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【獣医師監修】猫の腎不全(腎臓病) 初期の症状から末期のケアまで
死亡率が高いことでも知られる、猫の腎不全。しかも猫は体質上、腎不全にかかりやすい傾向があるので注意が必要です。そこで今回は、猫の腎不全の主な症状と原因、検査法、予防法、治療法を解説します。末期になった愛猫のためにできるケアもご紹介します。

田草川 佳実 先生
獣医師
聖母坂どうぶつ病院副院長
北里大学獣医畜産学部(現 獣医学部)獣医学科卒業
●資格:獣医師/認定こいぬこねこ教育アドバイザー(JAHA認定)/General Practitioner Certificate IN Small Animal Surgery(小動物外科学)
●所属:日本獣医動物行動研究会/日本獣医がん学会/日本獣医腎泌尿器学会
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聖母坂どうぶつ病院副院長
北里大学獣医畜産学部(現 獣医学部)獣医学科卒業
●資格:獣医師/認定こいぬこねこ教育アドバイザー(JAHA認定)/General Practitioner Certificate IN Small Animal Surgery(小動物外科学)
●所属:日本獣医動物行動研究会/日本獣医がん学会/日本獣医腎泌尿器学会
腎不全ってどんな病気? 慢性/急性の違いやステージごとの症状とは
腎不全は腎臓の機能が低下してしまう病気です。腎臓は体内の老廃物をろ過して、オシッコとして体外に排出する働きをしているため、腎不全になると体内に毒素が溜まり、体にさまざまな不調を引き起こすようになります。最悪の場合は死に至ることもあるため、非常に恐ろしい病気といえるでしょう。
なお、猫の腎不全には「慢性腎不全」と「急性腎不全」の2種類あり、3ヵ月以上継続して腎臓の機能低下が起きているか、GFR(糸球体濾過量)の50%以上に障害が確認される場合に慢性腎不全と判断されます。猫の場合は慢性腎不全のほうが多いといわれ、それぞれ次のような症状が見られるので、気になる様子の変化が見られるときはすぐに動物病院を受診しましょう。
なお、猫の腎不全には「慢性腎不全」と「急性腎不全」の2種類あり、3ヵ月以上継続して腎臓の機能低下が起きているか、GFR(糸球体濾過量)の50%以上に障害が確認される場合に慢性腎不全と判断されます。猫の場合は慢性腎不全のほうが多いといわれ、それぞれ次のような症状が見られるので、気になる様子の変化が見られるときはすぐに動物病院を受診しましょう。
慢性腎不全
慢性腎不全とは、腎機能が低下した状態が長期間続いている状態を指します。目立った初期症状はほとんど見られないため、飼い主さんが異変に気づいたころには病気がかなり進行しているケースが多いです。
慢性腎不全のステージと症状
初期(ステージⅠ)
腎機能低下の初期のステージです。ほぼ症状がなく、健康診断でたまたま検出されることが多いです。
中期(ステージⅡ)
水を飲む量やオシッコの量が増える猫もいますが、まだ症状がでない猫もいます。水を飲む量が増える場合は、オシッコの色も水のように薄くなるでしょう。血液検査の数値は正常~やや高値という状態です。
後期(ステージⅢ)
腎臓の機能がかなり低下している状態です。血液検査でクレアチニンや尿素窒素(BUN)の数値が高くなり、貧血・便秘・多飲多尿・食欲不振・嘔吐などの症状が見られます。
末期(ステージⅣ)
腎臓がほぼ機能しないことで尿が作れなくなり、尿の量が減ったり(乏尿)出なくなったりします(無尿)。尿毒症の症状が出て、衰弱している状態です。後期の症状に加え、体重減少・無気力・虚弱といった症状が見られ、けいれんなどの神経症状が出てくると、死に至る危険性があります。
急性腎不全
急性腎不全は、ほかの病気や中毒、脱水などが原因で急激に腎臓の機能が低下し、一時的に腎臓が障害をきたすことで発症します。治療により回復した場合でも、後遺症として慢性腎不全になる可能性もあるでしょう。
