猫と暮らす
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〈人と猫の専門医対談〉人と猫が仲良くする・快適に一緒に暮らすために必要なこととは? 〜後編〜

猫アレルギーと上手に付き合うには「アレルゲンを減らす」ことが基本
海老澤先生「猫アレルギーを引き起こす原因物質(アレルゲン)は、主に猫の唾液や皮脂腺などに含まれています。それがグルーミングによって毛やフケなどに付着し、目や鼻、口などから体内に入ったり、皮膚に触れて目のかゆみ、鼻水、くしゃみ、せき、じんましんなどの症状が現れます。
症状を抑え軽減するには、アレルゲンを減らす・遠ざけることが基本です。
猫と人の居住空間を分け、部屋の掃除をこまめにする、猫の毛などがよくつくものや猫が使っている物をこまめに洗うようにすることで、症状は緩和されます。
猫と接するときは、アレルゲンが付着した猫の毛を吸い込まないようにマスクをし、肌が直接触れないように長袖や長ズボンを着用するのも効果的です」
――猫をお風呂に入れることや、ブラッシングをすることも必要ですか?
服部先生「猫は水に濡れるのを嫌います。特にドライヤーの音や熱風でパニックになってしまうことがよくあるのです。一般の飼い主さんが猫をお風呂に入れるのは、とてもハードルが高いと思います。たまにお風呂やドライヤーが大丈夫な猫もいますが、少数派と言えるでしょう。
猫に対しては、ブラッシングを行うのが基本です。こまめにブラッシングをすることで、アレルゲンが付着した抜け毛と接触する機会を減らすことができます。
ブラッシングは毎日行って大丈夫ですが、猫の皮膚を傷めないようやさしく行うことが大切です。ブラッシングをすると猫の毛が大量に抜けるので、猫アレルギーを持っていない家族やトリマーさんなどにお願いすると安心ですね。
また、猫用のウェットティッシュや濡れタオルで猫の体を拭くだけでも、アレルゲンの軽減につながります」
今は安全で効果的な薬もたくさん。上手に活用を

海老澤先生「アレルギー症状がある場合、アレルギー反応を引き起こす体内物質のひとつ“ヒスタミン”の働きを抑える“抗ヒスタミン薬”を処方するのが一般的です。その他、鼻水やくしゃみがひどい場合はステロイド点鼻薬、目がかゆくて涙目になるなどの場合にはステロイド点眼薬なども使用します。ぜん息などの発作が起きた場合は、気管支拡張の吸入薬を処方することもあります。
ただし、いずれも症状を抑える対症療法でしかありません。アレルギーそのものに対する根治療法は、日本でも世界でもまだないのが現状です」
――猫と暮らしている場合は薬を長く服用することになりますが、問題はありませんか?
海老澤先生「抗ヒスタミン薬などは、アレルギー症状を抑え続ける意味で長く飲み続ける場合が多い薬です。薬自体が体に負担になることはありません。“体が薬に慣れてより強い薬が必要になりませんか?”と聞かれることもありますが、抗ヒスタミン薬は血中に長く留まるものではないので、そうした心配もいりません。
特に今は昔と違って、良い薬がたくさん開発されています。少し前までは、飲むと眠くなる薬も多くありましたが、最近は眠気が出ない抗ヒスタミン薬もあります。体に安全だからこそ薬として広く使われているので、ぜひ上手に活用してほしいですね。
ただし、症状や体質などによって服用する薬は異なりますから、医師に処方してもらうのが安心です」
アレルギー症状の出方は体調によっても大きく変わる
例えば、昨日お酒を飲みすぎて二日酔いの時、睡眠不足や風邪気味の日など、体のコンディションが悪い時には、アレルギーの症状が強く出ることが多くなります。
猫を飼っていて猫アレルギーを持っている場合は、自分の体調を管理することも大切な対処法の1つなのです」
――体調が影響するということは、体質を改善することでアレルギー症状を軽減することも可能なのでしょうか?
海老澤先生「体質を改善することは、簡単なことではありません。体調管理をして健康状態を保つことは自己管理と言えます。
また、アレルギー対策には、先ほどお話ししたアレルゲンを避ける方法以外に、 “アレルゲン免疫療法”というのがあります。逆にアレルゲンを上手く体内に取り込むことによって、症状が出ないよう慣らす療法で、このアプローチは一種の体質改善と言えるでしょう。
しかし、普通の生活の中で、食事やサプリメントを取るだけで体質が変わるほど、人間の体は単純ではありません。最近は、“腸内細菌の様相を変えることでアレルギーを予防したり、疾患そのものを治療できないか”といった研究もされていますが、まだ詳しいことはわかっておらず、証明もされていないのが現状です」
服部先生「腸内細菌のバランスについては、猫についても研究が始まっています。アメリカではすでに行われていましたが、日本では今年からスタートしました。
腸内細菌の様相から病気の早期発見ができるのではないかなど、さまざまな可能性が考えられていますが、こちらもまだ研究段階。今後に期待したいところですね」
猫アレルギーの人が猫と暮らすときに考えておくべきこと

