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山口県の旅館が実現した「猫庭」プロジェクトとは?

近年耳にするようになった、クラウドファンディング。
インターネットで賛同者から資金を集め、猫のために新たな試みを始めた山口県にある旅館の取り組みについてご紹介します。

※この記事の情報は、2017年2月10日段階のものです。

旅館の一角に作られた“猫シェルター”

山口県山口市にある、てしま旅館。山口宇部空港やゴルフ場が近くにある、県内でも人気の旅館です。

そんなてしま旅館の中庭に、2016年の6月に建てられたのが、「猫庭」。さまざまな場所や理由で保護された猫たちが暮らす、専用の“離れ”です。
撮影/尾崎たまき
撮影/尾崎たまき
旅館のロビーから猫庭を見ることができます。
写真の女性たちは、猫たちに会うために広島から来たのだとか
 旅館は、繁華街の近くにあるというわけではないものの、若い女性や県外から来たという人も多く宿泊していました。

「以前はゴルフや保養目的で、近郊から来られる方が多かったのですが、最近は、猫に会うためにわざわざ遠方から来られる方も増えました」と話すのは、旅館のオーナーで、猫庭の発案者の手島英樹さん。

猫庭をつくった理由を聞くと、「旅館の前の道路で、猫が交通事故で死ぬことが多かったのです。先代の愛猫も、事故で亡くしました。そんな矢先、山口県の殺処分数が全国ワースト3で、年間5000匹近くもの犬猫が命を落としているということを知り……! 人と同じ重さであるべき猫の命を守りたいという一心で、この猫庭をつくることにしました」(手島さん)。

賛同者から得た資金で旅館の中庭に建設

 現在、5匹の猫を飼っている手島さん。「これ以上猫を自宅に迎えるには無理がありました。そんなときにお客様が、旅館に来たノラ猫を見て、穏やかな表情になっていることに気付きました。そこで『猫がいれば、旅館の雰囲気もよくなるかも』と、旅館の中庭に猫の保護部屋をつくることを思い付いたのです。中庭なら広さもあるので、多くの猫を救えるのではと思いました」(手島さん)。
撮影/尾﨑たまき
撮影/尾﨑たまき
旅館の前で瀕死状態だったところを手島さんに保護された、愛猫めのちゃん。
「保護当時は脱毛が見られましたが、今ではフサフサです」(手島さん)
 構想は固まったものの、資金がない――。そこで、手島さんは、インターネットで出資を募って資金を集めるクラウドファンディングで、猫庭の建設費用を集めることに。

「最低でも400万円は必要でした。集まるか不安でしたが、たった45日間で、343人の方から出資がありました! 『猫を想う人や、自分の想いに賛同してくれる人がこんなにもいるのか』と、胸が熱くなりました」(手島さん)。
クラウドファンディングのサイトの一部。
今は猫庭が建っている中庭で、“館長”の姫萌ちゃんが“めの”ちゃんを抱いている写真が、大きく掲載されています

「旅館」をフル活用! 猫の保護・譲渡に励む

上限20匹を想定してつくられた猫庭。「開始当初は旅館周辺のノラ猫を保護していましたが、最近は近所の方や宿泊された方からの情報などをもとに、県外からも猫を迎え入れています」と手島さん。そのため、猫庭はずっとほぼ“満員”状態なのだそう。
撮影/尾﨑たまき
撮影/尾﨑たまき
旅館の宿泊客からの情報を受けて、山口県外の動物愛護センターから、殺処分の前日に猫庭に引き取られたという子猫たち
しかし、同じ猫がずっといるわけではありません。譲渡が成立した猫の数は、運営開始からわずか1年足らずで、すでに25 匹にものぼります。

この“回転”の速さについて、「猫庭には、日帰りで来ていただくことももちろんできますが、旅館に宿泊できるという点で、遠方の方にも来ていただきやすいですし、滞在中は何度でも猫と触れ合うことができます。引き取りが本当にできるかどうか、時間をかけて検討できる環境だからこそ、多くの譲渡を生んでいるのだと思います」と手島さんは話します。
 
さらに、「引き取りを決意された方の中には、旅館に来て初めて猫庭の存在や、ノラ猫の問題について知ったという方も。猫の問題に触れる機会がなかった人へ、現状を伝えられるという意味でも、旅館に猫庭をつくってよかったと思っています」(手島さん)。

まずは「猫庭」を継続することが目標

撮影/尾﨑たまき
撮影/尾﨑たまき
抱っこが好きな“みくろ”ちゃん。
「お客さんとたくさん接しているので、人好きな猫が多いです!」(姫萌ちゃん)
 寄付金や低コストの設計により実現した猫庭のプロジェクト。しかし、「猫たちの健康と快適な生活を維持するためには、医療費や食費などにお金がかかります」と手島さん。

出資金だけでは賄いきれない、その資金をどう工面するか――。手島さんは、解決策を探ります。「旅館が魅力的でなければ、集客が減り、猫庭も維持が難しくなります。そこで、私は“猫の手を借りる”ことで、旅館の魅力アップを図ろうと思いました。たとえば、旅館で猫庭のグッズを販売したり、オリジナルの食事プランを展開して、その収益の一部を、猫庭の運営費に充てています」と手島さん。「猫で集客を図っているのは事実なので、『猫を利用するなんて』という声もあります。しかし私は、猫庭が維持でき、結果的に猫のためになるのなら、これも方法のひとつなのではないかと思っています」。
画像提供/てしま旅館
画像提供/てしま旅館
旅館では、「猫庭御膳」という食事プランを提供したり、猫庭オリジナルのTシャツを販売。
これらの収益の一部のほか、募金で集まったお金を、猫庭の運営費に充てています
 さらに手島さんは、プロジェクトの今後についても考えます。「もっと多くの猫を救うためには、猫庭の規模を大きくする必要もあると思っています。……やってあげたいことは、頭の中にたくさん浮かんでいるんです。しかし、今は安定した運営方法をしっかり確立することを最優先に、慎重に努めたいです」。

 猫庭は、まだ運営を始めたばかり。これからぶつかる壁も多いかもしれませんが、「猫のために、この自分ができることは何か」と手島さんがとった行動は、きっと保護猫たちの幸せに繋がっていることでしょう。
撮影/尾﨑たまき
撮影/尾﨑たまき
一番新入りの、フォックスちゃん。
「資金難で悩んでいたところ、娘たちがお年玉を出し合って、フォックスの避妊手術代に充ててくれました」(手島さん)

問い合わせ先

てしま旅館
☎ 0836·65·2248
「猫庭」関連の活動内容などについては、旅館のウェブサイトにも記載されています。
URL:http://teshimaryokan.com/
出典/「ねこのきもち」2017年4月号「猫のために何ができるのだろうか」
文/「ねこのきもち」編集室
カメラマン/尾﨑たまき
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