急性腎不全の症状
- 食欲低下
- 元気がない
- 下痢や嘔吐を繰り返す
- けいれんする
- 乏尿(ぼうにょう)、無尿
- 体温が低下する など
腎不全になりやすい猫の傾向とは
腎不全の原因
慢性腎不全の原因は、加齢とともに炎症、感染、酸化などで腎臓がダメージを受けることとされています。そのため、腎不全の症状が見られるようになるのは、7才以上の猫が多い傾向にあります。
それに対し、急性腎不全は下部尿路疾患や心不全、伝染性腹膜炎の感染症、中毒、重度の脱水により腎臓に負担がかかり発症するといわれています。
それに対し、急性腎不全は下部尿路疾患や心不全、伝染性腹膜炎の感染症、中毒、重度の脱水により腎臓に負担がかかり発症するといわれています。
腎不全になりやすい猫
一般的に、8才以上の猫は、腎臓の機能が衰え始める傾向にあるため、腎不全になりやすいといわれています。また、これまでに尿石症にかかったことがある猫や遺伝的に腎臓の発達が悪い猫、血圧が高い猫、ウイルス感染症にかかっている猫、自己免疫疾患を患っている猫、急性腎不全にかかったことがある猫も腎不全になりやすい傾向があるでしょう。
そのほか、ペルシャ、アビシニアンなどの猫種では、遺伝する腎疾患の存在が報告されています。とはいえ、どの猫種でも発症するリスクはあるので十分注意しましょう。
そのほか、ペルシャ、アビシニアンなどの猫種では、遺伝する腎疾患の存在が報告されています。とはいえ、どの猫種でも発症するリスクはあるので十分注意しましょう。
また、尿路(腎臓・尿管・膀胱・尿道)の結石も腎不全のリスクとなるので、尿石症になりやすい猫は注意が必要です。結石のできやすい猫は、水をあまり飲まず尿の濃い猫、肥満傾向の猫、代謝異常などの体質をもつ猫です。
腎臓の結石は結石事体が腎臓にダメージを与えますし、尿道や尿管に詰まると産生された尿が排泄できなくなり腎臓にダメージを与えます。
膀胱結石は、尿道につまる可能性と、常に膀胱にダメージを与えることで慢性の膀胱炎になります。
慢性膀胱炎になると膀胱本来の能力である伸び縮みが十分でなく、完全に排尿しきれなくなります。残尿すると、そこには細菌が繁殖しやすく、そこから腎盂腎炎⇒腎不全、というリスクがあります。
腎臓の結石は結石事体が腎臓にダメージを与えますし、尿道や尿管に詰まると産生された尿が排泄できなくなり腎臓にダメージを与えます。
膀胱結石は、尿道につまる可能性と、常に膀胱にダメージを与えることで慢性の膀胱炎になります。
慢性膀胱炎になると膀胱本来の能力である伸び縮みが十分でなく、完全に排尿しきれなくなります。残尿すると、そこには細菌が繁殖しやすく、そこから腎盂腎炎⇒腎不全、というリスクがあります。
腎不全の検査と診断されたときの治療法
腎不全の検査方法
腎臓の機能が低下すると血液中にあるクレアチニンや尿素窒素(BUN)の値が高くなるため、血液検査を行うと腎臓病かどうかの判断が行えます。また、腎臓の機能が低下するとオシッコが薄くなるので、尿検査で見る尿比重の数値も腎臓病の指標になるでしょう。
場合によってはX線やエコー検査を行って、腎臓の大きさや形、石灰沈着、結石の有無などを確認することもあります。
場合によってはX線やエコー検査を行って、腎臓の大きさや形、石灰沈着、結石の有無などを確認することもあります。
腎不全の治療法
一般的な治療
腎臓病と診断されたらすぐに治療がスタートします。初期の段階では食事療法から始めるのが一般的とされ、低たんぱくかつ低リンの療法食に切り替え、腎臓への負担を減らします。そのほかには軽症の脱水を回復するためにペット用の保水液を与えたり、毒素を排出する活性炭や血圧・貧血症状の軽減を目的とした薬を処方されたりすることもあるでしょう。
それでも病気が進行してしまい中期になると、初期の治療を継続しつつ、皮下輸液の点滴をして脱水症状の緩和を行います。点滴の頻度は月2回~毎日と猫の状態によって違い、場合によっては獣医師指導のもと飼い主さんが自宅で行うこともあるでしょう。
