旅行や帰省、仕事の出張など、どうしても家を数日間空けてしまうことがあります。そんなとき大切な家族である猫のお世話について悩む飼い主さんは多いのではないでしょうか。ペットホテルに預ける際の基本情報や選び方のポイント、注意点などについて紹介します。
薬師寺 康子 さん
ペットライフコンサルタント
株式会社クララ代表
●経歴:
不動産会社で新築住宅の販売業務に携わった後、ペット関連会社にて店舗・商品開発を行う。
両方の経験をもとに(株)クララを設立、ペット共生住宅のコンサルタントやペット用品の商品開発を展開。
企画設計コンサルティングをおこなった猫専用賃貸マンション1階に、猫専門ショップ
「ねこままホテル」を開店。
キャットホテルやシッターで、さまざまな猫と飼い主さんと接した経験から、猫の飼育に関するアドバイスや商品プロデュースをしている。
そのほか、セミナー講演やメディアでの執筆活動など。
●書籍:
『いぬのこころ、ねこのこころを考えたマンションライフ』住宅新報社
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猫の飼い主を悩ませる長期不在
昔から「猫は家につく」といわれるほど、猫は生活している家(=縄張り)から離れることにとてもストレスを感じます。食事、トイレ、お水などを十分用意しておけば、1泊程度ならお留守番はできますが、数日間となるとそうはいきません。家族や親しい友人に家に来てもらってお世話をお願いできればベストですが、それが叶わないことも。そんなときに心強い味方になってくれるのがペットホテルです。もしものときのためにサービス内容やメリット・デメリット、ペットシッターとの違いなどを事前に知っておきましょう。
ペットホテルってどんなところ?
ペットホテルは、ペットを宿泊させたり、一時的に預かってもらえたりする施設です。飼い主の代わりに、食事やトイレなどペットの身の回りのお世話をしてくれます。旅行や冠婚葬祭などで家を数日間空ける際、利用する飼い主が多いようです。ホテルによって受けられるサービスが違うので、飼い主の状況や愛猫の性格などに合わせてじっくり検討しましょう。
ペットホテルにはどんな種類があるの?
ペットホテルと一概にいっても、大きく分けて3タイプあります。施設ごとにサービス内容が異なるので、まずは特徴を確認しておきましょう。
ペットホテル専門店タイプ
その名の通りペットの預かりを専門におこなっているため、宿泊をはじめ時間単位の「一時預かり」も可能です。犬と猫が両方泊まれるホテルが一般的ですが、ここ数年、都市部では猫専門のホテルも増えてきています。
動物病院併設タイプ
動物病院のなかにはペットホテルとしての機能を備えている施設もあります。かかりつけの病院に併設されているホテルなら、療養中のペットにとっては安心です。ただし、なかには、夜間は人が不在だったり、愛猫が過ごすスペースが狭かったり高さが不十分であったりと不自由な一面もあります。
ペットショップやトリミングサロン併設タイプ
ペットショップやトリミングサロンでもホテルを併設しているケースもあります。オーダーすれば、宿泊中に爪切り、シャンプー、トリミングをしてもらうことも。日頃利用しているサロンやもともと暮らしていたショップであれば、施設やスタッフにも慣れているので猫のストレスを軽減できるかもしれません。
愛猫はどんな空間で過ごすの?
ペットホテルや動物病院の場合、猫は滞在中、一般的な大きさのケージ内で過ごすことが多いようです。猫専門のペットホテルでは、2~3階建てのケージや、猫が上下運動できるように床から天井まで縦長に仕切った完全個室タイプや個室風に仕立てているところも。また、同居している猫と一緒に過ごせるような個室を用意しているホテルなど、施設によって過ごす空間の大きさやスタイルはさまざまです。猫の性格や慣れ具合によって、ケージの外に出して一緒に遊ぶなどのサービスが受けられる場合もあります。
ペットホテルの相場は?
ペットホテルの料金は、設備やサービスの違い、宿泊するスペースの大きさ、都市部か郊外かなどの立地によって異なります。長期宿泊や複数匹での利用時に割引サービスを用意しているホテルもありますが、相場としては1泊3000円~1万円くらいまでとかなり幅があります。また、1泊の定義も24時間単位、チェックイン・チェックアウトの時間が決まっているなど、ホテルごとに設定されているので事前に確認しておくと安心です。
ペットホテルを選ぶポイントとは?
WEBサイトやクチコミなどで下調べをしてホテルの候補をピックアップしたら、電話で問い合わせたり現地に行ったりして事前に確かめておきましょう。その際、以下のポイントを参考にチェックしてみてください。
第一種動物取扱業の登録と動物取扱責任者が設置されている?
ペットホテル開業にあたっては、「第一種動物取扱業(保管)」の登録と「動物取扱責任者」の設置が義務付けられています。ホームページに提示されているので、確認しておきましょう。
預けられる猫の条件は?