海老澤先生「相談はとても多いです。特に、“家族にアレルギーを持っている者がいるけど、猫を飼っても大丈夫か”という相談は多いですね。
また、中学生や高校生の患者さんから、“将来、動物に関わる仕事につきたいが大丈夫か”という相談を受けることもよくあります」
――そういう場合、どのようなアドバイスをされるのでしょう?
海老澤先生「30年ほど前は、アレルギー専門の医師は患者さんに“ペットは飼ってはいけない”と伝えていました。
しかし、避ければ良いという単純なことではなく、現在は良い薬も多くありますし、自宅ケアの方法もいろいろわかってきました。さらに、前述したアレルゲン免疫療法など、新しい研究も進んでいます。ですから私は、“絶対に飼ってはいけない”とは言いません。
これから猫を飼いたいという患者さんに対しては、まず検査をしてアレルギーの有無を調べます。検査の結果で猫アレルギーが陰性の場合でも、“猫を飼っても大丈夫である可能性が高いが、実際に猫と触れ合ううちに猫アレルギーを発症するリスクはある”という説明をします。
それでも飼いたいという人には、猫カフェなどに何度か行って、猫と長時間触れ合ってみることをすすめています。確実なことは一緒に暮らしてみないとわかりませんが、ある程度は様子がつかめると思います」
――服部先生はいかがですか?
服部先生「自分たち獣医師は猫の命を守ることが仕事ですので、このような相談を受けたときに一番懸念するのは、やはり猫のことです。
猫を飼っている方の中にも猫アレルギーの方は少なからずいて、症状が軽ければいいのですが、中には症状が重く、猫を手放さざるを得ない方もいます。次の飼い主さんが見つればいいですが、中には保健所に連れて行って殺処分になってしまうケースも、残念ながらあるのが現実です。
先ほど海老澤先生が教えてくださった対処法を実践するなど、猫アレルギーと上手に共存する自分なりの方法を見つけて、猫アレルギーによって手放さざるを得ない猫が減って欲しいと思います」
海老澤先生「猫を飼うのも飼わないのも、最終的には自己責任だと思います。その自己責任とは、自分に対してだけのものではありません。“命あるものを飼う”ということに対しての責任もしっかり持つということを、よく考えていくことが大切ですね」
“命あるものを飼う責任”は、猫アレルギーに限ったことではないと服部先生はおっしゃいます。「もしかしたら自分も明日、何かの病気で倒れるかもしれません。そのとき、飼い猫をどうするか。しっかりと責任を持った行動がとれるように、普段から考えておきたいですね」
責任を持った行動をとるためにも、猫アレルギーの症状を感じたらまず検査をして、自分の状態を正確に把握すること。そのうえで、適切な薬を処方してもらったり、家でできる対策を行うなど、医師&獣医師の先生方と相談しながら、猫アレルギーと共存を考えていきたいです!

監修/海老澤 元宏先生
国立病院機構相模原病院臨床研究センター センター長
東京慈恵会医科大学医学部卒。
米国ジョンス・ホプキンス大学医学部内科臨床免疫学教室留学。
東京慈恵会医科大学大学院医学博士号取得。
2020年より国立病院機構相模原病院 臨床研究センター センター長。

監修/服部 幸先生
猫専門病院 東京猫医療センター院長
北里大学獣医学部卒業。2005年よりSyuSyu CAT Clinic院長を務める。
2006年にアメリカの猫専門病院 Alamo Feline HealthCenterにて研修プログラム修了。
2012年、東京猫医療センターを開院。2014年より「JSFM(ねこ医学会)理事。
『猫を極める本 猫の解剖から猫にやさしい病院づくりまで 』(インターズー刊)他、著書多数。
構成/ねこのきもちWeb編集室
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