さらに病状が悪くなり後期の頃に差し掛かると、栄養チューブの検討も必要になります。
それでも病気が進行してしまい中期になると、初期の治療を継続しつつ、皮下輸液の点滴をして脱水症状の緩和を行います。点滴の頻度は月2回~毎日と猫の状態によって違い、場合によっては獣医師指導のもと飼い主さんが自宅で行うこともあるでしょう。
さらに病状が悪くなり後期の頃に差し掛かると、栄養チューブの検討も必要になります。
再生医療という選択肢
腎臓病は死んだ細胞がオシッコの通り道に詰まることが原因となって、腎臓が壊れる病気です。いまから20年前に発見されたAIMという遺伝子には血液中の問題個所をしらせる働きがあり、それを目印にマクロファージなどの細胞が集まると、死んだ細胞を食べてくれるのです。現在は、このAIMを活かした治療薬の開発が進められていて商品化を目指しています。
もしかすると、近い将来に腎臓病の進行を抑える薬が登場するかもしれません。
もしかすると、近い将来に腎臓病の進行を抑える薬が登場するかもしれません。
腎不全闘病中の愛猫をもつ飼い主さんの体験談

2020年にねこのきもちが行った泌尿器の病気に関するアンケートによると、「愛猫がおしっこの病気(泌尿器の病気)にかかったことがある」と答えた飼い主さんが約4割という結果に。腎不全の原因にもなる泌尿器の病気は、決して他人事ではないといえるでしょう。
ではここで、読者アンケートによせられた、腎不全闘病中の愛猫をもつ飼い主さんの体験談を一部ご紹介します。
ではここで、読者アンケートによせられた、腎不全闘病中の愛猫をもつ飼い主さんの体験談を一部ご紹介します。
8才・オスの飼い主さん
【病気に気づいたきっかけ】
「愛猫がはじめてオシッコを失敗し、よく見たらオシッコに血が混じっていました」
【現在行っている治療法】
「初めは薬を飲み、療法食にして1週間ごとに検査に行っていました。症状がよくなるにつれて検査の間隔をあけていき、しばらくは半年に1回検査をして様子を見ていましたが、最近水を飲む量が増えたと思っていたら、腎不全になっていると言われて薬を飲んでいます」
7才・オスの飼い主さん
【病気に気づいたきっかけ】
「夜に悲鳴のような鳴き声で鳴き、トイレに頻繁に行くのにオシッコが出ていない様子が見られたため、朝を待って病院へ行きました」
【現在行っている治療法】
「動物病院を受診すると、腎不全のほか、腎臓結石、尿管結石、尿道閉塞にかかっていることがわかりました。尿道カテーテルでオシッコは出せたものの、石が次々詰まるためカテーテルを抜けず、セカンドオピニオンを経て、膀胱の石を取り尿道を広げる手術をしました。その後は腎臓サポートのフード、薬、サプリメント、自宅で輸液し、腎臓のケアをしつつ、再度石が詰まらないことを祈っています。今は元気に過ごしていますが、食事に飽き始めてきたので不安です」
末期になった愛猫のためにできること
愛猫が末期の腎不全といわれた場合、飼い主さんはどんなことをしてあげられるのでしょうか。末期の腎不全を患う愛猫のためにできるケアを紹介します。
極力食事をさせる
腎臓病を患うと、ほとんどの猫が食事をしなくなります。ただ、点滴は脱水症状や電解質を補うために行うものであり、猫がカロリーを摂取する方法は食事しかありません。
病状のことを考えると腎臓に負担がない低たんぱくな食事がベストですが、これらの療法食は嗜好性が低く、口にしてくれない猫も多いです。また、ドライフードはうまく飲み込めずに吐き出しやすいので、水分が多いウェットフードの中でカロリーが高めの物を選ぶといいでしょう。1回の食事量を少なくして、1日4~5回程度に分けてこまめに食べさせてあげましょう。
病状のことを考えると腎臓に負担がない低たんぱくな食事がベストですが、これらの療法食は嗜好性が低く、口にしてくれない猫も多いです。また、ドライフードはうまく飲み込めずに吐き出しやすいので、水分が多いウェットフードの中でカロリーが高めの物を選ぶといいでしょう。1回の食事量を少なくして、1日4~5回程度に分けてこまめに食べさせてあげましょう。
