愛猫の皮膚に黒い砂粒のようなものがついている、しきりにかくしぐさをしている……。それはもしかしたら、体にノミが寄生しているのかもしれません! 今回は、猫につくノミの生態から噛まれることで起きる症状や病気、駆除や予防法について解説します。
猫につくノミってどんなもの?
まずは猫につく主なノミの種類と、その生態について解説していきます。
猫につくノミの種類と生態
ノミは世界中に数多くの種類が分布しており、日本でも約80種類のノミがいるといわれています。そのなかでも猫によくつくのが、「ネコノミ」です。大きさはオスが1.5~2.5mm、メスが3~4mmと小さく、オレンジや褐色の体をしています。皮膚が薄く吸血しやすい背中を中心に全身どこにでも寄生し、被毛の間をすり抜けながら活発に動き回ります。
主な生息域は直射日光が当たらない場所や草むらですが、二酸化炭素や体温、影、振動などを感知してノラ猫などに寄生し、卵やサナギが道に落ちて繁殖することがあります。また、猫以外にも人や犬、タヌキやネズミなどにも寄生するため、そこから別の動物に寄生・繁殖することも考えられます。
ノミの繁殖時期とライフサイクル
ネコノミは春~初夏にかけて一気に増加する傾向にありますが、温度が13℃以上あれば活動できるので、寒い冬の時期でも成長は鈍るものの生息・繁殖します。また、温度20~30℃、湿度50~80%の環境を好んで繁殖するため、冷暖房や加湿器で温度・湿度が整えられている家に一度でも入り込むと、一年中繁殖と寄生を繰り返します。
完全変態(成長過程で“サナギ”の期間を持つ昆虫のこと)のノミのライフサイクルは、卵→幼虫→サナギ→成虫の4段階。成虫は猫に寄生すると30分~1時間で最初の吸血を行い(8分以内という見解も)、メスの場合は約36時間後に産卵を開始します。一生の産卵数は個体差がありますが、平均で1日約30個産卵するといわれています。
卵から成虫になるまでのスピードは、生息環境や周囲に猫がいるかどうかにもよって異なります。例えば、ノミに最適な温度と湿度が保たれていて猫が周囲にいる場合、3~7日かけて卵から孵化して幼虫へ、猫のフケや垢、成虫の排泄物を食べて1週間~1カ月でサナギになり、10日~2週間もすると成虫になります。その後、周囲にいる猫に寄生して、同様のサイクルを繰り返します。
猫にノミがついてしまう原因
猫にノミがついてしまう原因は、主に以下の4つが挙げられます。
- 猫を外に出す・散歩させる・ベランダなどに出す
- ノラ猫やネコノミに寄生した動物に接触する
- 人間が外から室内に持ち込む
- 室内での繁殖(一度室内に入ると繁殖を繰り返す)
前述したようにノミはある程度低い気温でも生息可能で、繁殖力と感知能力にも優れているため、室内飼いの猫であっても寄生される危険性は十分にあります。愛猫だけは大丈夫と考えず、ノミの生態を把握してしっかり対策することが必要となります。
猫がノミに噛まれるとどんなことが起きる?
