命にかかわるケースも多い、猫の消化器系の病気。なかでも、“沈黙の臓器”と呼ばれる膵臓(すい臓)は、症状に気づきにくいため注意が必要です。今回は、猫の膵臓の役割と、膵臓に起こる病気「膵炎(すい炎)」について、獣医師の佐々木文彦先生、重本仁先生に伺いました。
膵臓の働きと役割
膵臓は、膵管を通じて膵液という消化液を十二指腸に送り出しています。膵液は栄養を分解したり、胃液で酸性となった食物を中和したりすることで、スムーズな消化吸収を助けます。
また、血糖値を下げるインスリンや血糖値を上げるグルカゴンといったホルモンを血管に分泌することで、血糖値をコントロールする役目も果たしています。
膵臓に起こる病気「膵炎」とは
膵炎は、膵臓が炎症を起こす病気です。多くは原因不明ですが、事故や高所からの落下など、腹部に大きな衝撃を受けることで臓器内の酵素源が活性化し、膵臓の自己消化を引き起こすことも。
膵炎になると、元気消失、食欲不振、体重減少のほか、嘔吐や下痢といった症状があらわれます。
膵炎の治療法
膵炎に特効薬はなく、輸液を行い、炎症が治まるのを待ちます。長期の絶食は「肝リピドーシス」のリスクがあるので、胃チューブなどによる栄養補給を早めに行います。ほかの病気と併発している場合は、抗生物質やステロイド剤を用いて治療することもあります。
隣接する臓器で併発する「三臓器炎」にも注意
猫は、膵炎、胆管肝炎、腸炎を同時発症する「三臓器炎」を起こすことがあります。
膵液が流れる主膵管、胆汁が流れる胆管は、解剖学的に小腸(十二指腸)の同じ場所につながっていて、膵液と胆汁を十二指腸に分泌しています。このため、隣接する3つの臓器のうちの1カ所で炎症が起こると、それはほかの2カ所の臓器にまで波及し、3つの炎症を併発しやすいのです。
三臓器炎を起こすと元気消失、食欲不振、下痢、嘔吐をはじめ、重度になると黄疸があらわれ、命にかかわることもあります。
炎症が起きると、隣接する臓器にまで異変が波及するおそれもある膵臓。病気になかなか気づきにくい臓器のため、食欲不振や体重減少など少しでも愛猫の異変を見つけたら、すぐに動物病院を受診するよう心がけましょう。
お話を伺った先生/佐々木文彦先生(大阪府立大学名誉教授 医学博士 獣医師)、重本仁先生(王子ペットクリニック院長)
参考/「ねこのきもち」2024年3月号『イラストで、部位ごとによ~くわかる 図解 猫のおなかの働き 病気のしくみ』
文/宮下早希
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。