猫と暮らす
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猫の「乳がん」の治療法、手術、費用は?飼い主がすべき判断とは

小林 哲也 先生
公益財団法人 日本小動物医療センター付属 日本小動物がんセンターセンター長
日本獣医生命科学大学非常勤講師
米国獣医内科学専門医(腫瘍学)
アジア獣医内科学専門医(小動物)
●経歴:
1994年 日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)を卒業後、米国インディアナ州パデュー大学で臨床研修を開始
1998年 米国ノースカロライナ州立大学獣医学部腫瘍科レジデント課程、および同大学修士課程を開始
2001年 同大学レジデント課程および修士課程を修了
同年 米国獣医内科学専門医(腫瘍学)として認定(日本人第1号)
同年8月 日本へ帰国
2002年4月~ 日本獣医生命科学大学非常勤講師
2004年10月~ 日本小動物医療センター付属日本小動物がんセンターセンター長
2010年~ JVCOG 日本獣医がん臨床研究グループ代表
2011年~ JFVSS 日本獣医学専門医奨学基金代表理事
2015年~ AiCVIM アジア獣医内科学専門医(小動物)および アジア獣医内科学専門医協会会長
2015年〜 JSFM ねこの医学会理事
2017年〜 日本獣医がん学会理事
●所属:埼玉県獣医師会/米国獣医内科学学会/米国獣医がん学会/日本獣医がん学会(理事)/日本臨床腫瘍学会/日本癌治療学会
でも、もしもマッサージでしこりが見つかった時は、どうしたらいいのでしょう?
そこで、“乳がんで苦しむ猫をゼロにする!”を掲げる「キャットリボン運動」の発起人で、JVCOG代表理事の獣医師・小林哲也先生に、猫の乳がんの診断から治療まで、飼い主が知っておくべきことを教えてもらいました。
受診の際は “猫の乳腺腫瘤マップ”で獣医師に相談を
しこり(腫瘍:しゅよう)らしきものを見つけたり、何か気になることがあったら、先延ばしにしないですぐ検査を受けることが大切なんですね。
「受診する際には、下の“猫の乳腺腫瘤(にゅうせんしゅりゅう)マップ”に見つけたしこりの位置と日付、だいたいの大きさ、気になったことなどを記入して持っていくといいでしょう。これを獣医師に渡すことで猫ちゃんの様子を的確に伝えられ、診察がスムーズに進められます」(小林先生)
■猫の乳腺腫瘤マップ
最初の検査は、まずしこりが悪性かどうかをチェック
「針生検にかかる時間は、準備も含めて10分程度です。針を刺した部分に内出血が認められることがありますが、大きな問題はほとんど起こりません。針を刺すのはかわいそうに見えますが、現在のところ、これが猫ちゃんの体への負担が最も少なくて簡便な検査なので、安心して受けてください」(小林先生)
結果が出るまでには通常、数日から1週間程度かかるとのこと。この間、特に生活で気をつけることはないそうなので、猫ちゃんをゆっくり休めてあげましょう。
乳がんの場合は、より精密な検査で転移の有無などを確認
猫の場合、転移のリスクが高く、乳がんの初診時のリンパ節転移率は20〜42%にものぼると報告されています。転移はリンパ節や肺に最もよくみられますが、肝臓、腎臓、脾臓などのケースもあります」と小林先生。
転移しているかどうかは、生存期間に大きく関わってくる重要なことなので、獣医師さんと相談しながらしっかり検査してあげたいですね。
乳がんの主な治療法は「手術」と「術後の薬物治療」の2つ
小林先生は「治療は獣医師とよく話し、納得したうえで進めることが大切です」とおっしゃいます。納得するには、飼い主も治療のことを知っておくことが必要です。そこで、代表的な治療方法2つについて教えていただきました。
再発を防ぐため「乳腺片側切除」を行うことが重要!
乳腺はリンパ管という組織でリンパ節とつながっていて、手術で一部分だけ取っても、リンパ管内やリンパ節に乳がんが残ってしまう可能性があります。そのため、下図の“乳腺片側切除”のように、乳がんができた側の乳腺全部を取ったほうが、術後の再発を防ぐことができ、長生きする可能性が高いと言われています」(小林先生)
でも、それでは猫ちゃんを本当には救うことにはならないのが現実です。小さな手術は当面の負担は軽くても、再発などでまた手術をしなければならなくなったり、最悪の場合には転移によって命を落とす可能性もあるのです。
小林先生も「 “乳腺片側を切除しましょう”という獣医師の提案を、“まだしこりが小さいから” “高齢の猫だから” “かわいそうだから”という感情だけで断らないでください。
本当にかわいそうなのは、術後間もなく再発してしまい、猫が苦しんでしまうことだと思います」とおっしゃいます。
家族が「ノー」と言えば、獣医さんは手術ができません。感情だけで否定せず、猫ちゃんの将来を考えてあげたいですね。
手術に際しては、痛みを緩和するために数日〜1週間程度の入院が必要になります。手術費用は病院によってまちまちなので、かかる病院に最初に確認しておくと安心です。
手術後、リスクが高い場合は「抗がん剤治療」も
「ただし、猫の乳がんの術後化学療法については、実施したほうが長生きするというデータもなければ、実施しないほうがよいというデータもありません。つまり、現時点では十分な情報が不足している状況なのです。
しかし、だからと言って転移のリスクの高い状態で猫ちゃんを放置しておくことはできません。少なくとも高リスクの状況にある猫ちゃんに対しては、原則的に術後4回程度の化学療法をおすすめしています」(小林先生)
人間の抗がん剤治療では、 “髪が抜ける” “吐き気が強くてつらい”などの副作用の話をよく耳にしますが、これについても猫の場合は未知数な場合が多いとか。副作用がない子もいれば、入院治療が必要なケースもあるなど、個体差が大きいのだそうです。
いずれの場合でも、化学療法の実施は獣医師さんと飼い主が相談して決めます。手術と同様、感情に流されず必要な治療をしっかりさせてあげたいですね。
こうした活動に私たち飼い主も、チャリティーを通して支援することができます。
チャリティーには1,000円から参加でき、寄付した方には、乳腺のしこりの大きさチェックの目安になるオリジナルピンバッジが送られます。
詳しくは、下記の公式サイトにてご確認くださいね。
文/かきの木のりみ(ライター)
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