では、実際に猫がノミに噛まれると、どのようなことが起きるのでしょうか? 起こり得る症状やトラブルについてご紹介します。
猫がノミに噛まれた際に見られる症状や行動
ノミは吸血する際に皮膚に刺した針から唾液を出すため、噛まれると激しいかゆみを引き起こします。以下のような症状や行動が見られる場合は、ネコノミに吸血されていることを疑ったほうがよいでしょう。
- 頻繁に体をなめたり毛づくろいをしたりする
- 後ろ足で体をしきりにかく
- 被毛や体を噛むしぐさをする
また、
激しいかゆみによってストレスを受ける場合もあります。最初は軽い症状でも徐々に重症化する危険性があるので、ノミの存在が疑われる場合は体をくまなくチェックして対処してあげましょう。
ノミが原因で引き起こされるトラブルや病気
ノミがおそろしいのは激しいかゆみを伴うだけでなく、病原菌を媒介して病気を引き起こすことにあります。ノミに寄生・吸血されることで、以下のようなトラブルや病気を発症するおそれがあるので注意してください。
貧血
大量のノミに長期で寄生・吸血をされることによって、貧血を起こすことがあります。特にまだ体ができあがっていない子猫は、貧血を起こす傾向が高いといえます。
ノミアレルギー性皮膚炎
ノミに吸血されることで唾液中のアレルゲンが猫の体内に入り、アレルギー反応を引き起こして、激しいかゆみを伴う皮膚炎を発症します。重症化すると傷や湿疹、脱毛を引き起こし、背中や首の周りに多数の丘疹(きゅうしん)やかさぶたができることもあります。
場合によっては、肉芽腫や皮膚の潰瘍などを引き起こす、好酸球性皮膚炎を発症するおそれも。一度ノミアレルギー性皮膚炎を発症すると、少数のノミの寄生でも症状が悪化する危険性が高く、完治にも時間がかかるといわれています。
瓜実条虫症(うりざねじょうちゅうしょう)
瓜実条虫(サナダムシ)の卵を摂取して体内に寄生させたノミを、毛づくろいなどで猫がなめとってしまうことで感染する病気です。小腸に寄生しますが、排泄時に切れた片節(体の一部)が肛門周囲や便につくこともあります。
感染しても無症状の場合がほとんどですが、下痢やおう吐などの症状が見られることもあります。
猫のノミで人に被害がおよぶことも
前述したようにネコノミは人にも寄生するため、ノミを媒介にした以下のようなトラブルや病気を発症します。また、ネコノミに感染した猫から傷を負うことで、感染症を引き起こす危険性もあります。
かゆみ・水ぶくれ
人がノミに噛まれることで、激しいかゆみを引き起こします。人がノミに噛まれることで激しいかゆみを引き起こし、ひどくなると皮膚が水ぶくれの状態になることもあります。
猫ひっかき病
「Bartonella henselae(バルトネラ・ヘンセレ)」という病原菌に感染した猫に、人がひっかかれたり噛まれたりすると感染する病気です。発症すると傷口の化膿や発熱、倦怠感、リンパ節炎などの症状を引き起こします。
この感染症は感染猫を吸血したノミからほかの猫へと伝播・感染しますが、猫に対して病原性はないため無症状な猫がほとんどです。そのため、自分が猫ひっかき病を発症したことで初めて、愛猫がこの菌に感染していることに気づく飼い主さんも多いようです。
猫にノミがついてしまった場合の対策・駆除方法とは
このように、猫にノミがつくとさまざまな症状や病気を引き起こすおそれがあります。愛猫にノミがついてしまった場合は放置せず、できるだけ早く駆除してあげましょう。
猫の体にいるノミの見つけ方
まずは愛猫にノミがついているのかをチェックしましょう。とはいえ、ノミは小さいうえに動きもすばやいので、見つけるにはかなりの根気がいります。簡単なのはフンを探すこと。被毛の中に黒い砂粒のようなものがあり、湿ったティッシュにのせると赤茶色のにじみが出る場合は、ノミが寄生・吸血している危険性が高いといえます。
ノミ取りシャンプーで体を洗う
ノミの駆除対策2つ目が、ノミ取りシャンプーで愛猫の体を洗うこと。この方法なら、汚れと一緒にノミのフンや卵を洗い流すことができます。ただし、ほとんどの猫は家でシャンプーをするのが難しく、麻酔が必要な場合があるので、かかりつけの病院へ相談しましょう。
