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お薬の時間は忙しい?久しぶりの投薬はいろいろ勝手が違っていたお話【連載】渋ネコししまるさん#196

 ーーししまるの投薬に苦労した過去は幻だったのだろうか。
 先日ししまるは、驚くほどあっけなく薬を飲んでくれた。
 ししまるをひざにのせて、液状のおやつを舐めさせている隙に錠剤を口に放り込む。昔は薬だけ吐き出していたが、今年は薬を飲んだことすら気づいて無いかのようにおやつをなめ続けた。とてもありがたかった。
心、ここにあらず
 通院時にキャリーへ入れるときも、ししまるは抵抗しなくなった。高齢になり体力が落ち、鈍感になってきたこともあるだろう。経験を重ねて知能が高まり、抵抗は無駄と悟ったのかも知れない。そんなことを考えていると、ますます渋くなった顔つきも、思慮深い賢者のように見えてくる。
 そんな賢者ししまるが投薬用のおやつを食べていると、まるこがやってきた。「ししまるだけずるいっ」とでも言いたそうな表情だ。まるこは、ししまるの投薬が終わるのを待ちきれず、彼の口元へ自分の鼻先を近づけた。
 ししまるは力強く首をひねり、まるこは機敏にししまるの口元を追った。右へ左へとラリーが続く。やがて根負けしたししまるが諦めた頃には、まるこも追いかけるのをやめた。
「ししまるだけずるいっ」
 ししまるはほっとしていたが、僕はぎょっとした。ししまるの腹に、吐き出された錠剤を発見したからだ。僕は表面が溶けた錠剤をつまんだ。指先がぬちゃっとした。少し鳥肌がたった。気を取り直してししまるの口へ薬を戻し入れ、急いでおやつを注ぎ込んだ。
 僕は偶然の猫まみれに満足しながら、ふと思った。こだわりが強いまるこに薬をあげるときが来たらどうなってしまうのだろう…と。
 そんな事を考えていると、ししまるをなでる僕の手がちょっとだけ早くなった気がした。

Taco(たこ)プロフィール

東京在住の漫画家・イラストレーター・キャラクタデザイナー。びゅうたびライターとしても活動中。
「ちいさな猫を召喚できたなら」「3匹のちいさな猫を召喚できたなら」「ぷっちねこ。」(徳間書店)など、好評発売中。「ちいさな猫を召喚できたなら」は重版後、中国版・韓国版・インドネシア版も発売。
現在、Web上では不定期に新作漫画を更新中。詳しくは以下のSNSへ。
・Instagram
 Tacoのインスタ: @tacos_cat
 ししまるのインスタ: @emonemon
・Twitter@taco_emonemon
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