千葉県千葉市にお寺を拠点に保護猫活動を行う団体があります。住職が動物の殺処分に心を痛め、「1匹でも多くの命を救うために団体をつくった」といいます。一般社団法人こちねこ代表、日蓮宗本円寺住職の草切榮隆(えいりゅう)さんにお話をうかがいました。
*記事内容はすべて、2022年12月10日現在のものです。
お寺と保護猫活動は相性がいい
千葉市の市街地に建つ本円寺は開山以来640年余、地元に親しまれてきたお寺です。その本堂と並ぶ客殿の1階の2部屋、2階の1部屋に、一般社団法人こちねこ(以下、こちねこ)が保護した猫たちが暮らしています。
こちねこでは、SOSを受けると猫の保護に出向き、連携している動物病院で検査・治療をしています。親猫がいない生後間もない子猫や、命に危険のある猫は引き取り、世話をしながら新たな飼い主さん探しもします。お寺には、さまざまな方が出入りするので、「猫を欲しい方を知りませんか?」と声もかけやすく、そこから新しい飼い主さんが決まることも多いそうです。
2019年9月にこちねこを立ち上げて以来、地域猫のTNR(ノラ猫を捕獲し去勢・避妊手術をして、元の場所に戻す)活動も合わせて200匹以上に関わり、その中のおよそ130匹が新しい飼い主の元へ迎えられました。ノラ猫の保護や引き取り手探しだけでなく、地域猫や猫の飼育相談、ペットロスの心のケアや供養なども行っています。
「仏教には、動物も植物も、私たち人間と変わらず、すべて仏になるという教えがあります。どんな命も平等です。こちねこは猫の命について考える活動ですから、堂々と活動できる。お寺と保護猫活動はとても相性がいいと思います」(草切さん)。多くの人に、こちねこの活動を知ってもらい、「猫と人が互いに共存する社会にしよう」という思いを伝えたいと、日々SNSでの発信も行っています。
草切さんが初めて猫を保護したのは小学生の頃。。秋の終わりのある雨の日、段ボール箱に入れられた子猫たちを見つけ、家に連れて帰りました。「一歩動けば救える命がある」と、感じた体験でした。今でも鮮明に思い出されるそうです。
大人になり仏門に入ってからも、個人でノラ猫の保護をしてきた草切さんですが、個人での活動に限界を感じ、本格的に保護猫活動をスタートしようと、こちねこを立ち上げたのです。「法人格を取得したことで社会的な信用も生まれ、新しい飼い主さんとの出会いや応援してくれる方々が増えました。また、ホームページで活動への思いや活動内容、未来への展望などをきちんと伝えたことで、大勢のボランティアさんが協力してくれるようになりました」(草切さん)。
3カ月に一度の譲渡会も好評!
客殿奥の広間や本堂も使って開かれる譲渡会。毎回、ボランティアさんの協力を得て開催しています。当日は、保護猫たちに会うことができるだけでなく、日用品なども並ぶチャリティーバザーや、ボランティアさん手作りの猫のおもちゃが人気の物販コーナーもあります。
さらに趣向を凝らしたイベントも企画。内容はその時々で異なりますが、一般公募の写真を展示した「何でこんニャに可愛いの選手権」、陶器の招き猫型貯金箱にお絵描きする「色付け工房」、「ペットの似顔絵コーナー」、「マジックショー」といったユニークなものから、こちねこと連携している動物病院の院長先生による「保護猫を受け入れるときの心得」などの特別講演が開かれることも。「猫と暮らしたいと思っている方はもちろんですが、保護猫や譲渡会に興味のない方も、講演やイベントを目的に気軽に足を運んでいただけると嬉しいです。そこからきっと、こちねことの繋がりができるはずですから」と草切さん。
理念は「猫もしあわせ、 人もしあわせ」
こちねこは、千葉市第二種動物取扱業に登録して活動しているため、保護して世話のできる猫の数は本来20匹までに。保護依頼がきてもなかなか動けないというジレンマを抱えてきました。
そこで、現在、こちねこから車で20分ほどの場所に次なる保護猫施設を計画中。更地の土地に、ボランティアさんの力を借りながら建物を完成させ、参加者の心にこちねこの理念「猫もしあわせ、人もしあわせ」が宿るようにと考えています。さらに、交代で離乳前の子猫を育て上げるミルクボランティア施設、動物の室内型供養の施設開設も目指しています。
出典/「ねこのきもち」2023年2月号『ねこのために何ができるのだろうか』
撮影/後藤さくら 写真提供/一般社団法人こちねこ
取材・文/小出広子
※この記事で使用している画像は2023年2月号『ねこのために何ができるのだろうか』に掲載しているものです。