猫に起きやすい健康トラブル、便秘。重篤な病気が隠れていることもあるため、軽く考えてはいけない症状のひとつです。今回は、獣医師の先生にうかがった猫の便秘の見極め方やホームケアの効果などとあわせて、便秘の原因や対処法、予防法などを解説します。
猫の便秘ってどんな状態?
そもそもどういう状態を便秘というのでしょうか? まずは、便秘になった猫に現れるウンチの状態や排便時の様子から、便秘かどうかの見極め方を解説します。
ウンチの状態からの見極め方
大人の人差し指以上の長さと、水分を十分に含んだツヤがある状態のウンチが健康的な猫のウンチです。一方、便秘状態の猫は、小さいコロコロとしたウンチを、極端に少ない量しか出すことができません。また、水分不足のため、表面が乾燥気味なのも特徴です。
猫の様子や症状からの見極め方
猫が便秘になると、トイレにずっとこもる、排便時にトイレで鳴く、ウンチ後にぐったりと疲れているなどの症状が見られます。また、食欲不振や嘔吐も便秘が原因で現れる症状なので、ウンチをしたあとに嘔吐をしている場合は便秘を疑ったほうがよいでしょう。
便通量からの見極め方
ウンチの回数や量には個体差があるため、「○日間ウンチが出ていなければ便秘」という基準はありません。正常な場合は、毎日便が出ることが普通であり、丸1日出ないだけでも軽度の便秘といえます。丸3日ウンチが出なければ中等度の便秘、5日出なければ重度の便秘といえるでしょう。
猫が便秘になってしまう原因
猫の便秘にはさまざまな原因が考えられますが、おもに以下の6つによって引き起こされることが多いようです。
病気
全身の脱水症状を引き起こす腎臓病や、腸を塞いでしまう腫瘍や腸閉塞などの病気を発症すると、ウンチが固くなって排出しにくくなったり、ウンチが腸を通過できなくなったりなどの症状を引き起こし、結果的に便秘になってしまいます。
慢性的な便秘で「巨大結腸症」を引き起こすことも
慢性的な便秘や結腸への神経異常により起こる病気のひとつに、「巨大結腸症」というものがあります。固いウンチが結腸(直腸の手前の腸)に大量にたまり、結腸が異常に広がる病気で、発症すると手術が必要になることも。さらに、対処が遅れてしまうと敗血症を引き起こし、命に関わることもあります。
関節や神経の異常
足や腰の骨、骨盤、関節や筋肉、神経などに異常が起きると、排泄時に思うように踏ん張ることができなくなり、排泄の回数が減少して便秘を引き起こすことが考えられます。また、足腰を踏ん張る力が弱まる加齢も、便秘を引き起こす原因となります。
水分不足
猫はほかの動物と比べると水を飲む量が少ない傾向にあり、その結果便が固くなりやすいとされています。便が固くなると排泄時に痛みを伴ってしまい、より排便回数が減るなどの悪循環が起こります。
運動不足
あまり運動しないでいると排泄時に必要な筋力が弱まったり、腸の動きも鈍くなったりして、排便がうまくできなくなります。
ストレス
猫はちょっとした環境の変化などで、ストレスを受けやすい生き物です。引っ越しやペットホテルにあずけるなどの生活環境の大きな変化だけでなく、トイレがいつもより汚いといったちょっとしたことでもストレスを受け、排泄をしなくなることが考えられます。ストレス状態が続くと排泄しない状態も続くため、便秘を加速させるおそれがあります。
誤飲誤食
おもちゃなどを誤飲することで大腸がつまり、そのあとを通過してくる便が渋滞して便秘を引き起こします。便がつまった状態を放置すると腸閉塞を発症し、さらに腸管の壊死や腸が破裂する腹膜炎など重篤な病気も引き起こしてしまいます。そのままだと命に関わるため、愛猫が異物を飲み込んだ疑いがある場合は、すぐに動物病院を受診してください。
遺伝
生まれつきしっぽが短い「マンクス」という猫種や腰椎の少ない猫などは、尾骨の先天的異常の影響で腸に障害が起きやすく、便秘にもなりやすいといわれています。そのほか、骨盤腔が狭く便が通りにくいコもいます。
