新しい猫を迎え入れる理由や動機は、「今いる猫の遊び相手が欲しい」「保護してあげたい猫がいる」「かわいい猫たちに囲まれたい」など、人それぞれでしょう。
しかし、いざ多頭飼いを始めてみると、こんなはずではなかったと思うケースも少なくないようです。そこで、飼い主さんも猫達も幸せに暮らせるように、多頭飼いのメリットとデメリット、実際に多頭飼いをするための心構えや注意点などを考えてみましょう。
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猫の多頭飼いの魅力とメリットとは?
◯猫にとってのメリット
猫同士仲良くなれれば、遊び相手が増えるので、追いかけっこをするなど運動不足が解消されたり、留守番中の寂しさが緩和されたりするなどのメリットが考えられます。また、同居猫を頼りにしたり甘えたりするかわいい様子が見られることもあります。
◯飼い主にとってのメリット
飼い主さんにとっては、可愛い猫の姿をよりたくさん見ていられるというだけで嬉しさが増すことでしょう。それぞれの違った仕草を見るのも楽しいですし、猫同士がじゃれあったり、体を寄せ合って寝ていたりする姿を見ているだけで、幸せな気分になれますね。
猫の多頭飼いのデメリットとは?
デメリットを考えるということは、多頭飼いに対して消極的な考えを持つということではありません。デメリットをしっかり理解することは、多頭飼いの問題解決の糸口になり、猫達の健康や安全を守ることにも繋がるのではないかと思います。
猫にとってのデメリット
基本的に単独行動を好み、環境の変化をあまり好まない猫にとって、新しい猫が増えることはストレスになることがあります。大好きな飼い主さんとの時間が減る、安心して食事ができない、お気に入りの場所でゆっくり休めないなどが続くと不安になったり、落ち着かなくなったりします。
そして、このストレスが、スプレーなどトイレ以外での排尿や、好ましくない場所での爪とぎなどの問題として現れることがあります。食欲の低下、下痢、膀胱炎のように健康に影響をおよぼす状態になることもあります。
ストレスを感じている猫に少しずつでも慣れてくる様子が見られるのであれば、問題を減らす工夫をし、健康に注意しながら、時間をかけて見守ってあげることが大切です。しかし、猫同士の相性が悪く、どうしてもお互いが受け入れられない場合もあります。別々の部屋で過ごさせたり、ケージに隔離したりという選択をしなくてはならないこともあると考えておかなくてはいけないでしょう。
飼い主にとってのデメリット
トイレや食事などの管理が難しくなることが考えられます。例えば、1つのトイレを複数の猫が使用していると、異常な便や尿を見つけても、どの猫のものなのかわからないことがあったり、飼い主の留守中に吐いたり、出血した跡を見つけても、具合の悪い猫を特定するのに時間がかかってしまうことがあるでしょう。
また、療法食を食べさせる、絶食をするといった特別な管理を1匹だけにしなくてはならない場合に対応が難しいこともあります。
スプレーや爪とぎなどの問題行動が増えてくると、飼い主さんの生活にも影響が出てくることがあるでしょう。
多頭飼いにおける猫同士の相性について
せっかく新しい猫を迎えるのですから、先住猫と仲良く暮らしてもらいたいと思うのは当然だと思います。相性が良ければ、仲良くなるのにあまり時間がかからず、良い関係が築けることが想像できますね。逆に相性が悪くケンカが絶えないと、長年同じ屋根の下で暮らしていても顔を合わせることもできないといったことがあるかもしれません。実際の猫同士の関係は、生活を始めてみなければわからないものですが、新しい猫を選ぶ段階で、先住猫との相性を考えてあげることも大切なことではないでしょうか。
先住猫の性格を考えよう
新しい猫を迎えたいと考えた時に、最初に先住猫が新入り猫を受け入れやすい性格かどうかを考えてあげましょう。
デメリットの例でも挙げたように、新入り猫が先住猫のストレスになってしまうと、下痢や膀胱炎など健康に影響でたり、ずっと別々の部屋で過ごさせなければならない状況になってしまうこともあります。先住猫が神経質だったりひどく怖がりだったりする場合や、飼い主さんへの依存が大きい場合などは、新しい猫を迎え入れたら、先住猫にどのような影響があるかを慎重に考えてあげましょう。
