を決めて、時間がきたらその日は切り上げるといったことも長く歯磨きを習慣化していく上では必要かもしれません。 

歯磨きは子猫の時から慣らしておく

そして繰り返しになりますが、猫は基本的に口の中を触られることを好みません。特に成猫になってから歯磨きに初チャレンジする場合は、できるようになるまでにかなり時間がかかる覚悟が必要ですし、もしかしたらさせてくれないかもしれません。どうしても無理な場合は歯磨きを諦める勇気も必要です。しかし噛む力が弱い時期(乳歯が生えてくる時期)から口に指を入れて慣れさせておくと歯磨きもスムーズにできるようになります。
実際には指に美味しい液状のものをつけて指が口に入れば美味しいという学習をさせましょう。これは成猫から歯磨きをチャレンジする場合も同じです。いきなり歯ブラシを使うことは難しいので、指を入れるところから始めて、次に指にガーゼを巻いて歯の表面を擦ってあげるといいでしょう。ガーゼに美味しい汁を染み込ませることも忘れないようにしてください。
習慣化してしまえば人間と同じように毎日のルーティンとして続けていけます。珍しいですが成猫からの歯磨きスタートでもすんなり歯磨きをさせてくれるかもしれません。まずはトライしてみることが大切です。

5. まとめ

歯磨きは口腔内の細菌の増殖を抑えることで、様々な口腔内に発生する病気の予防をしてくれるという事は十分理解していただけたと思います。口内炎によって摂食障害に陥り衰弱していく猫を多く診察してきた臨床獣医師からしても、未然に病気を防いでもらうことはとても意義があります。
また、猫の口腔内環境の悪化は、全身性疾患の影響によるものかもしれません。毎日の歯磨きの際に口の様子を観察できることも大きな病気を早期に発見するきっかけになります。猫の口腔内にできる癌は極悪なものが多く、手の施しようがない状況で病院に連れてこられる子も少なくありません。日頃の歯磨きの習慣で辛い最期を迎える子が一匹でも少なくなればと願っています。

監修/平野太陽(獣医師・右京動物病院SAGANO 院長)

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