便秘になりやすい猫とは
獣医師の先生に「特に便秘になりやすい猫の特徴はありますか?」とうかがったところ、猫種の違いなどに特に特筆すべき傾向はないようですが、シニア猫や肥満の猫は便秘になる傾向が強いとのことでした。
また、前述した運動不足や水分不足の猫、消化管運動機能低下を発症している猫なども便秘になりやすい傾向があるそうです。
猫が便秘のときに与えて良いもの&ダメなもの
人が便秘のときは食物繊維を多くとるとよいといわれますが、猫の場合、逆に便秘を促進させるものもあります。ここでは、猫に与えて良い食材と、あまり与えすぎないほうが良い食材をご紹介します。
与えても良いもの
ペット用の乳酸菌/オリゴ糖のサプリメント
乳酸菌もオリゴ糖も腸の働きを良くします。実際に与える場合は、人用のものではなくペット用のものを選び、用量を守って与えてください。
獣医師に相談が必要なもの
キャベツなどの葉野菜/ねこ草/ヨーグルト/油 など
キャベツなどの葉野菜やねこ草などは、不溶性繊維が多く含まれます。不溶性繊維は腸を刺激して働きを促す一方で、ウンチを固く大きくしてしまう作用があり、逆効果になることも。
また、ヨーグルトも商品によっては食物繊維が含まれており、別の消化器疾患の要因になったりすることあります。自己判断で与えず、獣医師に相談してから与えるようにしてください。
猫の便秘の治療・予防法
フードを愛猫に合ったものに見直す
ふだん食べているフードを、便秘対策用のフードや消化器サポート機能のあるフードに変えてみてはいかがでしょうか。水に溶ける可溶性繊維が豊富なものや、水に溶けない不溶性繊維が豊富なものなど、猫の便秘のタイプに合わせたものが多数販売されているので、獣医師に相談して選んでみるといいですね。
十分に水分をとれるようにする
水入れを置く場所を増やす、水を入れ替える回数を増やして常に清潔に保つ、水分量の多いフードやおやつを与えるなどの工夫をしましょう。自動給水器やぬるま湯など、愛猫の好みに合わせた水分摂取方法を取り入れるのもおすすめです。
清潔なトイレ環境を用意する
「トイレが汚れている」「トイレの容器や砂が好みではない」「人の目に触れる場所にトイレが設置されている」などの理由で、猫がウンチを我慢することがあります。愛猫が落ち着ける場所に複数トイレを用意するほか、排泄後すぐトイレを掃除して常に清潔な環境を保つようにしてあげましょう。
適度に運動させる
1日5分~15分、飼い主さんとおもちゃで遊ぶなどの適度な運動を取り入れましょう。運動することで腸の動きが活発になり、排便を促してくれるようになります。
ストレス管理をする
愛猫の居心地の良い生活環境やトイレ環境をつくるなど、日ごろから愛猫のストレス管理をすることが大切です。前述した適度な運動や、リラックス効果のあるマッサージを取り入れることもストレス対策としておすすめです。
便秘がひどい場合は内服薬や浣腸で排便をうながす治療を!
上記の方法をどんなに試しても便秘が解消されない場合は、内服薬で便を柔らかくしたり、浣腸で排便を促したり、手を使って排便を助ける「摘便」などの治療法を行う必要があります。ただし、浣腸などは重度の脱水症状を引き起こすこともあるため、自己判断で行わず、必ず獣医師の指示を仰ぐようにしましょう。
なお、重度の便秘になると摘便でも手に負えず、大腸を切除する大がかりな手術を行わなければならなくなるので注意が必要です。
マッサージなどのホームケアの実際の効果は?
マッサージやツボ押し、サプリメントなど、猫の便秘に効くといわれるホームケアにはさまざまな種類がありますが、実際に効果があるのか疑っている飼い主さんも多いのではないでしょうか? ここでは、ホームケアの実際の効果ややり方について紹介します。
腸マッサージは効果あるの?