先住猫と新入り猫の相性が良い組み合わせ
一般的に相性の良い組み合わせとして知られているのは、子猫同士、成猫と子猫、成猫オスと成猫メスです。
・子猫同士…まだあまり縄張り意識が強くありませんし、お互いを遊び相手として、じゃれ合っているうちに仲良くなれるでしょう。
・成猫と子猫…5歳くらいまでの若い猫でしたら、自分の敵にはなりにくい子猫を遊び相手として受け入れやすいでしょう。
・成猫オスと成猫メス…争いやトラブルが比較的少なくお互い受け入れやすい組み合わせです。
先住猫と新入り猫の相性が良くない組み合わせ
特に注意したい組み合わせとして知られているのは、成猫のオス同士や、高齢猫と子猫です。
・成猫のオス同士…縄張り意識が強く喧嘩やスプレーなどの問題行動が起きやすいことが心配されます。
・高齢猫と子猫…元気に走り回り遊びたい盛りの子猫の動きは、ゆっくり過ごしたい高齢猫のストレスになることがあります。時には強いストレスが病気の引き金になることもあるので、高齢猫に対して充分な配慮が必要になる組み合わせです。
猫同士の関係に影響するもの
一般的に相性が良いと考えられている組み合わせでも、スムーズに馴染めなかったり、逆に相性が良くない組み合わせでも仲良く暮らせたりする可能性もあります。猫同士の関係を作り影響するものとして、性格や相性の他にも、顔合わせのタイミングや方法、猫の数に合わせた環境作りなども考える必要があるでしょう。
猫の多頭飼いをするまでの準備とは?
一緒に暮らし始めたら、新入り猫に、なるべく早く新しい環境に慣れてもらいたいものです。そのためには、迎え入れる当日になって慌てることが無いように、できることは事前に準備しておきましょう。
準備をする上で、先住猫が今まで通りの生活が送れるように考えてあげるのも大切です。トイレや食器などにこだわりを持つ猫は少なくありません。新入り猫が好き放題に使ってしまうと、先住猫のストレスになる可能性があります。
新入り猫とのスキンシップ
知り合いや保護施設から迎え入れる場合、可能であるならば、トライアルや迎え入れる前に何度か訪ねましょう。猫が慣れている環境でスキンシップを重ねておけば、新しい環境に移っても早く落ち着くことができるでしょう。
先住猫に対して出来ること
新入り猫を迎える前にその新入り猫のニオイがついた布やおもちゃを家に置いてみましょう。新入り猫と対面する時の先住猫の警戒心や不安を少なくできるかもしれません。
ケージの用意
新入り猫は、慣れるまでケージなどで飼う方が良いでしょう。知らない環境で不安になったり興奮している場合は、隔離して落ち着かせてあげましょう。必ずしもケージでなければいけないわけではありませんが、寝床と食事とトイレを置ける広さがあり、猫の健康状態を確認することができて、場合によっては布などで周りから目隠しできるものが良いですね。
先住猫との対面も、ケージ越しから始めると、威嚇やケンカになったとき、大事にならずに済みます。
トイレの用意
トイレの数は同居猫の数+1が理想です。先住猫が使っているトイレはそのままに、新入り猫に新しいトイレを用意して、別の場所に設置すると良いでしょう。しかし、設置スペースが無かったり、理想の数だけのトイレを用意できなかったりこともあるでしょう。また、新入り猫がせっかく用意したトイレを使わずに、先住猫と同じトイレを使いたがることもあります。このような場合は、清潔に保って、いつでも気持ちよく使えるように、今まで以上にこまめにトイレの掃除を行う覚悟でいましょう。
食器・フード
食事は猫たちにとって楽しいもののはずです。同居猫が増えてもそれぞれが安心して十分に食べられるようにしてあげたいですね。
先ず、食器は新入り猫用に別の物を用意しましょう。先住猫と新入り猫の年齢が離れているか、どちらかが療法食を利用しなくてはならない場合は、フードも新しく用意する必要があります。せっかくそれぞれに合ったフードを用意してもお互いのフードを食べてしまうことがあります。特に子猫は遊び感覚で他の猫のフードをとりたがることが多いので、自分のフードをしっかり食べられているかどうかを、チェックしなくてはならないかもしれません。
