小笠原諸島は、2011年にユネスコの世界自然遺産に登録されたのを知っていますか? この美しい島々で人と野生動物、そして猫が共生するために行われている、あるプロジェクトを紹介します。
※記事内容はすべて、2020年8月10日現在のものです。
きっかけは島の野生動物を守るため
小笠原諸島は東京都の一部で、都心から南に約1000㎞に位置し、30あまりの島々から成り立ちます。この島で、2005年に問題になったのが、母島の南崎にある海鳥繁殖地が野生化した猫によって消滅の危機にあるということ。さらに同年の冬、父島でも小笠原諸島にのみ生息するアカガシラカラスバトが野生化した猫に狙われ、絶滅の危機に瀕していることも判明しました。島の鳥を守るべく、行政と島民ボランティアにより、野生化した猫5匹を保護。その後、都内にある東京都獣医師会会員病院へ搬送されました。「当初は安楽死させるしかないと考えていた野生化した猫が、獣医さんのもとで人に抱かれるまでになるのに驚きました」とプロジェクトメンバーの佐々木哲朗さん(小笠原自然文化研究所副理事長)。この出来事がきっかけとなり、島の野生動物と猫の命を守ることを目標に、同年、「小笠原ネコプロジェクト」が発足しました。
これまでに保護した猫は約900匹
父島と母島では2010年から環境省が中心となり、野生化した猫の本格的な捕獲プロジェクトが始まりました。山中に設置した200台のセンサーカメラの位置情報をもとに、猫が通りそうな場所に捕獲器を設置します。翌日、捕獲された猫を刺激しないようシートに包んで山から運び出します。
その後、受け入れ先の都内の動物病院が決まるまでの間、猫は一時飼養施設の「ねこ待合所」で過ごします。性別の確認や妊娠の有無、体重測定などを行うと同時にマイクロチップの確認や掲示板で飼い猫かどうかの確認もします。野生化した猫の場合は、ここでお世話を通じて触れ合い、馴化することもメリットに。受け入れ先が決まると、船で搬送され、新しい飼い主さん探しが始まります。
15年間で保護した野生化した猫は900匹。「東京都獣医師会の協力により、保護した猫に新しい飼い主さんを見つけることで、猫の命が守られています。そのおかげで、猫を想う飼い主さんと対話ができる関係が築けたのだと思います。ただ、この方法は特別で、土地柄やみなさんの支えがあってこそ。絶対にやり遂げなくてはと感じています。」と佐々木さん。
野生動物の回復に兆しが
プロジェクトの効果は絶大で、繁殖地の消滅を危ぶまれていた母島では、プロジェクトが始動した2006年から、オナガミズナギドリの巣立ちが毎年確認されるように。また、なかなか姿を見せることがなかったカツオドリも2014年に、10年ぶりに1羽の巣立ちに成功し、以降は毎年巣立ち数が少しずつ増えています。幻の鳥といわれたアカガシラカラスバトの姿も約8年前から多く見られるようになり、島民にとって身近な存在になりつつあります。「自然と共存する小笠原諸島の未来のために、これからも活動を続けていきたいです」と話す佐々木さん。自然豊かな美しい島は、今日も島民たちの手によって確かに守られています。
参考/「ねこのきもち」2020年10月号『猫のために何ができるのだろうか』
文/carrie-the-cat
※この記事で使用している画像は2020年10月号「猫のために何ができるのだろうか」に掲載しているものです。