メス猫を新しく迎えたときにまず考えなければいけないのが、避妊手術を受けさせるのかどうかです。そこで今回は、避妊手術の必要性からメリット・デメリット、手術の種類や流れ、受ける時期、術後のケア方法や注意点まで詳しく解説します。
メス猫は必ず避妊手術が必要なの?受けるメリットは?
避妊手術は健康な猫の体にメスを入れることになるため、愛猫の負担も考えると受けさせたくないと考える飼い主さんもいるかもしれません。そもそも、メス猫は避妊手術を必ず受ける必要があるのでしょうか? 避妊手術を受けるメリットとともに見ていきましょう。
愛猫に避妊手術をうけさせている飼い主さんの割合
ねこのきもちアプリにて、400名の飼い主さんを対象に「猫の避妊手術」についてアンケート調査をしたところ、87%もの飼い主さんが愛猫に避妊手術を受けさせていることが明らかになりました。
この結果から、ほとんどの飼い主さんが、避妊手術は必要なものだと思って愛猫に受けさせていることがわかりますよね。では避妊手術を受けるメリットとはなんなのでしょうか?
メリット1.望まない妊娠を避けられる
避妊手術を受けるメリットのひとつとしてまず挙げられるのが、「望まない妊娠」を避けられることです。猫は交尾することで排卵が起こるという特徴をもっているため、一度交尾すると高い確率で妊娠してしまいます。
完全室内飼いの猫であっても、脱走やノラ猫の侵入によって、愛猫が交尾して妊娠するという危険性はゼロではありません。知らないうちに子猫を産んでノラ猫を増やしていたなんて事態を防ぐためにも、愛猫の妊娠を望んでいないのであれば避妊手術を受けるのがおすすめです。
メリット2.病気の予防になる
2つ目のメリットとしては、子宮や卵巣など、手術で切除する部位の病気の予防が挙げられます。例えば、乳腺腫瘍という悪性腫瘍(乳がん)や卵巣が肥大して起こる卵胞嚢腫(らんぽうのうしゅ)、子宮内膜症、子宮に膿がたまる子宮蓄膿症。これらの病気は避妊手術をしていない猫の発症率が非常に高いため、避妊手術をすることで予防につながることが考えられます。
メリット3.発情期のストレスを軽減できる
3つ目のメリットが、発情期のストレスを軽減できることです。前述したように猫は交尾することで排卵が起きますが、言いかえると交尾なしには排卵できないということです。発情は排卵することで治まるため、交尾できず発情が止まらないことでストレスがたまり、体調をくずすおそれもあります。
避妊手術を行い発情しないようにすることで、交尾ができないストレスから猫を守ることができます。また発情期に伴う大きな鳴き声などの本能的行動も抑制することができるため、猫だけでなく飼い主さんのメリットにもなります。
メリットが多いので避妊手術は受けるのが望ましい
避妊手術はメリットが多く、愛猫の体や心の健康を守るうえでも必要不可欠な施術です。現在は、飼い主さんの間でも病気予防として当たり前のように受け入れられ、動物病院などでも避妊手術をすることが推奨されています。体が弱いなどの特段の理由がない限りは、愛猫に避妊手術を受けさせるのが望ましいでしょう。
避妊手術を受けるデメリットは?安全性に問題は?
避妊手術はメリットが多いことはわかりましたが、デメリットはなにかあるのでしょうか?
