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【獣医師が解説】猫にパンを与えてはいけない理由 特にダメなパンは

猫に人間用のパンを与えてはいけません。パンには砂糖や塩、バター、保存料などが使われていたり、玉ねぎやチョコレートといった猫が食べたら危険な食材が含まれていたりすることがあるからです。猫が人間用のパンを誤食した場合に考えられる症状と対処法を紹介します。

佐野 忠士 先生

猫はパンを食べてはいけない。調理パン・菓子パンなどは使われる食材によって命の危険があることも

Jupiterimages/gettyimages
人にとっては主食のひとつであるパン。「猫もパンを食べても大丈夫」と思っている人は多いかもしれません。しかし、じつはパンは猫にとっては必要のない、むしろ害のほうが多い食べ物なのです。

猫は本来、狩りをして食べ物を確保してきた肉食動物なので、そもそも炭水化物を消化するのが苦手です。そのため、炭水化物のパンを過剰に摂取すると、消化不良を起こして下痢や便秘になる可能性も。さらに、人用に作られたパンに入っている砂糖や塩、バターの量は、人間よりもはるかに体の小さな猫にとっては過剰な量であり、病気や体調不良の原因にもなりかねません。

また、調理パンや菓子パンのなかには、玉ねぎやレーズン、チョコレートといった猫の健康を害する危険な食べ物が使われているものがあります。飼い主さんが愛猫においしいパンをお裾分けしてあげたいと思う気持ちが、かえって猫の健康を害する結果になるのは避けたいものです。

しかしながら、なかにはパンを好んで食べる猫もいるようです。猫の嗜好性が決まる生後6週間から8週間程度の間にパンをよく食べていた猫は、成長してもパンを好んで食べるといわれています。とはいえ、猫本来の食生活にパンはとくに必要のない食べ物です。愛猫がほしがるからといって、積極的に与えるのはやめましょう。

猫がパンを食べたときに見られる症状|嘔吐、下痢、血尿、ふらつく、痙攣、意識を失うなどの中毒症状

真横を向いているブリティッシュショートヘアの横顔アップ
ねこのきもち投稿写真ギャラリー
チョコレートやレーズン、玉ねぎなど猫にとって危険な素材を使った調理パンや菓子パンはたくさんあります。おもなNG素材を例に、猫が食べてしまった場合に考えられる症状を紹介します。

チョコ入りパンを食べた場合

チョコレートの原料であるカカオ豆に入っている「テオブロミン」という成分は、猫の体内では分解されにくく、中毒の原因となります。
加熱など、調理を経てもテオブロミンの毒性は変わりません。猫のテオブロミン中毒のおもな症状は以下の通りです。

  • 嘔吐、下痢

  • 頻尿、血尿、失禁

  • 発熱

  • 呼吸が荒くなる、苦しそう

  • 痙攣、硬直

  • 息が荒くなる

  • 脈の乱れ(頻脈、不整脈など)

  • 意識を失う、昏睡、など


猫が食べてしまったチョコレートの量が多ければ多いほど危険です。摂取量が多いと24時間以内に死亡するケースもあります。

レーズン入りパンを食べた場合

犬がぶどうを食べると「ぶどう中毒」ともいわれる以下のような急性腎不全の症状が見られることから、猫でも同様のリスクがあると考えられています。加熱などの調理を経てもそのリスクは変わりません。

  • たくさん水を飲み、たくさん排尿する、もしくは尿が出なくなる

  • 嘔吐を繰り返す

  • 元気がなくなる

  • 食欲低下

  • アンモニア臭のような口臭がある

  • 痙攣する

  • 血圧や体温の低下

  • 昏睡 など


猫の急性腎不全は、急激に悪化して重篤な状態に陥りやすいのが特徴です。適切な処置を施しても、残念ながら命を落とすケースもあります。

玉ねぎ入りパンを食べた場合

調理パンに使われることの多い玉ねぎ。じつは、猫に「玉ねぎ中毒」を起こすとても危険な食材です。玉ねぎに含まれる成分のひとつである「有機チオ硫酸化物(チオスルフィン酸化合物)」が、猫の体内で貧血を起こし、重篤になれば命を落とすこともあります。なお、玉ねぎのほかにも、ネギやニラ、ニンニクなどネギ科の野菜は、すべて中毒の原因となるので、猫の口に入らないよう注意が必要です。加熱などの調理を経てもそのリスクは変わりません。猫の玉ねぎ中毒のおもな症状は以下の通りです。

