猫と暮らす
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【獣医師監修】猫をストレスから守る方法とは?症状・原因・対処法
人との暮らしの中で、猫はいろいろなシーンでストレスを感じます。猫がストレスを感じると、それが原因となりさまざまな症状が表れ、場合によっては病気につながることもあります。一時的に感じる「急性ストレス」、継続的に感じ続ける「慢性ストレス」に分けて、その原因や症状、ストレスを軽減する方法などを紹介します。

長谷川 諒 先生
株式会社Ani-vet 代表取締役
保護猫施設専門往診病院 下京ねこ診療所 院長
動物病院京都 ねこの病院 所属獣医師
北里大学獣医生化学研究室 研究生
●所属:日本猫医学会/日本獣医腎泌尿器学会
●書籍(監修):『知っておきたい ネコの多頭飼いのすべて 獣医師が教える 幸せに暮らすためのポイント』メイツ出版 /『いちばんよくわかる猫種図鑑 日本と世界の60種』メイツ出版
どうして猫はストレスを感じやすいの?
狩猟動物である猫の五感は優れていて、あらゆる感覚を駆使して獲物を見つけ出し、狩りを行っていました。
その名残で現代の猫も周囲の変化にとても敏感で、刺激を目・耳・鼻などでキャッチするため、人との暮らしの中で起こる出来事にストレスを感じやすいといえます。また、過去に経験した嫌なことを記憶する能力も高く、同じ出来事が起こりそうなときにストレスを感じることもあります。
猫の鋭い感覚
猫の聴覚
猫の視覚
猫の嗅覚
猫の触覚
ストレス対処法の基本
いつでもストレスから逃げられるようにしておく
猫ベッドや高さのある猫タワーを用意する、押し入れの中に扉を開けたキャリーケースを入れておいていつでも入れるようにするなど、工夫してあげましょう。
なるべく回避できるようにしてあげる
やむを得ないストレスはごほうびを使って慣らす
継続的に行えば猫のストレス軽減になります。少しずつ慣れるようにしてあげましょう。
まだ子猫なら、早めに慣れさせるのがベストです。
急性ストレスの症状・原因・対処法
急性ストレスとは?
例えば、「来客」や「地震」など、猫が苦手なものに一時的に直面して、強い刺激を受けたときに感じるストレスを「急性ストレス」と呼びます。一過性のものなので、ストレスの要因が取り除かれれば、大事に至らないこともあります。
ただし、何度も繰り返されると「慢性ストレス」の症状が見られるようになります。
急性ストレスの症状
・心拍数が上がってドキドキする
・体温が高くなる、肉球が汗ばむ
・その場で固まる、もしくはどこかに身を隠す
・耳を伏せる
・瞳孔が大きく開く
・一時的に食欲が落ちる
・一時的に排泄の回数が減る
急性ストレスの原因と対処法
来客
【対策】お客さんに事情を話して、猫に声をかけたり触ったりしてかまうことは控えてもらって、猫にとって「何もせず害はない存在だ」とわかってもらうようにしましょう。隠れ場所をつくって猫が出てくるまで待つのもいいでしょう。
大きな音(掃除機やドライヤー、玄関チャイムの音、花火・雷、バイクや車のエンジン音)
【対策】やむを得ず音を出すなら出す前に猫に声をかける、掃除機を使う時には猫を別の場所に移動させる、音が小さいタイプの掃除機に替えるなどをするといいでしょう。
来客が苦手な猫にはチャイム音は「嫌なことが起こる合図」になっているかもしれません。家族が帰宅するときにもチャイムを鳴らすようにすると好きな人が来る音にもなり、チャイム音がいい印象にイメージを改善できます。
予測不能な大きな音への対策としては、やさしく飼い主さんが声をかけたり、押し入れの中や家具の下など、普段から猫の逃げ場をつくっておくといいでしょう。花火や雷は普段にない強い光と大きな音が同時に発生するため恐怖を感じます。猫のいる場所は音も光もさえぎられるように、窓とカーテンを閉めておきましょう。 パニックがきっかけとなり食欲がなくなるようなら早めに獣医師に相談してください。
動物病院
【対策】キャリーケースに布をかければ刺激が減らせます。飼い主さんが声をかけるのは、安心する猫もいれば余計に興奮する猫もいるので、猫の様子を見て判断してください。キャリーケースに入れるときや車に入れるときなど、愛猫の好きなおやつを小まめに与えて気を紛らわせるのも手です。暑い時期は脱水症状にもなりやすいので水分補給も忘れないようにしましょう。