全身麻酔でアレルギーが出ることがある
猫の避妊手術には全身麻酔が必要になるため、体調や体質によってはアレルギー反応が出ることもあります。しかし、現在は麻酔が改善されて安全性が高いため、避妊手術時の麻酔での死亡は非常にまれです。
ホルモンバランスの影響で太りやすくなる
子宮や卵巣を摘出することでホルモンバランスが変化し、代謝が落ちて体重が増えてしまうことが考えられます。避妊手術後はしっかり愛猫の体重管理をしてあげましょう。
手術直後は体調不良が出る場合も
全身麻酔や術後に飲む痛み止めなどの影響で、以下のような体調不良が出る場合もあります。
- 元気がなくなる
- ずっとうなっている
- 呼吸が速い・荒くなる
- うなだれる・うずくまって動かなくなる
- ゲップやあくびをやたらとする
- 鼻をなめる・舌なめずりを頻繁にする
- 吐く、または吐くようなしぐさをする
- よだれが止まらない
体調不良が続くとストレスがたまり、別の病気を引き起こしてしまいかねません。術後このような症状がずっと止まらない場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
持病がある場合は手術をしない選択をするのもあり
避妊手術は、大きな痛みや大量の出血を伴うようなものではないため、愛猫の体調がよっぽど悪くなければ受けることが望ましいとされています。ただし、臓器に奇形があったり、腎臓や肝臓に疾患があったりする場合は、麻酔の解毒などがうまくできないおそれがあります。その場合は、避妊手術をしないという選択もあるでしょう。
避妊手術後の猫の様子や行動については、以下の記事も参考にしてください。
猫が避妊手術を受けるのに適した時期
では、避妊手術はいつごろに受けるべきなのでしょうか? 月齢や体格などの観点から、避妊手術に最適な時期を見ていきましょう。
月齢から見る手術時期
メス猫が避妊手術を受けるのに最適な時期は、オス猫の去勢手術と比べると少しはやい5カ月ごろが目安といわれています。これはメス猫の発情が生後6か月ごろから始まるため、その前に手術を済ませることが病気の予防にもつながるとされているためです。
体格から見る手術時期
避妊手術を行うには年齢もそうですが、手術に耐えられるよう、体もある程度成長していることが望ましいとされています。個体差もあるため一概にはいえませんが、体重2kg前後というのが判断ポイントといえます。
行動から見る手術時期
愛猫に以下のような行動がみられる場合は発情を迎えている可能性があるため、できるだけ早く避妊手術を受けることをおすすめします。
- 甲高い声で遠吠えのように頻繁に鳴く
- 飼い主さんの体やものに体を擦りつけてくる
- 体を床に擦りつけようとゴロゴロ回転する
- 体を床につけてお尻を高く上げる
- スプレー行動や粗相をする
実際に飼い主さんたちが手術を受けさせた時期とは
愛猫に避妊手術を受けさせた飼い主さんたちに、冒頭でご紹介したアンケートのなかで、「何才・何ヶ月ごろに手術を受けたか教えてください」と質問したところ、5カ月~7カ月あたりに手術を受けさせたという回答が多く見られました。
そのほかでは、遅くても1才以内には受けさせている飼い主さんが多いですが、なかには「2才と4才で受けました」「よそからもらって12才になる前に乳がんと避妊手術を一緒に受けた」との声も。ただし、こちらは特殊なケースではあるので、意見が多かった5カ月~7カ月あたりに受けさせるのがよいでしょう。
メス猫の発情時期については以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
猫の避妊手術の方法と流れ
ここからは、実際の避妊手術の流れや費用について見ていきましょう。
避妊手術は開腹手術と腹腔鏡手術の2種類がある
避妊手術には、お腹を大きく切って卵巣を取り出す「開腹手術」と、最小限の切開で傷を小さく済ませる「腹腔鏡手術」の2種類があります。それぞれ手術の仕方や、卵巣切除、卵巣および子宮切除など取り除く臓器も異なります。費用は「卵巣切除<卵巣・子宮切除、開腹手術<腹腔鏡手術」の順で上がっていく場合が多いです。
開腹手術の内容・費用
避妊手術で一般的に行われているのが開腹手術です。開腹手術ではメス猫の下腹部を3~5cmほど切開し、卵巣や子宮を取り除きます。縫合まで約1時間と短時間で終わり、場合によっては入院せず当日帰れることもあります。費用は病院によって異なりますが、大体15,000円〜80,000円ほどです(検査や麻酔などの費用が含まれる場合もあるため差があります)。
腹腔鏡手術の内容・費用
腹腔鏡手術は最近増えている手術法です。お腹の3カ所に3〜5mmほどの小さい切開をして、そこから内視鏡や手術器具を入れます。開腹手術よりも傷跡が小さく済むだけでなく、臓器への負担が小さく痛みも少ないのが特徴です。こちらも費用は病院ごとに異なりますが、開腹手術よりも高くなることが多いでしょう。
