みなさんは、愛猫にいきなり噛んだり、ひっかかれたりされた経験はありますか?
猫がキッカケもなく、突然激しい攻撃をしてきたら「激怒症候群」の可能性があるようなのです。
「激怒症候群」って何?
激怒症候群とは、「特発性攻撃行動」の別称。何の前触れもなくいきなり襲いかかる、原因不明の攻撃行動です。
1990年代後半、イギリスでペットの行動治療をしている獣医師が、激しい攻撃を繰り返していた犬を診断し、「激怒症候群」と名付けたといわれています。
日本の動物病院では「特発性攻撃行動」という診断名を使っていて、国内でも発症した犬は確認されています。
近年では、猫でも発症することが判明!
激怒症候群が猫にも該当すると判明したのは、ここ数年のこと。まだ症例が少ないため、猫としての研究は進んでおらず、不明なことが多いのが現状。
しかし、少ないながらも特発性攻撃行動と診断されている猫がいるのは事実です。
愛猫のこの攻撃…もしかして、激怒症候群!?
ここからは、『ねこのきもち』でご紹介した実際に愛猫に攻撃されたことのある飼い主さんたちの体験談を4つ紹介します。
はたしてその行動が激怒症候群なのかどうか、東京大学附属動物医療センター行動診療科にて犬猫の治療に従事する菊池亜都子先生に診断してもらいました。
エピソード①:診察中、獣医さんを威嚇し、暴れて引っかいた!
まずは、みぃちゃん(メス・1才)の飼い主さん(Oさん)から寄せられたエピソード。
ある日、みぃちゃんが床にお尻を擦り付けていたので、動物病院に行くことに。診察台でキャリーケースを開けた瞬間に唸りだし、獣医さんを引っかき、走り回り、ウンチまでしてしまったそう…。
ふだんはビビリな性格のみぃちゃんが、突然豹変したので驚いてしまったそうです。
→【診断】これは恐怖性/防御性攻撃行動でしょう
猫は強く恐怖を感じると、身近な何かに攻撃を加えるようになります。たとえば、みぃちゃんは動物病院で犬の吠える声が怖くて、我慢の限界に達して、目の前の獣医師を攻撃したのかもしれません。
もともと臆病な性格の猫に多い攻撃行動で、激怒症候群とは関係ありません。
エピソード②:寝ているときになでると、急に噛み付く!
続いて、くぅちゃん(メス・6才/ブリティッシュショートヘア)の飼い主さん(Sさん)から寄せられたエピソード。
くぅちゃんが寝ているときに体をなでていると、最初は気持ちよさそうにしているけれど、急にガブッと噛み付くそう。ふだんはおとなしい性格のくぅちゃん。
「私の手が背中からお尻のほうに動くと、そうなるような…」と、飼い主さんは気にしているよう。
→【診断】これは、愛撫誘発性攻撃行動でしょう
猫はしつこくなでられると「もうやめて」と、噛み付いて意思表示します。これは激怒症候群ではなく、愛撫誘発性攻撃行動と呼ばれるもので、多くの飼い主さんが経験していると思います。
猫がしっぽを大きく振ったり、「イカ耳」になったら、なでるのをやめてあげましょう。
エピソード③:私の足が布団から出ていると、本気で噛み付いてくる!
続いて、新菜ちゃん(メス・7才/メインクーン)の飼い主さん(Aさん)から寄せられたエピソード。
飼い主さんが寝るとき布団に入り、手や足が少し布団から出ていると、新菜ちゃんは本気で噛んでくるそう。そのせいで、犬歯の噛み跡が残ったことも……。
襲いかかるときの新菜ちゃんは、黒目は真ん丸、姿勢を低くして、虎視眈々と獲物を狙っている感じなのだとか。
→【診断】これは、捕食性攻撃行動でしょう
猫には、獲物を捕まえたいという狩猟本能があります。新菜ちゃんは人の手足を獲物に見立てて、捕まえようと攻撃しているのでしょう。
激怒症候群ではありませんが、うかつに人の手や足にじゃれつかせていると、ますます狙われるので、飼い主さんは注意しましょう。
エピソード④:網戸越しにノラ猫に威嚇され、娘に飛びかかった!
最後は、ランくん(オス・3才)の飼い主さん(Fさん)から寄せられたエピソード。
ノラ猫に、網戸越しに威嚇されたランくんと同居猫。飼い主さんの娘さんが同居猫を抱き上げると、ランくんが娘さんに飛びかかり、娘さんの腕をしつこく噛み続けたのだそう。
その後も1年ほどは、娘さんが同居猫を抱っこすると、ランくんは娘さんを威嚇したり噛み付くことが続いたそうです。
→【診断】これは、転嫁性攻撃行動でしょう
ノラ猫を見たなど、何らかの刺激によって興奮したとき、そばにいた人や猫へ八つ当たり的に攻撃することがあります。一見、激怒症候群に似ていますが、これは転嫁性攻撃行動と呼ばれるものです。
また、ランくんのように、同じ状況になったとき攻撃を繰り返す猫もいます。
激怒症候群の4つの見極めポイント
上記でも紹介した猫によくある攻撃行動と、激怒症候群には4つの見極めポイントがあります。
①ある時期を境に、突然攻撃が始まる
激怒症候群は、ある日突然に起こります。本来の性格は関係なく、穏やかな性格で、よくある攻撃行動をしなかった猫でも発症するケースがあります。
②攻撃のキッカケが一貫していない
よくある攻撃行動は、怖いことや不快なことなど、必ず何らかの「キッカケ」があります。しかし、激怒症候群はそのようなキッカケがなかったり、一貫していないのが特徴に。
③ウトウトしているときに、攻撃が起きやすい
犬で行われている激怒症候群の研究では、脳神経系の異常である「てんかん」の発作で、激しい攻撃が起こっている可能性が高いとの報告があります。
猫の場合も、原因のひとつとして、てんかんが関与しているのではないかと考えられています。
もし「てんかん」が原因の場合、発作は眠りが浅いとき起こりやすくなります。そのため、寝起きの猫にいきなり攻撃されるケースも。
④威嚇はなく、いきなり襲いかかる
猫は怒ったときに、「ウーッ」や「シャーッ」といった威嚇をします。しかし、激怒症候群の場合は、そのような前触れはなく、気づいたときには攻撃されているものです。
そのため、制御するのは難しいでしょう。
ふだんはおとなしい猫でも、激怒症候群に!
菊池先生によると、ふだんはおとなしい猫でも、激怒症候群になることがあるようです。
「私が過去に診察した激怒症候群の猫たちは、ふだんはおとなしく、甘えん坊な猫でした。しかし、そんな性格にもかかわらず、自身の意思とは無関係なところで、飼い主さんを激しく行動し、傷つけてしまうのです。
キッカケがない、攻撃が激しい、制御できないのが激怒症候群の特徴なので、飼い主さんはぜひ覚えておいてください」(菊池先生)
参考/「ねこのきもち」2018年5月号『キッカケのない突然の攻撃行動 猫の激怒症候群って何?』
(監修:獣医師、東京都動物愛護相談センターで活動したのち、現在は東京大学附属動物医療センター行動診療科にて犬猫の治療に従事 菊池亜都子先生)
※記事と一部写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
イラスト/片山智恵
文/雨宮カイ