猫と暮らしていると、「抜け毛」に悩まされることも。時期によっては、大量の抜け毛に手を焼いている飼い主さんも多いかもしれません。
この記事では、「猫の抜け毛ケアのコツ」や「ケアを怠ることで起こりうるリスク」などについて、ねこのきもち獣医師相談室の白山さとこ先生が解説します。
猫の毛がたくさん抜けるのはなぜ?
猫の毛は普段からそこそこ抜けるものですが、大量に抜けるときは何か理由があることも。まずは、猫の毛が大量に抜ける代表的な3つの要因を見ていきましょう。
①抜け毛が多い「ダブルコート」だから
猫の被毛は、猫種によって一層で構造されている「シングルコート」と、二層構造になっている「ダブルコート」に分けられます。
ダブルコートとは、外側に接している被毛「オーバーコート」と、皮膚に近い内側に生えている「アンダーコート」からなります。オーバーコートは主に水を弾いたり紫外線から身体を守ったりする役割を持ち、アンダーコートは体温を維持する役割があります。
アンダーコートがある猫はその分抜け毛も多くなるため、ダブルコートの猫のほうが抜け毛は多くなります。
②換毛期だから
体温を調節するための毛は、気温の変化に伴って抜けることが多いです。体温調節が必要になる季節は、夏と冬。その前の季節である春と秋に、温度変化に対応できる被毛にして体温調節に備えるのです。
冬の寒さに耐えてきたふわふわの被毛は、春のうちに抜け落ちて夏に向けてさっぱりした被毛になり、秋には冬の寒さに備えたボリュームのある被毛に生え変わります。これを「換毛期」といい、毛が生え変わる換毛期には抜け毛が多くなります。
換毛期には、普段の10倍以上抜け毛が増える猫もいるようです。
③ストレスを感じているサインのことも
猫はストレスに弱いといわれており、ストレスを感じると気分を紛らわせるためにグルーミングを行ないます。過度なグルーミングは被毛にダメージを与え、いつも以上に被毛が抜けます。
猫の抜け毛は「病気のサイン」の場合も
大量に毛が抜ける原因のひとつに「ストレスを感じている可能性」を挙げましたが、抜け毛が病気のサインのこともあります。
①ストレスによる脱毛症
ストレスを感じて過度なグルーミングをした結果、毛が抜けることがあります。それが続くと、血行不良や炎症を起こして毛がごっそり抜けてしまうことも。
まずはストレスの原因を特定し、できる限り取り除いてあげるようにしましょう。どうしても過剰なグルーミングが続く場合には、精神安定剤などを用いた治療が必要となる場合があります。
②ノミアレルギー
ネコノミが寄生すると、アレルギー症状を引き起こす場合があります。猫はかゆみを感じると体を噛んだり引っかいたりするので、その部分の毛が大量に抜けたり皮膚炎を起こすことも。
治療としては、ノミの駆除と皮膚の治療を行ないます。かゆみや炎症を鎮めるために、抗炎症薬や抗生物質などを使用することもあります。
③食物アレルギー
食べ物の中に体が過剰に反応する成分(アレルゲン)を含む場合は、発疹やかゆみが出て毛が抜けてしまうことも。この場合、フードの変更や内服で治療していきます。
④猫ざそう(猫ニキビ)
「猫ざそう」は、年齢に関係なく猫がかかりやすい病気のひとつ。はじめは、下あごに黒いツブツブ状になった汚れのようなニキビができ、進行すると赤くただれて脱毛したり、違和感から引っかいて出血するなどの症状が見られます。
炎症や細菌感染がない場合は、患部を清潔に保つことが大切に。温かく湿らせたタオルや消毒液で、汚れをふき取ります。また、猫用シャンプーで洗浄すると治ることも。
炎症や細菌感染が認められた場合は、抗生物質や抗炎症薬の投与、軟膏の塗布などで患部を消毒しながら治療していきます。
⑤皮膚糸状菌症
「皮膚糸状菌症」は、カビの仲間である「糸状菌」が感染して発病します。顔のまわりや耳、足などに赤みのある発疹を伴って、円状に脱毛する病気です。
この場合、抗真菌剤の内服や抗真菌剤を含む外用薬、シャンプーなどで治療していくことに。長毛種の猫は病変部の拡大を防ぐために、付近の毛を刈ることもあります。