獣医師の先生によると、猫や犬の便秘に効くといわれている腸マッサージは、実際にある程度の効果は期待できるとのこと。ただし、細かいマッサージの仕方やツボを、かかりつけの獣医師や専門家に習ったほうがいいそうです。
なお、自宅でどうしてもマッサージをやってあげたいときは、下腹部の頭側から尾側にかけて、上から下にやさしくさすってあげるといいそうですよ。
腸マッサージのやり方1:リラックスさせる
参考・写真/「ねこのきもち」2016年10月号『猫にも“腸”ブーム!? 元気につながるから超スゴイ腸を、整えよう!』
猫がくつろいでいるときに、頭などをなでてリラックスさせましょう。
いきなり冷たい手で触るのではなく、両手をこすり合わせて、手のひらを温めてからなでてあげてください。
腸マッサージのやり方2:そっと脇腹を揉む
参考・写真/「ねこのきもち」2016年10月号『猫にも“腸”ブーム!? 元気につながるから超スゴイ腸を、整えよう!』
猫の脇腹を優しく揉んであげることで、直接腸を刺激します。手を前後に動かしながら、お腹のあたりを全体的に揉むのがポイントです。強い力をかけると猫が嫌がるので注意してください。
腸マッサージのやり方3:あおむけチャレンジ
参考・写真/「ねこのきもち」2016年10月号『猫にも“腸”ブーム!? 元気につながるから超スゴイ腸を、整えよう!』
膝の上で後ろから抱えるような姿勢でリラックスさせ、親指を除く4本の指先で、“おへそ”を中心に「の」の字を描くように優しくなでてあげましょう。
猫にツボ押しして腸にアプローチ!
人と同様に、猫にもツボがあります。そのなかから、便秘解消に効果があると言われているツボをご紹介します。
◆百会(ひゃくえ)
イラスト/すやまゆうか 「ねこのきもち」2016年10月号『猫にも“腸”ブーム!? 元気につながるから超スゴイ腸を、整えよう!』
整腸作用や免疫力の向上に効果があるといわれている百会は、背骨と腰の横幅が一番広いところが交差する、指で押すと少しくぼんでいる場所にあります。人差し指で5回ほど押すのを2~3セット行いましょう。
◆神門(しんもん)
イラスト/すやまゆうか 「ねこのきもち」2016年10月号『猫にも“腸”ブーム!? 元気につながるから超スゴイ腸を、整えよう!』
腸の働きをよくする作用があるといわれる神門は、前足のポコッと出た部分のそば、少し押すと凹む部分にあります。小さなツボなので、30秒程度なでるように優しく力をかけましょう。
オリーブオイルを与えるのは効果あるの?
獣医師の先生にうかがったところ、オリーブオイルは犬と同じで、猫の体質によって合う・合わないがあるそう。少量与えてみて嘔吐や下痢などの問題が起きないようなら、ティースプーンに半分程度は与えてもいいそうです。ただし、毎日与えるのは、栄養バランスの観点からおすすめできないそうです。
そのほかのホームケアの効果は?
こちらも獣医師の先生にうかがったところ、食べ物によるケアとしては、水分が多いウエットフードを与えるのがおすすめだそうです。また、動物病院では、乳酸菌生成エキスのコスモスラクトが配合されたサプリメントもよく処方しているそうですよ。
愛猫を便秘にさせない生活や習慣を心がけよう!
冒頭でも述べたように、猫の便秘にはさまざまな原因や症状があり、場合によってはかなり危険な病気を併発することもあります。たかが便秘と侮っていると愛猫の命を危険にさらしてしまうので、日ごろから愛猫のウンチや排便の様子を観察して、異常をいち早く見つけるようにしましょう。
なお、便秘に効果があるといわれているホームケアや治療法を、自己判断で行うのはあまりおすすめできません。行う前にかかりつけの獣医師に指示を仰ぐようにしてくださいね。
猫の便秘に関する記事は、こちらも参考にしてみてください。
参考・写真・イラスト/「ねこのきもち」2016年10月号『猫にも“腸”ブーム!?元気につながるから超スゴイ腸を、整えよう!』
参考/「ねこのきもち」2016年2月号『病気につながることもあるから見過ごさないで!ウンチが出ていても便秘かもしれません』
イラスト/すやまゆうか
監修/佐藤貴紀先生(目黒アニマルメディカルセンター 隅田川動物病院 循環器担当)
文/pigeon
※一部写真はスマホアプリ「いぬ・ねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と一部写真に関連性はありませんので予めご了承ください。