「三臓器炎」という、猫特有の病態をご存じですか? どんな猫にも突然起こる可能性があり、場合によっては命にかかわるケースもあるため注意が必要です。今回は、猫の三臓器炎の原因や症状などについて、王子ペットクリニック院長の重本仁先生に伺いました。
「三臓器炎」って何?
参考・写真/「ねこのきもち」2025年7月号『肝臓 膵臓 小腸に起こる合併症 猫特有の三臓器炎って?』
猫の消化器は、食道・肝臓・胃・膵臓・小腸・大腸からなります。三臓器炎とは、そのなかの肝臓・膵臓・小腸に同時期に起こる病態(病気によって引き起こされる体の変化や異常)のことで、猫特有のものです。
消化器の6つの臓器のうち、半分に炎症が起こるため、猫は急激に具合が悪くなります。とくに、体力のない高齢猫は命にかかわるケースもあります。
必ず3つの臓器で同時に炎症が起こるわけではない
三臓器炎とは呼ばれていますが、必ずしも3つの臓器ではなく、2つの臓器だけが同時期に発症するケースも少なくありません。理論上、発端になりやすい臓器は小腸だと考えられていますが、明確な順番は不明です。
なお、三臓器炎が起きた際の臓器ごとの病気は、肝臓は「胆管炎(たんかんえん)」、膵臓は「膵炎(すいえん)」、小腸は「炎症性腸疾患(えんしょうせいちょうしっかん)」が代表的です。
三臓器炎になりやすい猫のタイプとは
三臓器炎の実例がさほど多くないため、猫種・性別・年齢による発症の傾向はわかっていません。ただ、小腸で起こる炎症性腸疾患は、食物アレルギーに付随して起こるケースが多く見られます。
食物アレルギー→炎症性腸疾患→三臓器炎につながる可能性はあるため、アレルギー体質の猫はとくに注意が必要でしょう。
三臓器炎が起こる原因
イラスト/Studio CUBE. 「ねこのきもち」2025年7月号『肝臓 膵臓 小腸に起こる合併症 猫特有の三臓器炎って?』
肝臓から胆汁が流れる「胆管」と、膵臓から膵液が流れる「主膵管」は合流して1本の管となり、小腸(十二指腸)の同じ場所に連結していて、胆汁と膵液を小腸に分泌しています。
そのような形状は人や犬などにはない、猫特有のもの。そのため、3つの臓器のうち1カ所で炎症が起こると、ほかの2カ所にまで波及してしまい、炎症を併発しやすいと考えられています。
飼い主さんが気づきやすい異変のサイン
胆管炎・膵炎・炎症性腸疾患は消化器の病気のため、猫が嘔吐・下痢・食欲不振を起こすことで、異変を感じる飼い主さんが多いといえます。また、活動性が低下するため、急に元気がなくなりぐったりした様子を心配して、受診するケースも見られます。
なかには、腹痛を感じている猫もいるはずですが、もともと猫は痛みを隠す習性があるため、見た目では気づきにくい場合もあります。
三臓器炎で行われる治療
三臓器炎は3つの臓器が互いに影響しあって不調を起こしている状態なので、おもな要因となっている臓器に対する治療とともに、全体の症状に対する対症治療を行います。一般的には、症状の緩和や改善を目的とした吐き気止めや下痢止めの投与、痛みを緩和する鎮痛剤の投与、脱水を補うための皮下輸液などです。
また、まったく食べられず低栄養の心配がある猫には、チューブを使用して鼻などから栄養を送り込む「チューブフィーディング」も行い、回復を目指します。
三臓器炎は放置すると症状が悪化しますが、適正な治療を受ければ短期間で症状が治まるケースもあります。愛猫の様子や体調に少しでも気になる点が見られたら、早期に動物病院を受診するようにしましょう。
お話を伺った先生/重本仁先生(王子ペットクリニック院長)
参考・写真/「ねこのきもち」2025年7月号『肝臓 膵臓 小腸に起こる合併症 猫特有の三臓器炎って?』
イラスト/Studio CUBE.
文/宮下早希
※一部写真はスマホアプリ「いぬ・ねこのきもち」で投稿されたものです。
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