スペースの確保
それぞれが自分のフードを落ち着いて食べられていないようでしたら、食事の時間は離してあげた方が良いでしょう。また、ケガをするようなケンカやストレスによって健康に影響がでている猫がいる場合も同じスペースで過ごさせるのは難しくなります。このような事態になったときに、別の部屋が用意できるか、または隔離できる場所はあるかも考えておかなくてはなりませんね。
新しい猫がやってきたら、まず顔合わせを使用
新しい猫の迎え入れを決めたからには、同居する猫同士になるべく早く仲良くなってもらいたいですよね。しかし、焦りは禁物!顔合わせは猫たちの様子に合わせてゆっくり進めていきましょう。たとえ一回の顔合わせでうまくいかなくても、諦めずに何回も試してみることも大切です。
猫達の環境はそれぞれ違うと思いますが、新入り猫をケージで隔離した状態から顔合わせを始めるとスムーズに進むことが多いでしょう。
顔合わせのステップ・1
慣れるまで、新入り猫はケージなどで隔離しておきましょう。ケージは別の部屋に置き、布などを使って先住猫から見えないように工夫し、新入り猫の気配だけを感じとれるような状態で何日か過ごさせましょう。先住猫が落ち着いて普段と同じ生活をしていたら次のステップに移ります。
顔合わせのステップ・2
先住猫が、距離を保ったままケージの中の新入り猫の姿を見ることができる状態を作ってあげましょう。先住猫を自由に行動させて、興味をもってケージに近づくまで待ちます。ケージ越しに威嚇したり、手を出すような行動をしたりするかもしれません。しかし、猫達に大きなストレスが見られなければ、猫同士が仲良くなるための自然な行動として見守ってあげてください。
顔合わせのステップ・3
先住猫が、ケージの中の新入り猫に威嚇しなくなり、ケージの周りでのんびりした姿を見せるようになったら、いよいよ新入り猫をケージから出してあげましょう。
新入り猫が部屋の中で自由に動き始めると、再び威嚇し合ったり追いかけっこをしたりすることがあります。大事にならないように、新入り猫をケージから出す時間は数十分から始めて徐々に伸ばしていくと良いでしょう。威嚇や追いかけっこは猫同士の関係を築く過程だったり、遊びの延長だったりすることもあります。猫達に怪我や体調の変化が見られないようでしたら、ある程度は自由にさせてあげましょう。
顔合わせステップの途中でつまずいたら
ステップを進めていくと、ケンカが絶えなかったり、体調不良になったりする猫が現れて、「このまま放っておくのは危険」と感じることがあるかもしれません。このような場合は一つ前のステップに戻って、顔合わせのやり直しをしましょう。猫達の様子によっては、ステップを行ったり来たりしなくてはならないこともありますが、充分に時間をかけてゆっくり進めていきましょう。
顔合わせが成功したら
顔合わせが成功してからといっても、威嚇やケンカが全くなくなるというわけではありません。万が一ケンカになった時のために逃げ場所を確保しておいてあげると安心です。お気に入りの隠れ場所は、それぞれの猫によって異なります。日ごろの行動を見て、隠れ場所になるようなところは自由に出入りできるようにしておくと良いですね。
成猫でしたら仔猫が登れないような高い場所を開放してあげましょう。子猫を高いところから見下ろすことで精神的優位も保てるでしょう。子猫には、成猫が入れないような狭い場所を用意してあげると良いですね。
猫は一度隠れ場所に入ってしまうと、なかなか出て来ないことがありますが、そっとしておいてあげてください。気持ちが落ち着いて自分から出てくるようになるまで待つようにしてあげましょう。
先住猫への気づかい
顔合わせの最中も顔合わせが成功してからも、先住猫を尊重することが大切です。先住猫が落ち着いて生活できてこそ、新入り猫とも仲良くできるようになります。
急激な環境の変化で神経質になっている先住猫は、飼い主さんが新入り猫を何気なく抱っこするだけでやきもちを焼いたり、不安を感じていたりすることもあるようです。今まで以上にかわいがり、「なんでも優先してあげる」という気持ちで接するように心がけましょう。
猫を多頭飼いする際の、飼い主の心構えと注意点とは?
