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猫の命を救うことに理由なんてない――小学5年生の心に灯った信念

静岡県富士市の「子猫園ベルソーデシャトンズ」は、高校生の赤石 朔さんと朔さんの母・雪さんが運営しているNPO法人です。「子猫園」といっても専用施設があるわけではなく一軒家の自宅で、子猫の命を救う活動をしています。「ベルソーデシャトンズ」はフランス語で、「子猫のゆりかご」を意味します。

*記事内容はすべて2025年2月10日現在のものです。

心のままに前進する

「毎年、春の出産シーズンになると続々と子猫がやってきて、昨夏の場合は50匹以上いました。昨年1年間では140匹、一昨年は116匹を受け入れましたが、年々増えているんです。レスキュー依頼の件数も増加傾向で、この地域は外猫への対策がなかなか進みません」 NPO法人「子猫園ベルソーデシャトンズ」(以下、子猫園)の赤石 雪さんはそう語ります。

近年「殺処分を減らそう」という機運が高まっている中、2022年のデータでは、全国で殺処分された1万匹弱の猫のうち6割超が離乳前の幼齢。自治体では24時間態勢のお世話が難しいため殺処分の対象になってしまうのです。そこで子猫園では、子猫が生まれる根本原因に取り組もうと、14台所有する捕獲器をフル稼働してTNR活動(「Trap(捕まえる)、Neuter(不妊手術する)、Return(元の場所に戻す)」という、繁殖を抑え、地域猫としてともに暮らすための活動)にも力を注いでいます。

赤石 朔さんが子猫園を設立したきっかけは、叔母(雪さんの妹)の付き添いで保護猫の譲渡会を訪れたこと。そのとき、保護団体の人が「病気の猫の預かりボランティアを探している」というので、2匹の猫を引き受けたそうです。さらに幼猫の殺処分の実情を聞いて、大きな衝撃を受けたといいます。

「命を救うことに理由なんてない」。子猫園が掲げている信念は、このとき生まれた言葉だそうです。当時、小学5年生だった朔さんが「自分にもできることはないか」と言い始め、雪さんは「この子の言うことは何も間違っていない」と腹をくくった……。

「活動を始めた頃は心ない言葉をかけられることも多く、少し人間不信になりました。でも、続けているうちに新しい飼い主さんとたくさんつながり、手伝ってくれるメンバーさんも増え、今は自分の心を信じて取り組んでいます」(朔さん)
写真提供/子猫園ベルソーデシャトンズ
育ち盛りの子猫のお世話は、メンバーさん(ボランティア)がサポート。ほかに人馴れしていない猫を自宅で預かっているメンバーさんもいるとか
写真提供/子猫園ベルソーデシャトンズ
ミルクボランティアは頼まず、授乳は赤石さんの家族だけで行う。"ミルクちゃん"が20匹もいると寝る時間が全然なくなるそう
写真提供/子猫園ベルソーデシャトンズ
仲間と暮らす子猫園では、卒業後もほかの猫と遊び、学びながら成長してほしいと「2匹以上一緒に受け入れ」という譲渡条件がある

「子猫園」の育て方

「遠いから助けないの?」。朔さんがそう言うので、SNSで見かけた緊急性の高い子猫を静岡から長崎まで迎えに行ったことがあるという雪さん。それ以前には、熊本の豪雨災害で行き場をなくした子猫を受け入れたこともあるとか。

「ふだん全国の子猫を受け入れているわけではありませんが、朔は見て見ぬふりができず、つねに全力です。猫はみんないいコなので、何が何でも助けたいんです」

そんな朔さんが代表をつとめる子猫園では、譲渡の際の判断基準は「子猫園にいるよりも幸せになれるお家かどうか」。朔さんにとって、育てたすべての猫がかけがえのない存在で、最善のお家とつなぐことが責務だといいます。だからこそ、過去に2度開催した「保護猫たちのパネル展」のメイン展示は、"卒業した猫"が主役。

「保護活動の先にあるゴール"猫と人の幸せな今"を展示したくて、新しい飼い主さんたちに『うちの子自慢のパネル』をつくってもらいました」

そう話す朔さんは、展示のほか講演活動なども行いながら徐々に活動の認知を広め、保護猫に目を向けてくれる人を増やしていきたい、といいます。でも、活動を大きくすることは本意でないそう。

「夢は"保護活動が必要ない社会"を実現させ、いずれ子猫園を解散することなんです」(朔さん)
写真提供/子猫園ベルソーデシャトンズ
「保護猫たちのパネル展」は、メイン展示の「うちの子自慢のパネル」をはじめ、保護猫に関する情報発信、子猫園の活動紹介などを通じて命の尊さを伝えるイベント。これまでに’22年と’23年の2度開催し、今夏、第3回を開催予定!
写真提供/子猫園ベルソーデシャトンズ
猫が卒業する際、新しい飼い主さんに必ず渡しているのが手づくりの色紙。保護されてから子猫園で過ごした日々を記録したもので、活動を始めた当初よりずっと続けてきたこと
写真提供/子猫園ベルソーデシャトンズ
上の色紙の夏実ちゃんは、雄斗くん、一二三くんとともに"チーム金メダル"と呼ばれた3きょうだいだった
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