三重県津市にある「あすまいる」は人と動物の共生を目指し、2017年5月に開所しました。お互いが幸せに暮らすために考えられた施設の活動や取り組みなどを取材しました。
※記事内容はすべて、2020年4月10日現在のものです。
念願叶って、3年前に開所した「あすまいる」
三重県・近鉄久居駅から車で約15分のところにある三重県動物愛護推進センター「あすまいる」(以下、センター)は、3年前に開設したばかりの新しい施設です。
これまで、県内10カ所の保健所が中心となり、譲渡や動物愛護教室の開催など、さまざまな取り組みを進めてきたという三重県。しかし、実際に動物愛護施設を拠点として活動している自治体と比べると、センターがないことの不便さを感じることも。こうした問題を解決すべく、センター設立に向けて再三の検討を重ね、さらには県民の動物愛護に対する関心の高まりを受け、‘16年ついにセンター建設計画が始動。岐阜県や名古屋市など他都市の愛護施設の構造や運営を参考にしながら、計画を進め、ようやく完成にこぎつけました。
「他県に遅れを取っていた譲渡活動にもようやく本腰を入れられるようになりました。2023年度までに殺処分ゼロという目標を掲げていますが、それに向けて私たちにできることを日々考えています」とセンター所長の久米さん。公募で決まったセンターの愛称「あすまいる」は、「アニマル・スマイル」を意味する造語で、動物、人、すべてに笑顔が広がるようにという思いが込められています。その願いを叶えるために、センターはさまざまな活動に取り組んでいます。
譲渡の機会を増やすべく、人が来やすい温かみのある施設に
センターは保健所に収容された猫や犬の譲渡を目的とし、施設のデザインや活動にも工夫が凝らされています。
施設に一歩足を踏み入れると感じられるのが、木材の香り。「こうした施設はどうしても冷たいイメージをもたれがちですが、木のぬくもりから、県民のみなさんには親しみやすさを感じてもらえると思います」(久米さん)。随所に使われている木材は、三重県産のものなのだとか。ほかにも収容された猫が見学できる「ねこのへや」の猫タワーや猫ベッド、そして飼育管理のケージにも同様に木材が使われています。
また、譲渡の実績にも、ある特徴が。このセンターが譲渡した猫の数は、過去2年間で約550匹。ときには庁舎などで出張譲渡会を開催し、着実にその数字を伸ばしているものの、他県の実績と比べると、その数はやや少なめです。
「このセンターでは、猫の譲渡が完了するまでに、誓約書の記入や、飼い主さんの自宅で人や先住猫との相性を見るトライアルなど、譲渡希望の方には何度も施設に足を運んでもらうような工程にしています。それは、あえて譲渡までに時間をかけることで、飼い主さんに命を迎える覚悟を問うためです。その方に今後、“町のお手本飼い主さん”になってもらえるくらい、猫を愛してもらいたいのです。センターを卒業した猫たちが再びここに戻ってこないためにも、数字にはとらわれない、確かな譲渡を目指しています」と久米さんは話します。
そのほか、センターでは地域で暮らす猫の不妊手術事業という新たな試みにも挑戦。今後の展望をうかがうと、「災害時の動物救護体制の整備や、保護した子猫を救うために一時預かりを行う飼育ボランティアの制度づくりなどを検討しています」とのこと。“アニマル・スマイル”を増やすため、センターは今日も新たな試みに挑戦し続けます。
参考/「ねこのきもち」2020年6月号『猫のために何ができるのだろうか』
文/ねこのきもち編集室
撮影/尾﨑たまき
※この記事で使用している画像はねこのきもち2020年6月号『猫のために何ができるのだろうか』に掲載されているものです。