乗り物
【対策】外出時はなるべく乗り物を使わずに済む方法を考えて、どうしても使わざるを得ない場合はなるべく短時間になるルートを考えましょう。
キャリーケース
無理やり中に入れられることや自分のニオイがあまり付いていないことも要因といえます。
【対策】キャリーケースを日常的に部屋に置いておき、中に猫が好きなおやつを入れておくと「いい場所」と印象付けられるでしょう。
シャンプー
特にしっぽやお尻、足の裏などの部位を拭かれるときに、その感触が嫌でストレスになるようです。
【対策】シャンプーは無理に行わず、猫への負担を減らしてください。また、拭くときには乾いたタオルで優しく拭きましょう。濡らさずにすむシャンプータオルを使うのも手です。
子ども
【対策】猫の行動範囲を優先してあげましょう。子どもの行動範囲はベビーゲートなどで制限して、猫が逃げたいときに好きな場所に逃げられるようにしておくと猫のペースで過ごせるようになります。長く続くと慢性ストレスになるので注意しましょう。
体を拘束されるお世話(ブラッシング、爪切り、耳掃除、歯みがきなど)
【対策】爪切りをするときには、飼い主さんの太ももの上で猫を後ろ向きにさせて抱っこをしましょう。自分の体を密着させると安定して、猫の不安感を減らせます。少し切ったらごほうびを与えるなどもよいでしょう。抱っこは長時間せず、猫から近づいたときだけにするのがいいでしょう。
歯みがきは、体を拘束されるほかに歯ブラシが目の前に迫ってくるのが怖いようです。飼い主さんに触られるのに慣れている猫であれば、飼い主さんの指先におやつを付けて口にモノが入る練習を行い、徐々に布歯ブラシなどに切り替えるといいでしょう。
ブラッシング自体は毛づくろいと同じ感覚なので、嫌がる猫は少ないはずですが、嫌がるなら時間が長いか、力が強いのかもしれません。またブラッシングもブラシのピンの部分が顔の近くに向かってくるように見えて怖いと感じている可能性があります。ブラシが見えないように背後から行ったり、ブラシより小さい歯ブラシでブラッシングしてみるといいでしょう。
無理にお世話を行うと飼い主さんを怖がるようになるので、難しい場合は動物病院にお願いするといいでしょう。
留守番
【対策】留守番のときだけの特別なおもちゃを用意してみましょう。そうすればそれが楽しみになります。けりけりおもちゃなど、一匹で楽しめるおもちゃなら、留守番の不安を感じにくいでしょう。
ペットホテル
【対策】できればペットシッターサービスを使いましょう。
ペットホテルなど環境が大きく変わることは、猫にとっては大きな負担です。ペットシッターさんなら慣れた場所で過ごせるので、ストレスの軽減になります。そのほか、身近の知り合いにお願いする方法もあります。
エリザベスカラー
【対策】顔周りが空くソフトタイプのエリザベスカラーを選んでみましょう。猫が嫌がって自ら外す場合は獣医師に相談しましょう。
カメラやスマホ
また猫のかわいい表情をおさめようと必死な人にしつこく追い回されるので、嫌がる猫やシャッター音が苦手な猫もいます。
【対策】写真を撮るときは、フラッシュをオフにして、サッと手短に撮るようにしましょう。
香水・芳香剤
【対策】芳香剤は、トイレや猫が入らない部屋などに置くようにしましょう。香水もできれば猫のいない場所で控えめに付けるなどの配慮をしましょう。
家族のケンカ
【対策】愛猫のためにも家族仲良く過ごしてください。
スキンシップ
【対策】スキンシップは短い時間で適度に行いましょう。
トイレが汚いこと
【対策】トイレはこまめに掃除してあげましょう。トイレの個数は「匹数+1」個あると安心です。
投薬
【対策】おやつに薬を入れ込んで与えてみましょう。柔らかいおやつをひと口で飲み込める大きさにちぎり、中に薬を入れ込みます。下から手を出して与えると、手が迫ることなく、顔を押さえられることもないのでいいでしょう。
特定の家族
【対策】意識的に静かに歩いたり、声を小さくして話したりするといいでしょう。
慢性ストレスの症状・原因・対処法
慢性ストレスとは?