手術の流れ1.事前検査(麻酔前検査)
人の手術前にも行われる術前の健康診断のことです。検査内容は病院によって異なりますが、主に血液検査とレントゲン撮影です。血液検査では臓器機能の異常やウイルス感染、先天的な持病がないかを調べます。レントゲン撮影では内臓の位置や形と大きさ、骨格に問題がないかなどを確認します。
血液検査とレントゲン撮影の結果を考慮し、手術に耐えうるか総合的に判断しますが、検査結果次第では手術ができなくなるケースもあります。万が一を考え、事前の検査はしっかりと受けることが大切です。
手術の流れ2.前夜から絶食・絶水
手術では全身麻酔をしてお腹も切るため、前日の夜から絶食・絶水をして胃を空っぽにします。ただし、気温が高い夏場に手術を行なう際は、場合によっては、手術の数時間前までなら水は摂取してもかまいません。
手術の流れ3.麻酔・手術
全身麻酔をして手術を行います。手術ではお腹を切るため、切開する部分がよく見えるようにお腹の毛を剃り、消毒を行います。ちなみに最近は麻酔薬だけでなく、血圧を調整する薬や痛みをなくす薬など、さまざまな角度からアプローチをすることで全体の投薬量を減らすバランス麻酔や、抜糸を必要としない溶ける糸を使用する動物病院も増えています。
手術の流れ4.入院
入院するかどうかは動物病院によって異なりますが、メス猫の場合はオス猫よりも手術での負担が大きいため、1日〜数日ほど入院することがあります。麻酔から覚めた後は、病院で様子を見ながら体に異常がないかを確認されます。
手術の流れ5.抜糸・経過観察
抜糸は、避妊手術から1週間~10日以降に行います。この時点ではまだ患部が腫れていることもありますが、抜糸後も特に痛がらず、自宅での食事や排泄に異常が見られなければ通常の生活に戻れます。
避妊手術後のケア方法・注意点
愛猫が避妊手術を終えた後は、以下の点に注意しながらケアを行うようにしましょう。
傷口をなめないようエリザベスカラーなどで保護する
感染症を引き起こさないためにも、術後は傷口を清潔に保つ必要があります。愛猫が傷口をなめたりいじったりしないよう、首にエリザベスカラーをつけてあげましょう。排泄物などで汚れないよう、お腹を覆い隠せる術後服を着せてもいいですね。
猫によっては、エリザベスカラーや術後服を嫌がる場合があります。しばらくすると慣れて気にならなくなることがほとんどですが、ストレスを感じたりパニックを起こしたりすることもあります。その場合は無理につけようとせず、獣医師に相談してみてください。
猫が落ち着ける場所で静かに休ませる
術後しばらくは麻酔などの影響で、ウトウトしたりぼーっとしたりしています。また、体温調整がうまくいかず、低体温になったり体調をくずしたりすることも考えられます。退院後しばらくは落ち着ける場所で静かに休ませ、獣医師に指示されたお世話をしましょう。
体調や行動に異変が見られないかチェックする
術後1日程度は痛みや体温調整がうまくいかないことで、元気がない、ふるえているなどの異変がみられる場合があります。数日経てば元に戻りますが、長期間体調や行動に異変がみられる場合は別の原因が考えられます。
食欲や排泄物、呼吸に乱れはないか、出血をしていないかなど、愛猫の体調や状態をよく観察し、少しでも異変がみられる場合は動物病院を受診してください。
肥満にならないよう運動や食事の管理をしっかりする
前述したように、避妊手術をすると猫は太りやすくなるといわれています。手術前と同じような量の食事を与えてしまうと、エネルギー消費がうまくできずに肥満になり、糖尿病などの病気を引き起こすおそれがあります。
低カロリーフードなど体重管理用のフードに切り替えたり、運動量を増やしたりと、体重管理を徹底して行うことが必要となります。
避妊手術は獣医師とよく相談したうえで受けよう!
避妊手術は妊娠を防ぐ以外にも、病気やストレスの予防などさまざまなメリットがあります。もし子どもを産む予定がないのであれば、「愛猫の健康を守る」という考えのもと、避妊手術を検討してはいかがでしょうか? ただし、猫によってはデメリットが大きい場合もあるので、獣医師とよく相談してから受けるようにしてくださいね。
避妊手術についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
参考/「ねこのきもち」17年5月号『術後の“?”もスッキリ!去勢・避妊手術のすべて』
監修/佐藤貴紀先生(目黒アニマルメディカルセンター 隅田川動物病院 循環器担当)
文/pigeon
※写真はスマホアプリ「いぬ・ねこのきもち」で投稿されたものです。
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
※アンケート/2020年9月実施「ねこのきもちアプリ」内アンケート調査(回答者数 400人)