東京都千代田区にオープンした「保護猫ホーム・老猫ホーム神保町」は、地域の事情に応じて"保護猫シェルター"兼"老猫ホーム&ホスピス"というスタイルを取っています。一体どのような場所なのか、お話を伺いました。
*記事内容はすべて、2023年12月10日現在のものです。
"高齢化"と向き合う街角の小さなホーム
扉を入ってすぐ視界に飛び込んでくるのは、壁を鮮やかに彩る絵本作家・町田尚子さんの猫を描いた作品。見上げればマハトマ・ガンディの格言が飾られ、天井付近にぐるりとキャットウォークが設置されています。ここが都心のオフィスビルの中ということをつい忘れてしまいそう……。「狭いながらも、人にも猫にも快適な空間づくりを目指しました」。お話を伺ったのは、この「保護猫ホーム・老猫ホーム神保町」を運営する「ちよだニャンとなる会」代表理事の古川尚美さん。ちよだニャンとなる会は、約20年前から東京都千代田区を拠点に保護猫活動をしてきたNPO法人です。古川さんにこのホームをつくった経緯を聞けば、"高齢化問題"だといいます。
10年ほど前まで、私たちの活動の中心はTNR(※)でした。猫を保護したら不妊手術し、街へリリースしていたのです。やがて街で子猫を見かけることはなくなりましたが、今度は傷病猫や高齢猫の保護依頼が多く寄せられるように。つまり、かつてTNRした猫が高齢化し、外で暮らすのが難しい状況が生まれてきたのです」。かくして2021年、"路上死ゼロ"を掲げてオープンさせたのがこのホーム。譲渡拠点でありながら、譲渡できる可能性の少ない傷病猫・高齢猫も安心して余生を過ごせる場所です。
※TRAP(捕まえる)、NEUTER(不妊手術する)、RETURN(元の場所に戻す)の頭文字をとった用語。繁殖させず、地域猫としてともに暮らすための活動です。
千代田区で保護猫活動をするということ
「傷病・高齢の地域猫のほかには、最近、住民の高齢化に伴う保護依頼が急増しています。たとえば『飼い主さんが亡くなった』『施設に入所するため飼えなくなった』といったご相談です。また、地域猫の"えさやりさん"を続けるのが難しくなった方もいます」。と話す、古川さん。そもそも千代田区とは、丸の内や大手町、霞が関や永田町から、秋葉原、神保町まで擁する、日本経済の中心地。そのため住民数は少なく、近年は高齢化も進んでいるそうです。
「私たちは長年、千代田区内のフィールドワークを行ってきて、地域猫の居住分布、お世話してくださっている近隣の方やオフィスの方の情報などの全体像を大体把握しています。また、自治体とも連携しながら活動してきたため、地域で猫に関するトラブルが起これば私たちのもとへ連絡が入るようになっているのです」。
取材に訪れたときホームにいたのは、秋葉原駅に隣接するカフェの外に住んでいた猫、隣の街から流れてくることが多い"区境エリア"でさまよっていた猫など、若い猫が3匹と高齢猫が1匹。そのうち若い3匹はすでに引き取り先が決まり、高齢のステラちゃんは"看取りケア"に近い形で1年半ほど前からここにいるそうです。「ステラは目が白濁し、耳もほとんど聞こえません。腎臓病や関節痛もありますが、薬で痛みを和らげながら、できる限り快適に暮らせるようサポートしています」。ステラちゃんは、空間の一角を仕切って作った、老猫ホーム&ホスピスのエリアで暮らしています。高齢猫ほどほかの猫と暮らすことを嫌がる傾向にあるそうで、古川さんは「いつか猫それぞれの個室をつくりたい」と話します。
お話しをお伺いした人/ちよだニャンとなる会 古川尚美さん
出典/「ねこのきもち」2024年2月号『ねこのために何ができるのだろうか』
撮影/後藤さくら
取材/野中ゆみ
※この記事で使用している画像は2024年2月号『ねこのために何ができるのだろうか』に掲載しているものです。