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おじいちゃん猫が子猫になるとき。とある朝のじんわりしたお話【連載】渋ネコししまるさん#201

 ししまるはおじいちゃん猫だが、朝と夜には子猫になる。
 朝はリボンにじゃれ、夜は人の膝にべったりだ。ひとりで遊ぶことも、初夏に膝の上でくつろぐことも、去年までは見られなかったな。どうしたんだい、ししまるよ。甘えん坊の子猫にでもなったつもりかい?
 僕はそんなししまるを見て、昔の思い出に浸るような、切ない笑みを浮かべることが増えた。
相変わらず箱が大好き
 昼間のししまるは、相変わらずのおじいちゃんだ。しなびた箱に入ってぎゅっと目を閉じた顔は、煮出しすぎたお茶のように渋い。
 息子が帰宅して、ししまるの隣でタブレットをいじり始めた。荒い電子音に合わせて九九の歌が流れ始める。それを耳にしたししまるは、一点をみつめて固まってしまった。
 そのとき僕は、ししまるが歌の意味を理解しようとしているように見えた。
「いんいちがいち?いんにがに?いんさんが…」
「ししまる…九九を覚えたりして」
 僕のつぶやきに、妻が笑った。
 息子もいつのまにか九九を覚える年齢になった。時は着実に過ぎているんだね。
 九九の歌が止むと、「ぶぅ」と言うししまるの鼻息だけが聞こえた。
「4✕4(しし)は?」と聞いたら「まる!」と答える。そうです彼の名は「ししまる」です
 今朝も、椅子の背もたれに結えられたリボンの端を見つけたししまるは、座面の下に寝転がりながら、リボンを揺らしてじゃれついていた。朝日をはじくサテンのリボンとガラス球のようなししまるの瞳は、どちらも輝き、跳ねていた。

 こんなピカピカの朝だ。僕もししまると一緒になって、子どもみたいに遊ぶしかあるまい。

Taco(たこ)プロフィール

東京在住の漫画家・イラストレーター・キャラクタデザイナー。びゅうたびライターとしても活動中。
「ちいさな猫を召喚できたなら」「3匹のちいさな猫を召喚できたなら」「ぷっちねこ。」(徳間書店)など、好評発売中。「ちいさな猫を召喚できたなら」は重版後、中国版・韓国版・インドネシア版も発売。
現在、Web上では不定期に新作漫画を更新中。詳しくは以下のSNSへ。
・Instagram
 Tacoのインスタ: @tacos_cat
 ししまるのインスタ: @emonemon
・Twitter@taco_emonemon
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