猫の視線は、飼い主さんに何か要求するときのボディランゲージになるほか、人との関係をつくるうえでも大切なはたらきをしています。今回は、猫の視線についての研究を参考に、猫が人の視線をどう感じているかなどを麻布大学特任助教の子安ひかり先生に伺いました。
猫は人に見られていないときに人を長く見ている
見ているだけで癒される猫ですが、人の視線を猫はどう感じているのでしょうか?人の視線が猫の行動におよぼす影響を調べた研究があります。
研究内容
猫がふだんから遊び場として使用している部屋で、人1人と猫1匹のペアのみで過ごし、人が猫を見るときと見ないときで、猫の反応を調べました。2分間猫を見る時間と、2分間猫を見ない時間を2回ずつ交互に繰り返します。ちなみに、猫を見ない時間では人は下を向きながら本を読んでいました。
結果は、人が猫を見るときは、猫が人を見る時間が短くなり、人が猫を見ないときは、猫が人を見る時間が長いことがわかりました。
【研究結果】猫は人からの視線を敏感に察知している!
本来、猫において「視線を向ける・向けられる」というのは威嚇の合図になるといわれており、そうした視線への嫌悪があらわれている可能性もありますが、視線がポジティブな意味をもつ研究結果もあり、まったくネガティブな反応とはいいきれません。
いずれにしても、猫は人の視線を意識し、それと同時に人のことをよく見ていることは確かでしょう。
猫は人からの視線を感じることで呼びかけに応じられる
人が他人の目を気にして行動するように、猫も人の視線を感じたとき、行動を変化させるようです。
研究内容
猫がオヤツをもらう際、異なる行動をとる2人のどちらに寄っていくかを、次の3つの条件下で調べました。
1. 視覚条件のみ…人が無言で猫を見る vs. 人が無言で横を向いている
2. 視覚+聴覚の条件…人が猫の名前を呼びながら見る vs. 人が無言で猫を見る
3. 聴覚条件のみ…人が下を向いて猫の名前を呼ぶ vs. 人が下を向いて無言でいる
結果は、①と③では猫はどちらの人に寄っていくかにかたよりがなく、②では名前を呼びながら見る人に寄っていきました。
【研究結果】見つめられることと呼びかけが、猫の行動のきっかけに
この研究結果は、猫が人の視線を感じて初めて名前の呼びかけに応じることができること、また、猫が人の視線によって行動を変えることを示唆しています。
猫は人が見ているとまばたきの頻度が増える
人に見られることで猫は行動を変化させますが、その変化させる行動のひとつが「まばたき」。視線とまばたきの関係について調査した研究があります。
研究内容
猫のいるケージの前に人が座り、人が猫を見る場合と見ない場合における5分間の猫の行動を記録したところ、人が猫を見る場合のほうが、猫のまばたき率が高くなることがわかりました。
また、猫と人のまばたきが同期することを明らかにした研究もあります。人が猫に視線を向けるときの、人と猫のまばたきを記録(1分間×5回)したところ、タイムラグはありますが、人がまばたきしたあとに猫がまばたきをする、さらに、猫がまばたきをしたあとに人もまばたきをするという、相互のまばたきの同期が存在することがわかりました。
【研究結果】まばたきが同期するのはコミュニケーションの一種かも
人同士のまばたきの同期はコミュニケーションリズムの共有のあらわれといわれています。猫と人においても、同様のことがいえるかもしれません。
猫は見ることや見られることを通して、人とコミュニケーションをとったり、人との社会的な関係を築いたりすることがわかりました。愛猫と良好な関係を保つためにも、ふだんから愛猫の視線に意識を向けるようにしましょう。
お話を伺った先生/子安ひかり先生(麻布大学獣医学部動物応用科学科特任助教 ネコ研究集団「CAMP NYAN TOKYO(キャンプ ニャン トウキョウ)」メンバー)
参考/「ねこのきもち」2025年11月号『視線の研究に絆を強めるヒントがあった!猫と飼い主さんの「見る」「見られる」でわかったこと』
文/宮下早希
※写真はスマホアプリ「いぬ・ねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と写真に関連性がない場合もあります。