「多頭飼い」と一言でいっても、同居猫の数には幅があり環境も異なります。飼い主のとらえ方や猫が受ける影響も様々でしょう。しかし、同居猫の数が増えればその分、飼い主の責任や負担は必ず大きくなるはずです。新しい猫を迎える前に、もう一度、飼い主としての心構えと責任を考えてみましょう。
警戒している新入り猫に、飼い主がしてあげられること
新しく迎える猫が子猫の場合は、新しい環境に慣れやすく、先住猫に対しても警戒心を持つことは少ないでしょう。しかし、保護された成猫や長い間ノラ生活をしていた猫の場合は、新しい環境に慣れるまで時間がかかることがあります。飼い主に対しても威嚇し、警戒して近づいて来ないことも少なくないようです。
成猫は出会う前の時間が長い分、慣れるのにも時間がかかると考えて、猫の警戒心が解けるまで待ってあげましょう。猫のペースに合わせてゆっくり接してあげる方が、かえって猫と仲良くなれる近道かもしれません。
ストレスを感じている先住猫に、飼い主がしてあげられること
トライアルや顔合わせの最中ではスムーズに受け入れたかのように見えても、徐々に問題行動があらわれたり、前回の新入り猫とは仲良くできたのに今回は嫌がったり、一見受け入れて仲良くなったように見えても突然体調を崩したりと、しばらく後になってから先住猫に様々な困りごとが出てくることがあります。また、新入り猫が加わったことによって、今まで安定していた先住猫達の関係も変化して仲が悪くなることもあります。前は出来ていたのに、今までは問題なかったのにという思いで、猫の行動をしつけし直せないかと考える飼い主もいるようです。しかし、多頭飼いによって生じる問題はしつけやトレーニングで解決できるものではありません。飼い主自身の生活に影響が出ないように工夫しながら、猫が何に対して不安になっているのか、困っているのかを見つけて解決するように努めるしかありません。
仲良くできない猫達に、飼い主がしてあげられること
先住猫のストレスが少なくなれば、新入り猫を受け入れやすくなるのは確かです。それでも、どうしても仲良くできないことがあります。飼い主にとってはそれぞれが可愛い存在ですので、なんとか仲良く過ごしてもらいたいと思うのは当然です。しかし、飼い主が介入して猫同士の関係を改善するのは難しいものです。飼い主が猫たちにしてあげられることは、安全と健康を守ることだけ、猫達が暮らしやすいように環境を整えた後は、猫同士に任せて見守るしかありません。
時間をかけても新入りの猫と先住猫が仲良くなれなかった場合、ずっと別々の部屋で飼い続けることは可能か、最悪の場合は手放す事態になるかもしれないなど、よく考えておく必要がありますね。
健康のために、飼い主がしなくてはいけないこと
同居猫の数が増えると、感染症や伝染病の危険性が高くなります。体調の悪い猫を見つけたら、なるべく早く受診することを心がけましょう。様子を見ているうちに、他の猫にうつってしまうことがあるかもしれません。ゆっくり休めない環境で過ごしていると回復が遅れたり重症化したりしてしまうこともあります。また、ワクチン接種、ノミやダニの予防、消化管寄生虫の駆除や予防なども定期的に行うことが望ましいでしょう。
安心と安全のために、飼い主がしなくてはならないこと
新たに猫を迎える前に、更に猫が増えても充分に世話をしてあげられるか、安心して安全に生活できるスペースは確保できるか、環境を整え、健康を維持するための費用に問題はないかを確認しましょう。充分な世話ができず不衛生な状態になると、病気が増えたり、病気の発見が遅れたりする可能性があります。不安や恐怖を感じた時や体調不良時に、猫は安心して休める場所や隠れる場所を求めます。このような場所が確保できないと猫にストレスがたまって、様々な問題の原因になってしまいます。
繁殖を考えていない場合は、去勢手術、避妊手術を行うことをお勧めします。猫は1回の出産で平均して3匹~5匹生みます。1匹だけだったら大丈夫と思って迎え入れても、出産が繰り返されると、あっという間に増えてしまいます。また、同居猫の中で繰り返し交配がおこなわれると奇形や先天的疾患をもつ子猫が生まれる可能性が高くなると考えられています。
猫と一生涯共に暮らすには
動物愛護管理法では、「動物所有者の責務として動物がその命を終えるまで適切に飼養する」という終生飼養の考えが明記されています。確かに、一度飼い始めた動物は、できる限り一生涯面倒をみることが望まれます。もちろん、誰もがそのような気持ちで新しい猫の迎い入れを考えるでしょう。しかし、同居猫の数が増えて猫達の健康や安全が守れなくなるなど、適切に飼えなくなった時には、里親を探したり元の飼い主に戻したりするなど、辛い決断が必要になってくることがあります。
自分はどこまでなら、猫達の一生涯に責任を持てるのかをよく考えて、人も猫も幸せになれる多頭飼いをしたいですね。