動物福祉の立場から、飼育動物の「幸福な暮らし」を実現するための具体的な方策が「環境エンリッチメント」の定義。動物の本来の行動特性を踏まえた環境作りや飼育方法を考えることです。動物園や水族館を中心に普及してきましたが、ペットである猫や犬に置き換えることもできるため、近年は一般の人にも注目されています。
そこで今回は、猫にとっての環境エンリッチメントとして、「感覚」「採食」「社会的」の3つのポイントにそってエンリッチメントを解説。猫の幸福度を上げるお世話のコツについて、獣医師の山本宗伸先生にお話を伺いました。
食事に“狩り”の刺激をプラス
猫は本来、狩りをして獲物を捕食していた動物です。そのため、現代の飼い猫は苦労することなく食事にありつける一方で、達成感が得られにくいという側面があります。
“狩り”の刺激を意図的に補ってあげることが大切
そこで、重要になってくるのが「採食エンリッチメント」です。これは、狩りのような刺激を与える食べさせ方の工夫のこと。フードを手に入れるためのひと手間を加えることで、獲物を捕る刺激を補います。
ときには、転がさないとフードが出ないおもちゃを使ったり、小皿に入れたフードを家具の下などに隠して探させたり、食事の与え方を工夫してみましょう。普通にフードを食べるより、頭を使いながら運動にもなるので、室内で暮らす猫にとって、よい刺激になりますよ。
猫にとって心地よい刺激のある環境を与えて
その名のとおり、動物の感覚に訴える「感覚エンリッチメント」。猫の場合は「嗅覚」「聴覚」「視覚」そして「フェロモン」へ刺激を与える工夫をしてあげましょう。
とくに大切なのが「嗅覚」で、窓から入る外の空気は、とてもよい刺激になります。ときには、見晴らしのよい窓を網戸にして、外のニオイや鳥のさえずり、木々が揺れる様子などを楽しませてあげましょう。
ただし、アロマなどの強いニオイのものは避けるようにしてくださいね。
マーキングをさせてあげることも大切
猫にマーキングをさせることも、「感覚エンリッチメント」のひとつです。猫は顔などから分泌されるフェロモンを、家具などにこすり付けてマーキングをします。これは猫にとってはとても大切な行為なので、ぜひ存分にさせてあげましょう。
家族や同居猫とのベストな関係性を考慮して
愛猫の豊かな生活を実現するには、その猫にとってベストな関係性を考慮する「社会的エンリッチメント」も大切です。
ここでの「社会」とは、猫同士または人を含む異種動物との関係を指します。周囲と良好な関係性が築けていれば、運動不足や孤独感の解消につながり、猫の生活によい影響を与えると考えられています。
他者の存在がストレスにならないようにすることも大切
ほかの猫や異種動物との関係性が猫にとってメリットになる一方で、猫は本来、単独行動の動物であるため、他者の存在が大きなストレスになるケースもあります。新しい猫などを迎える際は、先住猫にとっての幸せな暮らしをイメージし、猫の性格や住居の広さなどを考慮したうえで、慎重に進めることが重要です。
「愛猫に健康で長生きしてほしい」というのは、飼い主さん共通の願いです。これを実現させるためにも、ぜひ「環境エンリッチメント」を取り入れて、愛猫の幸福度をアップしましょう!
お話を伺った先生/山本宗伸先生(Tokyo Cat Specialists院長 国際猫医学会ISFM所属)
参考/「ねこのきもち」2021年7月号『目指すは「猫が長生きする部屋づくり」。環境エンリッチメントって知っていますか?』
文/寺井さとこ
※写真はスマホアプリ「いぬ・ねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。