慢性ストレスの症状
・ずっとイライラしている、もしくは神経質になった
・体をしつこくなめる
・体形に変化が見られる
・部分的に脱毛している
・頻繁に嘔吐をする
・下痢が続く
猫が慢性ストレスを長く感じ続けると、病気の原因になってしまうことも。慢性ストレスが原因となり発症しやすい病気を紹介します。心配な病気もあるので知っておきましょう。
皮膚炎
特発性膀胱炎
胃腸炎
猫カゼ
慢性ストレスの原因と対処法
飼い主さんにかまってもらえないこと
【対策】猫から近づいてきたときはなるべく応えるようにしてあげましょう。毎日5分でもいいので猫と遊ぶと、狩猟本能が満たされてストレスを感じにくくなります。
また、長期休暇の終わりも注意が必要です。夏休みなど長期休暇中はともに過ごす時間が増えます。しかし、休みが明けて仕事などに復帰した途端、猫が飼い主さんの不在を寂しく思うようになります。休暇の終わりが近づくにつれて、少しずつ距離をとるようにするといいでしょう。
おもちゃも普段はしまっておき、使う時だけ出すようにすると、猫はより刺激を感じてくれるでしょう。おやつがびんに中に入ったおもちゃなど、1匹で遊べる工夫をしてみるのもおすすめです。
新しい猫が家にいること
自分の縄張りに新しい猫が現れると、安心できる場所が減るので、敵に縄張りを荒らされるような恐怖感で大きなストレスにもなります。新しい猫を受け入れるまでは様子をうかがい、ストレスを感じ続けることになります。
その期間が長くなると慢性ストレスの症状が表れ、対策が必要になります。
【対策】新しい猫を迎えるときは対面のさせ方が大切なので、慎重に行いましょう。
新入りの猫をしばらくケージや他の部屋で過ごさせて、先住猫の様子を見つつ、徐々に対面時間を延ばしていきます。対面させるときはまずは先住猫を別の部屋やケージに入れて新入り猫を探検させます。その後、新入り猫をケージに入れて、先住猫と対面させます。
とはいえ、最後まで距離が縮まらない場合もあるので、トライアル期間を経てから迎えるといいでしょう。
ノラ猫や仲が悪い同居猫
同居猫も仲が悪いと、同じ縄張りにいることがストレスになります。
猫は縄張り意識の強い動物なので、気を許していない同居猫が自分の縄張りに侵入してくると相性が悪くなりストレスになります。その結果、ちょっと鉢合わせしただけで威嚇するようになることもあります。
【対策】ノラ猫の場合は、窓ガラスにノラ猫が見えないような目隠しシートを貼るといいでしょう。目が合わないのでストレス軽減になります。
仲の悪い同居猫同士は、仲をいきなり改善することは難しいもの。まずは2匹が鉢合わせしないように気を使いましょう。猫たちの仲の悪さにもよりますが、時間を区切ってケージを利用したり、部屋を分けたりすることで、改善される可能性も少なくありません。
また猫にとって生きていく上で、食事や排泄は大事なことです。その時間だけでもストレスフリーに過ごせるように、フードを順番に与えたり、トイレを離れた場所に置いたりするなど、スペースを分ける工夫をしましょう。
新しい家族が増えること
【対策】猫は大きな声を出すので子どもが苦手なことも。無理に対面させず、生活スペースを分けるといいでしょう。
引っ越し
【対策】居住環境が変わるのはやむを得ませんが、それ以外のところはできるだけ変化がないようにしたいものです。猫のグッズは使い慣れたものを持って行きましょう。猫ベッドやトイレなど猫のニオイが付いて、使い慣れたグッズを新しい部屋でも使うと安心します。
引っ越し後も変に気を使ったりせず、前の家でしていた通り、放っておいて気のすむまで探検させてください。安全だとわかれば、新居を徐々に自分の縄張りだと思うようになります。
可能なら、引っ越し前に何度か猫を連れて行って探検させたり、引っ越し先で一段落したあとに呼び寄せたりなど、猫の移動のタイミングも工夫するといいでしょう。
部屋の模様替え
【対策】猫には一大事の模様替えでも、部屋を自由に行き来できるようにしておけば、自分で勝手に安心できる場所を見つけて心を落ち着けるでしょう。多くの猫はしばらくすると新しい環境になれてきます。ですから、飼い主さんも神経質になり過ぎないように気をつけましょう。
猫が新しい環境に慣れようとしているときに、大きな音がするなどさらに苦手なことが起こると、新しい空間を怖いと認識するようになります。怖がりな猫の場合は、大きな音を出さないように特に注意しましょう。
文/ねこのきもちWeb編集室
参考&画像・イラスト出典/「ねこのきもち」本誌、ムックより
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