獣医療は日々進化しており、さまざまな病気に対する新薬の開発が活発に行われています。
そこで今回は、高齢の猫に多い「関節炎」と、不治の病と呼ばれていた「猫伝染性腹膜炎(FIP)」の新薬について、獣医師の山本宗伸先生にお話を伺いました。
副作用の少ない関節炎の薬
関節炎とは、加齢に伴って関節の軟骨が破壊されて運動時の動きを低下させたり、痛みを引き起こしたりする病気のこと。正確には「変形性関節症」や「骨関節炎」などと呼ばれ、6才以上の猫で60%、12才以上では90%の猫が発症しているという報告もあります。
2022年に発売された新薬
これまで関節炎の痛みを和らげる薬は、腎臓病を悪化させる副作用があるなどの理由から投与できる猫が限られており、関節炎と診断されてもできることが少ない状況でした。
しかし、2022年に発売された新薬は、痛みに応答して放出される物質のひとつ「神経成長因子(NGF)」の上昇を抑制することで痛みを緩和する働きがあるため、腎臓や消化管への負担が少なく、より多くの猫のQOL(生活の質)を改善できると期待されています。
※副作用がまったくないわけではありません。
「不治」ではなくなった!猫伝染性腹膜炎(FIP)の薬
猫伝染性腹膜炎(FIP)とは、感染した猫コロナウイルスの変異で生じたFIPウイルスが引き起こす感染症で、つい数年前までは特効薬がなく、短期間で死に至る「不治の病」とされていました。
実用化された新しい抗ウイルス薬
FIPの抗ウイルス薬は、2000年代からアメリカで開発が進められていましたが、2019年から流行した新型コロナウイルス感染症の影響で一時中断。その間、人用の新型コロナウイルス感染症の抗ウイルス薬(錠剤)を用いてFIPの治療ができる可能性が報告され、いくつかの動物病院で導入が始まりました。
人の新型コロナウイルス感染症が沈静化すると、アメリカでのFIPの抗ウイルス薬の開発が再開し、現在実用化に至っています。
薬の使用が難しかったり、治療が困難だったりする病気も、獣医療の進歩で改善の兆しが見えてきました。今後も、猫を苦しめるさまざまな病気の対処方法が確立されるのを願いながら、愛猫が健康で長生きできるよう愛情を込めてお世話をしていきましょう。
お話を伺った先生/山本宗伸先生(Tokyo Cat Specialists院長 国際猫医学界ISFM所属)
参考/「ねこのきもち」2025年6月号『創刊20周年特別企画 猫の健康と、これからと。』
文/東里奈
※写真はスマホアプリ「いぬ・ねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と写真に関連性がない場合もあります。