猫のための施設「愛護棟」が完成した…。そんな話を聞きつけて、訪れたのは神奈川県の「横須賀市動物愛護センター」。地域猫や子供たちの未来を見つめて活動するじつに猫への愛を感じる場所でした。
*記事内容はすべて、2024年2月1日現在のものです。
小さな一歩を踏み固め、 時代を重ねてきた施設
「なにぶん小さい施設なもので、見どころが少なくてスミマセン」と言いながら案内してくださったのは、所長の高義浩和さん。この横須賀市動物愛護センター(以下、センター)は工業地域に隣接した、閑静なエリアに佇む小規模な施設です。敷地内には’09年に建てられた本館と、’23年6月に完成したばかりの愛護棟の2棟が並んでいます。愛護棟は、通称"猫舎"。身寄りのない市民の方の「動物愛護に生かしてほしい」という思いが込められた遺産を受け継いで完成に至った建物で、譲渡希望者が見学する際の展示室を兼ねた猫の飼育室や、イベントなどに活用できるホールなどを備えています。
「このセンターは、動物愛護の精神を発信する拠点です。譲渡の促進にも積極的に取り組んでいます。’99年に私が入職したときは、おもな仕事といえば殺処分でした。それ以前、私は獣医師として動物病院で働いていたこともあり、心の葛藤を抱えながら仕事と向き合う中で、まずは飼育環境を改善するべく『掃除用のデッキブラシを買ってほしい』と希望を出し、長期戦の末に許可が下りました。その後も『薬がほしい』『不妊手術をしたい』などの希望が1つずつ叶っていき、愛護棟もできた今、少し理想形に近付いたように思います」と、高義さんは話します。
今、センターにはどんな猫が暮らしているのか
訪れたとき、愛護棟にいたのは3匹。キャットウォークが配されたプレイルームのような部屋には飼育放棄された2匹が、テレビの模型が置かれたリビングルームのような部屋には"みけにゃん"が暮らしていました。
「みけにゃんの部屋にあるテレビは、職員が手作りしました。人と一緒に暮らす様子がイメージできる空間です」
猫にとっては居心地よく、見学者にとっては窓越しに猫の姿がよく見える機能性の高い造りになっています。
「今、愛護棟にいる3匹のほかには、本館の飼育室に成猫4匹、別室のケージに子猫2匹を収容しています。本館よりも愛護棟の飼育室の方が新しくてゆったりとした造りになっているので、人に慣れている、トイレが上手く使えるなど、展示に適した状態の猫はできる限り愛護棟に移せたらと思うのですが、簡単ではありません。とくに多頭飼育崩壊の現場から来た猫は、心まで崩壊していることも多くて」
1年前に市内で多頭飼育崩が起こり、38匹の猫がセンターにやってきたそうです。そのうち2匹は亡くなり、あとは次々と引き取られていって、現在残っているのは本館にいる3匹と愛護棟の"みけにゃん"のわずか4匹。
「最近は年間の収容数が少なくなり、譲渡先が見つかりやすくなりました。子猫ともなると1匹に対して複数組から譲渡希望があります」と、高義さん。
聞けば、子猫の"争奪戦"が起こるようになったのは、「地域猫活動」の成果なのだとか。その活動の詳細は別記事「地域猫を増やさないための動物愛護センターの2つの取り組み」にてご紹介します。
お話しをお伺いした人/横須賀市動物愛護センター所長 高義浩和さん
出典/「ねこのきもち」2024年4月号『ねこのために何ができるのだろうか』
撮影/後藤さくら
取材/野中ゆみ
※この記事で使用している画像は2024年4月号『ねこのために何ができるのだろうか』に掲載しているものです。