ノミ駆除薬を使う
ノミを駆除するのにもっとも効果的で最善な方法は、ノミ用の駆除薬を定期的に投与することです。市販薬もありますが、獣医師に相談したうえで、愛猫に合った薬を処方・購入するのがおすすめです。駆除薬は、おもにスポットタイプかスプレータイプの2種類があるので、愛猫にあったものを獣医師に相談してみましょう。
猫のノミについてはこちらの記事も参考にしてみてください。
猫にノミがつかないよう日ごろからすべき予防法
愛猫をノミによるトラブルや病気から守るためには、飼い主さんがしっかり予防や対策をしてあげることが重要です。日ごろから、以下のようなノミ予防法を実践しましょう。
外出時のノミ予防法
昨今は完全室内飼いが一般的ですが、運動不足解消のために散歩させたり、動物病院を受診したりと猫を外に出す機会は0ではありません。また、人が外から室内にノミを持ちこんでしまう危険性もあるため、人・猫ともに外出時のノミ予防は必須といえます。
ほかの猫と接触しない・させない
ほかの猫からうつされるだけでなく、愛猫からほかの猫へノミをうつしてしまう場合もあります。ノラ猫との接触はもちろん、室内飼いであってもできるだけほかの猫との接触は控えましょう。
体や衣服に虫よけスプレーをする
蚊よけに使用されることが多い虫よけスプレーですが、ノミを含めたほかの害虫に効果があるタイプも数多く販売されています。草むらや木が多い場所に外出する際はもちろん、ノミが活発化する時期に外出する場合は、体や衣類に虫よけスプレーを吹きかけておくことをおすすめします。
自宅に入る前に衣類や靴をはたく
室内にノミを侵入させないよう、家の中に入る前に靴や衣類についたノミや卵を落とすことも大切です。外で服などをはたき、手を洗ってから猫の体や家具に触れるようにしましょう。
室内のノミ予防法
室内にノミを侵入させないことは大前提ですが、体についた小さなノミに気づかず持ちこんでしまうことは十分に考えられます。室内では、持ち込んでしまったノミを繁殖させない対策と予防が必要となります。
部屋を掃除して清潔に保つ
室内に入った卵やノミが孵化・繁殖する前に駆除できるよう、こまめに部屋を掃除して清潔さを保ちましょう。特にカーペットや畳の内部、マットの下などはノミの温床になりやすい場所なので、重点的に掃除を。カーペットや床全体に、繁殖や孵化防止用の駆除薬を散布するのもおすすめです。
まめに猫用ベッドを洗う
中綿が入っていることが多い猫用ベッドは、湿気がたまりやすい場所。ノミに寄生された猫がくつろぐと、卵が落ちてそのまま孵化・繁殖するおそれがあります。洗濯できるものは月1~2回丸洗いし、できないものは駆除剤や掃除機で清潔に保つよう心がけてください。
外に出られないよう囲いなどをしておく
草むらや木のそばを通らなくても、ベランダや庭先に出ただけでノミに寄生されることがあります。また、誤って愛猫が外に出てしまい、ノラ猫などに接触してうつされるおそれも。窓やベランダ、玄関に囲いなどをしておき、外に出たり植物に触れたりできないようにしましょう。
愛猫が苦しまないようノミ対策はしっかりしよう!
ノミに寄生されるのは、猫がつらいだけでなく、飼い主さんにも害がおよびます。また、ノミ以外にもダニや回虫、蚊など、感染症を媒介して猫の健康を脅かす寄生虫は数多くいます。室内飼いであっても寄生される危険性は0ではないため、愛猫を危険にさらさないためにも、ノミを持ちこまない、定期的に駆除薬を投与するなど、ノミ対策をしっかり行いましょう。
こちらの記事も参考にしてみてくださいね。
参考/「ねこのきもち」2017年7月号『愛猫が寄生虫のえじきに!?飼い主さんの油断を先生が斬る! 知らぬ間に猫の健康を脅かす コワ~イ寄生虫にご用心!』
「ねこのきもち」2018年3月号『春は猫の「苦手」な変化が多くなる 「変わり目」がもたらす心と体の不調を防ごう!春ストレスに気を付けて』
監修/田草川佳実先生(聖母坂どうぶつ病院副院長)
文/pigeon
※写真はスマホアプリ「いぬ・ねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。