生後3カ月以内、妊娠しているなどの猫は預かってもらえないケースが多いようです。高齢猫は、年齢や健康状態によって預かってもらえるかどうかが異なるので、事前に確認しておいてください。宿泊中に投薬が必要な場合も、まずは相談してみましょう。
また多くのホテルで、動物病院発行の混合ワクチン予防接種証明書の提示や、ノミ・ダニ予防をしていること、感染症にかかっていないことなどが条件にあげられています。預かり規約がしっかりしていない施設は、預けやすい反面、ほかの猫から病気をもらってしまうなど、愛猫にも危険が及ぶ可能性があるので注意が必要です。
猫専用のスペースはある?
犬や小動物と同じ部屋で宿泊、犬とは別の部屋で宿泊など、ホテルによって過ごすスペースが異なります。いくらケージで分けられていても、犬と同じ部屋というだけで猫にとって大きなストレスとなることもあるので、事前にチェックしておくと安心です。
ホテル内は清潔感がある? 見学できる?
WEBサイトに掲載されている写真は、当然ながらしっかり掃除がされた状態で撮影されているものです。そのため、実際に訪れてみると思っていた印象と違うということも。猫舎スペースがひどく汚れていないか、可能であれば愛猫が過ごす場所を見学することをおすすめします。その際に、宿泊中の猫たちがどのように過ごしているのかの様子が見られるとより安心です。
ただし、朝夕の猫の食事タイムはスタッフも忙しいため、その時間を避けてお願いをしてみましょう。部屋に入る際は自身の猫が宿泊しているつもりで、静かに見学してください。
スタッフは24時間常駐している?
「24時間スタッフ常駐」とWEBサイトに記載しているホテルは、同じ建物内にスタッフがいて何かあればすぐに対応するというところが多いようです。定期的に見守ってほしい場合や、逆にそっとしてほしい場合は相談してみるとよいでしょう。
預かり中の報告や見守りカメラはある?
ホテルによっては、1日の様子をメールやSNSでお知らせしてくれるところもあります。なかには、飼い主が好きなときに見守りカメラを通して愛猫の様子を確認できるサービスも。飼い主としては大切な家族を預けることになるので、愛猫の過ごしている様子がわかると安心できます。
セリュリティシステムは設置されている?
とくに夜間などホテル内が無人の時間帯に、防犯や防災、停電や設備異常などが発生した場合に備えて、セキュリティシステムが導入されているかは重要。24時間、トラブル発生時の緊急対応が可能になります。
万が一体調が悪くなったときの対応は?
専門知識をもったスタッフがいるか、提携している病院はあるかなどを確認しておきましょう。サポート体制が整っていれば、万が一体調が悪くなってしまったときでも、適切な対応をとってもらえるので安心です。
細かいことまできちんとヒアリングしてくれるか?
ホテルの説明や預かり条件の提示だけでなく、愛猫の性格や特徴、食事内容、健康状態、服用中の薬の内容など詳しくヒアリングしてくれるかは重要なポイントです。しっかり聞いてくれる施設は、猫に対する愛情の表れともいえます。食事の回数やフードの内容、トイレの仕様など、ふだんの生活と同じような状態で過ごせるような環境作りをしてくれると、飼い主にとっても猫にとっても安心です。
料金設定は明確になっている?
○○円〜のように料金表示があいまいな場合、清算時に明細を見て驚いてしまうということも。料金がわかりにくい場合や宿泊部屋のタイプで迷っているときは、それぞれの見積もりを出してもらうのもひとつの方法です。
当日、ペットホテルに持参するものとは?
事前にしっかり確認してホテルを選んでいるとはいえ、猫にとっては環境が変わることに違いありません。ホテルでの滞在中、少しでもリラックスできるよう、なるべく自宅と同じ状況を作ってもらうことが大切です。愛猫の性格や毎日の様子をメモしたものをホテルのスタッフに渡しておけば、ふだんとの違いに気づいてもらえる可能性も高くなります。
そのほか以下のようなアイテムを準備しておくと安心です。持ち込み可能かどうか、ホテルに確認しておきましょう。
- フード(ドライ・ウェット)
- おやつ
- ベッドやおもちゃ、爪とぎ、毛布などの匂いがついたもの
- おしっこの匂いがついた少量の砂
- ふだん使っている食器
また、動物病院が発行する混合ワクチンの予防接種証明書など、手続きのために必要な書類は忘れずに。証明書を万が一紛失した場合は、再発行に時間がかかることもあるので事前にあるかどうか確認しておいてください。
できれば予行練習を
預けるホテルが決まったら、日帰りや1泊利用などの予行練習をしておくとよいでしょう。初回は緊張がとけなかったとしても、2回目、3回目と回数を重ねるとリラックスできるように。できれば1才前までの若い時期にお試しすることをおすすめします。
また旅行や出張の予定がなくても、事前に一時預かりや短めの1泊などで少しずつ慣らしておいて、ホテルとの信頼関係を築いておくことも大切です。
もうひとつの選択肢「ペットシッター」とは?
