伊豆諸島のひとつである御蔵島は、渡り鳥の一種・オオミズナギドリの営巣地として知られる島。そのオオミズナギドリを捕食するという理由から、森で暮らす猫たちが“悪者”として扱われているのだとか。
罪のない猫たちにも幸せになってほしいという想いから、島外へ連れ出し、 新しい飼い主さんを探しているのが「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」。本記事では、島から連れ出した猫たちに新しい飼い主さんを見つけるまでの様子をご紹介します。
※記事内容はすべて、2019年 12 月 10 日現在のものです。
この活動をしているのは…
御蔵島のオオミズナギドリと野生の猫を守るため、2016年に立ち上 げられた「御蔵島のオオミズナギドリを守りたい有志の会」。メンバーは、共同主宰の長谷川 潤さん(左)と草地ゆきさんの2人ですが、 活動の内容によって仲間の力を借りたりしながら取り組んでいます。
森に棲む野生の猫といっても可愛い猫である
御蔵島から東京の都心部へ連れて来られた猫がしばらく過ごす長谷川さん宅のシェルターには、ケージのほか、猫ベッドやおもちゃなどが用意されています。そこで、好むおやつを与えたり、しばらくそばにいたりして、人が怖くない存在だと少し ずつでもわかってもらうのだそうです。
この数年間、猫の保護活動を行ってきた長谷川さんによると、「御蔵島の猫たちは、人と接することなく暮らしてきたせいか、人 に対して嫌な印象も少ないのかも しれません。意外にもほとんどの猫が懐っこくなるんです」。
捕獲されて、最初のうちは緊張感があった森の猫も、いつの間にか飼い猫のようなやわらかい表情になっているのだそうです。
とはいえ、森で暮らしていた野生の猫は、巷では「狂暴そうで怖い」「飼うのはちょっと……」などと思われ、敬遠されることも。「御蔵島の会」では、そのイメージを払拭することが新しい飼い主さんを見つけやすくすることに繋がると考えました。そして、やわらかい響きがする「森ネコ」と名付けることで、親しみやすさを感じてもらったり、「なんだろう?」と興味を示してもらったりするようになったのだとか。
長谷川さん宅に作られた「森ネコ」のためのシェルター。広くて清潔感のある空間にゆったりとケージが置かれ、猫たちもすっかりリラックスしています
森の猫の可愛さを伝えるために写真展の開催も!
また「森ネコ」が、いわゆる飼い猫と変わらない猫だと知ってもらうために写真展を企画。都内のギャラリーを借り、仲間の写真家の協力も得て、実現に漕ぎつけました。会場で実施したアンケートによると、通りすがりに立ち寄り、初めて「森ネコ」の存在を知った方々にも可愛い猫だと思ってもらえた手応えはあるそう。好評を受け、第二弾も実施されています。
過去に開催した写真展のポスター。可愛い写真と絶妙なキャッチで、森の猫がいかに可愛い猫であるかを前面に出し、アピールしています
東京都世田谷区で開催された1回目の写真展の様子。ギャラリーには想像以上の人が集まり、大盛況に終わったのだとか。どの来場者も真剣に鑑賞しているのが印象的です
謙虚で誠実な二人三脚が猫たちに幸せな未来を
「猫のためになれば、と信じて活動していますが、ためになっているかはわからない」と長谷川さん。「猫からすれば勝手に森に放たれて、“悪者”扱いされた挙句、今度は島から出され……。人のエゴで振り回してきた分の尻ぬぐいをしている感覚です」と苦笑い。
そうした謙虚な人柄や姿勢が成果にも少しずつ繋がってきています。正式なメンバーは2人にもかかわらず、約2年で50 匹を島から連れ出すことができたのは、「被災動物のボランティアや知人のドルフィンスイマーなどまわりの協力があったから」と草地さん。島の猫をゼロにし、オオミズナギドリ、そして島の自然が守られる未来へ向かうには、行政をはじめとする大きな力も必要になりますが、謙虚で誠実な二人三脚は少しずつ輪を広げ、いつかそこにたどり着く……。そんなゴールを期待させてくれます。
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参考/「ねこのきもち」2020年2月号『猫のために何ができるのだろうか』
文/Margot
※この記事で使用している画像は2020年2月号「猫のために何ができるのだろうか」に掲載されているものです。