  • 元気がなくなる

  • 下痢、嘔吐をする

  • 血尿が出る

  • 発熱する

  • ふらついて歩けなくなる

  • 歯茎や目の結膜が白くなる(貧血の症状)

  • 粘膜が黄色く見える(黄疸が出る)

  • 呼吸や脈が速くなる

  • 呼吸困難になる

  • 血便が出る

  • 吐血する

  • 意識を失う(ショック状態) など


なかでも血尿と貧血は猫の「ネギ中毒」の代表的な症状です。愛猫がネギを誤食した、または誤食した可能性があり、ピンク色の尿(血尿)が出たり、足元がふらふらし始めたら、ネギ中毒の可能性が高いです。すぐに動物病院を受診してください。

症状が出るまでの時間

パンは、メーカーやお店によって原材料もレシピも異なるので、同じ種類のパンであっても含まれている原材料の量はそれぞれ違います。そのため、食べてからどのくらいで症状が現れるかを示すことはできません。

猫がパンを食べてしまった場合の対処方法

水玉模様のクッションの上に仰向けに寝ているアメリカンショートヘア
ねこのきもち投稿写真ギャラリー
目を離したすきに愛猫がパンを食べてしまった場合は、どのように対処すればよいのでしょうか。万が一のときに備えて、以下の点をチェックしておきましょう。

何らかの症状が出たら病院へ

食パンやロールパンなどプレーンなパンを少しかじった程度なら、それほど心配はないので慌てて病院に駆け込む必要はありません。まずは、飼い主さんが落ち着いて愛猫の様子を観察し、もし何らかの症状が確認されたら病院へ連れていきましょう。プレーンなパンでも食べた量が多い場合は、症状の有無に関係なく、念のため動物病院で診察を受けたほうが安心です。

ただし、チョコやレーズン、玉ねぎといった猫には危険な食材が含まれているパンを食べてしまった(と思われる)場合は、症状が現れていなくても、なるべく早く病院へ連れていってください。

なお、病院に行く際には、何をどのくらい食べたか、食べてからの経過時間、症状などをメモして持っていくと、診察および治療がスムーズに進みます。

病院での治療方法

猫がパンを食べた場合、病院で施される可能性のある治療法を紹介します。

中毒症状の原因物質を取り除く

食べてからあまり時間が経っていない場合は、催吐処置で食べたものを吐き出させます。食べてから約2〜4時間以内で緊急性が高い場合は、全身麻酔をかけて胃洗浄が行われることも。また、活性炭などの吸着剤や下剤を使って毒物の除去を図ることもあります。

ちなみに、食べたものを吐き出させる催吐処置は医療行為です。飼い主さんが無理やり吐かせようとするのは、たいへん危険なので、絶対にしないでください。

症状に応じた対症療法を行う

玉ねぎ中毒になって重度の貧血がある場合には、輸血を行うことも。また、ぶどう中毒で腎臓がダメージを受けている場合や、チョコレートのテオブロミン中毒による下痢や嘔吐、その他の症状に対して、点滴や経口でビタミン剤や薬を投与し、症状の改善と体力の回復を図る場合もあります。

猫がパンを食べてはいけない理由|多様な調味料やNG食材による健康被害、アレルギー発症の危険あり

白い布製のボールにすっぽり収まってこちらを見ている鼻の左側が黒い白黒のMIX
ねこのきもち投稿写真ギャラリー
猫に人間用のパンを与えてはいけない理由を紹介します。

市販品は調味料などさまざまな材料が含まれている

パンのおもな原材料は小麦ですが、そのほかにも塩や砂糖、バターなどの油脂類、イースト菌などさまざまな調味料が入っています。それらは人間にとってはごく少量ですが、体の小さな猫にとっては過剰な量になります。塩分過多は高血圧の原因となり、心臓や腎臓に負担を与える可能性があります。また、糖分や脂分を過剰に摂取すると肥満や糖尿病、歯周病を誘発しかねません。