最近、認知度があがってきたペットシッター。猫の場合、ペットホテルとペットシッター、どちらに頼むかで迷う飼い主は多いのではないでしょうか。ペットシッターのサービス内容について紹介します。
ペットシッターとは?
ペットシッターとは、飼い主が家を不在にするとき、自宅に出向いてペットのお世話をしてくれるサービス。個人で開業することもできますが、団体や企業に所属している人のほうが多いようです。ペットシッターをするための資格はとくに必要ありませんが、団体や企業に所属する場合は「ペットシッター士」「認定ペットシッター」など、信用性・信頼性を高めるための民間資格を所有しているようです。
また、最近は、「キャットシッター」として猫専門でお世話をするサービスも登場しています。ペットシッター専門の検索サイトでは、団体か個人か、資格の有無、対応エリア、取扱ペットなどについても記載されているので、飼い主の希望条件で探すことが可能です。
ペットシッターにお世話をお願いするときは、猫の性格や健康状態を把握してもらうために、事前の打ち合わせ(対面・お電話・メールほか)をおこないます。猫がいつも寛いでいる場所、よく隠れている場所、フードやお水、トイレはどこに置いているかなど、ペットシッターに直接確認してもらったほうが当日スムーズなので、対面での打ち合わせがおすすめです。
ペットシッターはどんなお世話をしてくれるの?
猫の食事をはじめ、トイレ・抜け毛の掃除、食器洗浄、健康チェック、遊び、投薬などさまざまなお世話をお願いすることができます。お世話中の様子を報告書でレポートしてくれたり、写真付きのメールなどを送ってくれたりすることも。
一般的には、1日に1回30分~1時間程度で、相場は3000円~5000円ぐらいです。場合によっては別途出張費や交通費、複数飼いの場合は追加料金などが発生することもあります。契約することが決まったら、事前に鍵を預け当日を迎えます。預ける鍵でちゃんと施錠・解錠できるか、事前にチェックしておきましょう。
猫にとって、ペットホテル・ペットシッターどちらがよい?
ペットホテルとペットシッター、猫にとってはどちらが適しているのでしょうか? それぞれのメリット・デメリットをよく考えたうえで、大切な愛猫にできるだけ負担がかからないよう、うまく活用しましょう。
ペットホテルのメリット・デメリット
ペットホテルのメリットは、1日中見てもらえることです。夜間は人が不在なところもありますが、基本的に日中は様子を見守ってもらえ、何かあればすぐに対応してもらうことが可能です。人に構ってもらいたい猫などの場合は、遊び相手になってもらうことも。とくに動物病院併設のホテルであれば、万が一体調不良のときにも適切に処置してもらえます。
デメリットは、高齢やワクチン未接種の猫、病気の治療中であったり感染症を患っている猫は、預かってもらえないことです。また、環境変化が苦手な猫の場合はストレスで体調をくずすことも。ペットホテルまで有料の送迎サービスがあるところもありますが、一般的には飼い主が送迎する必要があるので、徒歩で行けない距離の場合は移動手段を確保しなければなりません。
ペットシッターのメリット・デメリット
ペットシッターのメリットは、自宅にいながらお世話してもらえるので愛猫のストレスが少ないということです。また、ペットホテルまでの送迎も不要なので、飼い主の手間が省けます。とくに複数飼いの飼い主にとっては、頼もしい存在といえるでしょう。
デメリットは、お世話してもらう時間以外は愛猫だけになるので様子がわからないことです。1日に数回の訪問をオーダーすることも可能ですが、一般的には1日1回の訪問なので、甘えん坊の猫の場合は、寂しがるかもしれません。体調をくずしてしまった場合や天候の急変などによる室内の温度管理なども、緊急で対応することはできません。また、ペットシッターに鍵を預けることが不安という飼い主さんもいるようです。
愛猫と飼い主にとって負担のかからない選択を
ペットホテルやペットシッターを利用しなくてはいけない状況や事情は、その都度異なります。長期間預けたい、他人に鍵を預けるのは不安という飼い主さんや、人がそばにいないと不安になるタイプの猫であればペットホテルがおすすめです。逆に不慣れな環境に弱い猫であればペットシッターを選んだほうがよいでしょう。もし猫に持病があり特別な食事療法や治療などが必要であれば、動物病院に併設したホテルにお願いするという選択肢もあります。
愛猫の特徴や性格を考えたホテル選びを
一般的に、猫は環境が変わることにストレスを感じるといわれていますが、当然愛猫の年齢や性格などによっても大きく変わります。愛猫がどういうことを嫌がるのか、逆にどういう状況を好むのか、現在の健康状態は? など、日々一緒に暮らしている飼い主さん以上の理解者はいません。事前に情報収集して注意ポイントなどを知っておけば、愛猫と飼い主の両方にマッチしたホテルが見つかるはずです。いざというときのために、準備しておきましょう。
監修/薬師寺 康子先生(ペットライフコンサルタント・株式会社クララ代表 )
文/山本 花
※一部写真はスマホアプリ「まいにちのねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。