ししまるをひとなでし、手紙をとりに外へ出ました。むわっと立ち上がる雑草の香り。すっと抜けた青空。汗だくで走りまわった子ども時代の思い出がよみがえったのもつかの間、空調の効いた家の中へそそくさと駆け込みました。あの頃の自分はどこへやら……。そんなセンチメンタルな私を眺めるししまるも、同じ様に年の流れを感じているかもしれません。
「まだまだいけるぜ!」
ししまるは、身体を棒状に伸ばしクーラーの風にあたっていました。毛と毛の隙間から、冷たい空気が流れ込み、ししまるは気持ちが良さそうです。
そこへ突然、インターフォンが鳴りました。でもししまるは、全く動かず棒のまま。掃除機以外の生活音に慣れきってしまったのは、いつからでしょうか…。
「ん~?宅配便が来たよ~」
ししまるの毛は、前より少しべたつくようになりました。コロナを機に坊主にした私の頭にも、白髪がちらほら増えました。私は、ししまるを優しくブラッシングしながら「お互い老いたな」とつぶやきます。見た目は変わりゆくふたりですが、ししまるのゴロゴロ音は、昔と変わらず今日も絶好調。
ある午後のこと。この季節はししまるが寝室に来ることはありませんが、昼寝をしていたら、腕にふわりとしたもふもふが触れました。
「ししまるっ!」
調子に乗ってクーラーを効かせすぎた部屋に、ししまるが忍び込んでいたのでした。
“キンキンにひえてやがる。ずるいっ”
と、ししまるが思ったかどうかはわかりませんが、冷えた場所と美味しいご飯へのアンテナはおとろえていないようです。
それは食べ物じゃ無いよ
私はししまるのひんやりと柔らかな身体をなでながら、一緒に”ひにゃり”とした時間を楽しむのでした。そんなふたりの初夏のお話でした。
にひゃり中
Taco(たこ)プロフィール
東京在住の漫画家・イラストレーター・キャラクタデザイナー。
「ちいさな猫を召喚できたなら」「3匹のちいさな猫を召喚できたなら」「ぷっちねこ。」(徳間書店)など、好評発売中。「ちいさな猫を召喚できたなら」は重版後、中国版・韓国版・インドネシア版も発売。
現在、Web上では不定期に新作漫画を更新中。詳しくは以下のSNSへ。
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