⑥疥癬(かいせん)
「疥癬」は、ヒゼンダニというダニが寄生することで発病します。かゆみがひどく、発症すると体を激しく引っかく猫が多いでしょう。また、顔や耳のフチの毛が抜け、発疹やフケ、かさぶたが見られるケースも。
疥癬はダニ駆除薬を投与して治療を行ないますが、並行して今まで使用していたタオルや毛布、猫ベッドなども消毒し、室内の清掃を徹底しながら猫の周囲からダニを取り去ることも大切に。
抜け毛を放置することで引き起こされる猫の病気4つ
抜け毛を放置しておくことが原因で、猫が病気になってしまう恐れも。抜け毛が原因で引き起こされる主な病気を4つ紹介します。
①毛球症
毛球症とは、飲み込んだ抜け毛が胃腸で大きな塊となって停留する病気。塊の大きさによっては、開腹手術で取り出さなければならないこともあります。
②胃炎
胃の中に毛玉がとどまって粘膜を刺激すると、それによって胃が荒れてしまい、下痢や嘔吐などの症状が見られることがあります。
③食道炎
毛玉などの嘔吐を頻繁に繰り返すと、逆流した胃酸が食道を刺激して「食道炎」が起こります。
食道に炎症が起きると、吐出(飲み込んだものが胃に到達する前に吐き出される症状)が増え、そのまま放っておくと食欲そのものが低下してきてしまうことも。
④皮膚炎
抜け毛が猫の体に付いたままもつれると、大きな毛玉になってしまうことがあります。大きな毛玉をそのままにしていると、毛玉の下で皮膚が蒸れてしまったり、老廃物や皮脂などがたまることで、皮膚が炎症を起こす恐れも。
毛玉があまりにも巨大化してしまうと、自宅でのカットは危険が伴うので、トリミングサロンや動物病院で処置してもらう必要もでてくるでしょう。
【対策】こまめなブラッシングで、猫の抜け毛を取り除いてあげよう!
猫が抜け毛を大量に飲み込まないようにするには、効率よく抜け毛を除去できるブラッシングが有効です。短毛猫はラバーブラシを、長毛猫はスリッカーとコームのダブル使いでしっかりブラッシングをしてあげてください。
ブラッシングの順番は、以下の手順で行なうとやりやすいでしょう。
をコームでとかしましょう。コームやスリッカーを使うときは、皮膚を傷つけないように注意してください。
お手入れの目安は?
換毛期の間は、長毛猫は1日2回、短毛猫は1日1回のお手入れを目安にするとよいでしょう。ブラッシングは抜け毛対策としてだけでなく、スキンシップにもなります。
ブラッシングが苦手な猫にできる工夫は?
愛猫の抜け毛ケアでブラッシングが大切なことがわかりましたが、なかには「ブラッシングが苦手」というコもいるでしょう。
ブラッシングをする際のコツとして、まずは猫がリラックスして近寄ってきてくれたタイミングで、体をなでてあげるときと同じように優しくブラッシングしてあげましょう。
ブラッシングをしながらおやつを舐めさせたりすると、嫌がりにくいようです。
無理に全身をやろうとしなくてもOK
ブラッシングが苦手な猫の場合は、無理に全身をやろうとせず、部位ごとに分けてするようにしてもよいでしょう。そのときはまず、なでると気持ちよさそうにする部分からやってあげてみてください。
ブラッシング嫌いの原因にならないよう、日頃からこまめなブラッシングを
毛玉ができてしまってから慌ててブラッシングをすると、どうしても皮膚が引っ張られたりしてしまうため、猫にとっても不快です。それによって、ブラッシングを嫌いになってしまう原因にもなるでしょう。
特に長毛種の猫の場合は、日頃からこまめにブラッシングをして、毛玉を作らないようにすることを心がけてみてくださいね。
(監修:ねこのきもち獣医師相談室 獣医師・白山さとこ先生)
参考/ねこのきもちWEB MAGAZINE
「【獣医師監修】猫の抜け毛対策!原因や対処法、掃除のコツもご紹介!」
※写真はアプリ「まいにちのいぬ・ねこのきもち」にご投稿いただいたものです。
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
取材・文/雨宮カイ