市販の調理パンや菓子パンには猫に有害な原料が使用されていることも

猫の中毒の原因としてよく知られているチョコレート、ネギ類、ぶどうのほかにも、アーモンドやピーナッツ、人間用の牛乳など猫に与えてはいけない食べ物はたくさんあります。調理パンや菓子パンには、見た目でわからなくてもこれらのNG食材が入っている場合があるので、とくに注意が必要です。

食物アレルギー

パンの主原料である小麦は、人間と同じように犬にとってもアレルギーを発症しやすい食材のひとつです。食物アレルギーはタンパク質に免疫機能が過剰反応して起こる現象ですが、小麦粉に含まれるグルテンというタンパク質をうまく消化・吸収できないことによってアレルギー症状が起きることがあります。

また、小麦粉のほかにも食物アレルギーの原因となりうる材料が含まれていることがあります。たとえば卵、とうもろこし、牛乳など。最近は小麦の代わりに米粉を使ったパンも目にするようになりましたが、小麦アレルギーは回避できても原材料として含まれている卵や牛乳でアレルギーを発症する猫もいるので、もともとアレルギー体質のある猫がパンを誤食しないよう注意が必要です。

危険な量の目安

食パンやロールパンほかプレーンなパンに含まれている材料や調味料の量や、調理パンや菓子パンなどに含まれるNG食材の量は正確に測ることができないため、危険な量がどれくらいなのかはわかりません。参考までに、猫の体に害を及ぼす危険な食べ物に関する致死量を紹介します。

チョコレート(テオブロミン中毒量)

猫は体重1Kgあたりテオブロミン10mg~50mgを摂取すると中毒・アレルギーが発症するといわれています。危険な量は、体重1Kgあたりテオブロミン125mgぐらいと考えられています。ただし、カカオの含有量はチョコレートの種類によって異なり、テオブロミンに対する感受性にも個体差があるので、「ごく少量でも命を落とす危険あり」と覚えておきましょう。

ネギ類(ネギ中毒量)

一般的には体重1Kgあたり5g~10gで中毒症状が現れるといわれています。致死量は明らかではありませんが、個体差もあり、ほんの少しでも致死量になる場合があります。

レーズン(ぶどう中毒量)

猫がぶどうやレーズンを誤食したときの危険目安量は、体重1Kgあたり10g~30gを摂取すると、中毒・アレルギーが発症しやすいといわれています。体重4~5Kgの猫なら、1日あたりの摂取可能量は40g~150g。
危険な量の目安は、巨峰なら約3粒~約10粒、マスカットで約7粒~約25粒、デラウェアで約20粒~約75粒と考えられます。

食塩

塩は猫の体になくてはならないものですが、過剰に摂取すれば逆に健康を害する危険なものになります。食塩2g~3gで中毒症状が現れ、4gで命を脅かすといわれています。

猫のパン誤飲を防ぐ方法

茶色&白、黒&白の2匹の猫が体を寄せ合って座り正面を向いている
ねこのきもち投稿写真ギャラリー
飼い主さんが猫にパンを与えなくても、席を立った際など目を離したすきに、愛猫がテーブルの上にあったパンをかじってしまうことも考えられます。

プレーンな食パンやロールパンをほんの少しかじった程度なら、それほど体調に影響はないと考えられますが、レーズン入りのパンやチョコを生地に練りこんであるパン、玉ねぎ入りの調理パンなど、猫にとって危険な食材が入っているパンを食べてしまったらたいへんです。

食事の途中で席を離れる場合は、猫が食べてしまったりしないようにパンの置き場所に注意し、パンのかけらが落ちたらきれいに掃除をしておくなど、猫の口にパンが入らないようくれぐれも注意しましょう。

人間用のパンは猫に積極的に与える食べ物ではない。与えるなら猫用パン、または手作りパンを

人間にとって安全でおいしい食べ物でも、猫にとっては健康に害を及ぼす危険な食べ物があります。パンもそのひとつ。猫の健康を脅かさないためには、人間用のパンは与えないようにしましょう。
監修/佐野忠士先生(酪農学園大学 獣医学群 獣医学類 准教授 )
文/村田典子
※一部写真はスマホアプリ「まいにちのねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
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