「愛猫になら何をされても許せる」という飼い主さんも多いと思いますが、それでもやっぱりやめてほしい困りごとも。
噛む・引っかく、トイレ以外の場所での不適切な排泄、同じ行動を執拗に繰り返す……そんな行動をする猫の状態は「心の病気」ともいえます。心の病気にかかるとどんな治療をするのか、獣医師の菊池先生が実際に行った診療例を紹介します。
レジ袋の音が聞こえると、家族を攻撃するようになってしまい…
飼い主さんの娘さんがクリーニングの袋から服を取り出したところ、そのそばの猫ベッドで寝ていた猫が突然威嚇、攻撃! それ以来、娘さんの姿を見たり、スーパーのレジ袋の音を聞いたりすると娘さんにだけ攻撃するようになってしまいました。
ケージを利用して警戒を和らげ、生活音にも配慮してもらいました
猫をリビングに置いたケージに入れ、娘さんにはケージの柵越しに遊んだりおやつを与えたりしてもらうように。2カ月後にはケージ越しでの攻撃が見られなくなったので、ケージ外での接触時間を徐々に増やしていきました。半年ほど経ち、攻撃が見られなくなったので、同時に与えていた不安を和らげる薬も少しずつ減らしながら治療終了へ。引き続き音に気を付けながら暮らしてもらっています。
同居猫に突然噛み付いた猫。それ以来、対面すると、攻撃するようになり…
飼い主さんが新しく猫を迎え、半年ほど経った頃のこと。押入れから突然大きな鳴き声が聞こえたと思ったら、新入りの猫が先住猫を攻撃していて……。一度引き離したのち、再び対面させたものの、新入り猫が再び攻撃を始めたので隔離することに。2週間後に再び対面させたら、お互いに毛を逆立て興奮し始めたので、またすぐ引き離しました。
おやつなどを用いてお互いに慣れさせていきました
隔離は継続し、ドアを隔てた状態でそれぞれおやつをもらう状態に慣れさせたのち、ほんの少し、また、ほんの少し……ドアを開けて与えるようにし、お互いの存在に慣れさせました。また、寝床のタオルを交換してお互いのニオイに慣れさせたり、遊び時間を増やしてエネルギーを発散させたりした結果、最近では直接対面もできるように。
ふみふみしながら布製品を口にしてしまう日々が続き…
ある猫は、飼い主さん宅に迎えられた頃から眠るときに毛布やラグなどの布製品をふみふみしながらかじるクセがありました。数カ月後から徐々に吸いながら食べるようになって来院しました。口にしてしまっても基本的には吐き出すので、動物病院での処置が必要になる事態には至らなかったのですが……。
布製品は片付け、遊びの時間を増やしてもらいました
布製品を片付けるのはもちろん、ケージの中でフードを与えてもらい、安心できる居場所づくりも。また、遊びの時間がかなり足りなかったので、毎日一緒に遊び、欲求不満の解消にも努めてもらいました。さらに、不安を和らげる投薬を併用して治療を続けたところ、布製品を口にする頻度がだんだん減っていきました。 とはいえ、油断すると食べてしまうので、治療は続けています。
猫の「心の病気」と思われる症例は、上記のもの以外にもあります。飼い主さんだけで解決することは難しいので、猫の行動で不安に感じたことなどがあったら獣医師に治療の相談をしてみましょう。
参考/「ねこのきもち」2019年5月号『その困った行動、ストレスからくる心の病気かも』
(監修:東京大学附属動物医療センター行動診療科 菊池亜都子先生)
文/浪坂一
イラスト/mollydomon
※この記事で使用している画像は2019年5月号『その困った行動、ストレスからくる心の病気かも』に掲載されているものです。