2030年3月までに、とゴールを定めて「人とペットの共生するまち・なごや」の実現に向け数々の取り組みを推進している、愛知県名古屋市。5年後、どのような成果が生まれるのかが注目です。重要な使命を担う「名古屋市動物愛護センター」では日々さまざまな挑戦と模索を重ねています。
*記事内容はすべて2025年6月1日現在のものです。
2030年3月を目指し3つの目標を推進中
2020年、「名古屋市人とペットの共生推進プラン」が策定されました。それは「人とペットの共生するまち・なごや」を目指し、「動物の命を尊重する気運が醸成されている」「犬猫などのペットによる危害・迷惑が少ない」「犬猫の殺処分ゼロが達成・維持されている」の3つの目標を2030年3月までに実現する、という計画です。
「『殺処分ゼロ』については、犬は2016年度に達成していますが、猫は昨年度22匹でした。2015年度は705匹でしたのでかなり削減できていますが、残りの約20匹が難しい問題です。たとえば、治癒の難しい感染症を患った猫や大ケガで寝たきりになった猫など、苦痛を伴ったまま生き続けることが本当に幸せなのかと葛藤するところもあるのです。でも、重大な感染症や交通事故に見舞われるのは外猫がほとんど。だから、外猫の数を減らすことが重要で、TNR活動※や地域猫活動に力を注いでいます」(名古屋市動物愛護センター所長の山岸純二郎さん)。
なお、以前は攻撃性の高い猫も殺処分の対象になっていたそうですが、今は命をつなげられるように。2022年に完成した猫の飼養施設「にゃごラーレ」の専用ルームで、半年などの長期にわたって根気強く人馴れトレーニングを行っています。
※外猫を捕獲(Trap)し、不妊手術を実施(Neuter)したのちに元の場所に戻す(Return)活動。
「にゃごラーレ」の猫飼育室。この施設では最大160匹の猫を収容でき、長期にわたる飼育も可能。治療室も完備している
「人馴れ部屋」は入室できる職員も限定し、攻撃性の高い猫を人の手で触れるようになるまで時間をかけて訓練していく
課題解決に挑む日々
名古屋市では、TNR活動と地域猫活動のそれぞれに対して支援制度があります。「TNR支援事業」は、メス4000円、オス2000円の自己負担額で外猫の不妊手術を受けられる助成制度です。「地域猫活動推進事業」はTNRをしたあとも、食事やトイレの清掃など、猫の管理を続ける活動の支援制度。活動グループづくりを促進し、地域の合意形成を得るための支援を行います。この場合、不妊手術は全額を補助。近隣住民の理解と協力のもとで地域猫活動が広まっていけば、人と猫がともに暮らしやすい街へと近づいていくはずです。
「TNRや地域猫活動により年間約4000匹の不妊手術をしています。結果、繁殖を抑制できているようで、名古屋市動物愛護センター(以下、センター)の乳飲み子猫の収容数も年々減少傾向です。また、こちらに収容された猫については、原則としてセンターの獣医師が不妊手術を行っています。小さな子猫を譲渡する際には、指定動物病院で不妊手術(無料)とワクチン接種(補助)を受けられる診療券を渡しているんですよ」。ちなみに、ワクチン券は成猫や成犬を譲渡する際にも渡しているとか。
管理棟にある手術室。不妊手術から治療まで、獣医師の資格を持つ職員が対応し、譲渡につなげている。また、ミルクが必要な幼齢猫を職員の手で育てている
管理棟では2020年に殺処分機を撤去し、犬猫の収容スペースを拡張した
一方、今一番の課題を聞けば、センターへの引き取り依頼が減らないことだそう。「とくに高齢者や多頭飼育の飼い主の問題が深刻で、飼えなくなる前にSOSに気付ける仕組みがつくれないかと社会福祉の分野とも連携しながら模索しています。これは猫の問題ではなく人の問題。だからこそ、社会全体で向き合うことが大切です」
愛護館にある成猫を紹介する部屋。現在センター全体では約100匹の猫を収容しているが、毎年、数件ずつ発生する多頭飼育崩壊により一気に増えることも
出典/「ねこのきもち」2025年8月号『猫のために何ができるのだろうか』
写真提供/名古屋市動物愛護センター
取材・文/野中ゆみ
※この記事で使用している画像は2025年8月号『猫のために何ができるのだろうか』に掲載しているものです。