体を温めてあげる
猫が全く食事をとらなくなり、嘔吐する回数が増えると、平均より3度以上体温が低くなることがあります。そして体力温存のため、寒さを感じても涼しい場所を好むようになっていきます。
しかし、低体温は呼吸を浅くし、意識低下などを引き起こす可能性があるため、場合によっては命を危険にさらすことも。飼い主さんは室温を高くしたり、毛布を用意したりして、意識的に猫の体を温めてあげましょう。
しかし、低体温は呼吸を浅くし、意識低下などを引き起こす可能性があるため、場合によっては命を危険にさらすことも。飼い主さんは室温を高くしたり、毛布を用意したりして、意識的に猫の体を温めてあげましょう。
口からも水分補給する
皮下輸液で水分補給を促しますが、末期の腎不全を患う猫はうまく吸収できないことがあります。そのため点滴で水分を補っている場合でも、スポイトなどで水を少量ずつ飲ませることが大切になるでしょう。
状態によっては、水でも吐いてしまうことがあるので、猫の様子を見ながら少しずつ与えてください。
状態によっては、水でも吐いてしまうことがあるので、猫の様子を見ながら少しずつ与えてください。
排泄の介助をする
腎不全が高齢の猫に多いことも原因になりますが、筋肉量が落ちるとトイレへの移動や入口をまたぐことが困難になります。そのため、猫が排泄したそうにしている場合には飼い主さんがトイレへ連れて行き、状況によっては排泄時に腰を支えてあげる介助が必要になるでしょう。
年齢や水分摂取量から便が硬くなる場合には、排泄を促すマッサージが効果的な場合もあります。
年齢や水分摂取量から便が硬くなる場合には、排泄を促すマッサージが効果的な場合もあります。
床ずれを予防してあげる
どの病気でもそうですが、寝たきりの状態になると床ずれを起こす心配があります。同じ姿勢で寝続けていると血行が悪くなり、皮膚が壊死してしまうので、2~3時間おきに姿勢を変えてあげましょう。
猫の腎不全を予防するには
急性腎不全は原因や処置の早さによっては回復できる可能性のある病気ですが、慢性腎不全は残念ながら治療をしてもその機能を正常な状態まで回復させることはできません。残された元気な部分をなるべく維持し、病気の進行を遅らせることを目標とした治療しか行えないので、長くつきあっていく必要がある病気といえます。だからこそ腎不全は、病気の予防と早期発見が大切になるのです。
飲み水を工夫する
水分不足は泌尿器の病気の原因とされているので、水飲みボウルの数を増やす、流水タイプの自動給水器を使うなどして、猫の飲水量を確保する工夫をしましょう。また、猫は清潔で新鮮な水を好む傾向にあるので、こまめに水を交換して雑菌やカビの繁殖を抑えることも大切です。
こまめにトイレを掃除する
猫はキレイ好きな動物なので、トイレが汚れているとそそうをしたり、排泄を我慢したりしてしまうことがあるので注意が必要です。
また、こまめにトイレ掃除をすれば頻繁に排尿状況を確認できるので、異変に気付きやすいというメリットも。オシッコの量が増える、色が薄くなる、回数が増えるといった変化が見られたときは獣医師に相談しましょう。
また、こまめにトイレ掃除をすれば頻繁に排尿状況を確認できるので、異変に気付きやすいというメリットも。オシッコの量が増える、色が薄くなる、回数が増えるといった変化が見られたときは獣医師に相談しましょう。
部屋を整理整頓する
誤飲・誤食で中毒を起こし、腎不全を発症するケースもありますので、猫にとって危険なものはしっかり片付けましょう。たとえばブドウやユリ科の花、人の薬などは、猫が口にすると危険です。
定期的に健康診断を受ける
定期的に血液検査や尿検査を受けるといいでしょう。できればレントゲン検査や超音波検査もしておくと、腎不全の原因になる結石や腎臓の状態まで確認できるのでおすすめです。猫の年齢にもよりますが、年に1回程度を目安に動物病院で健康診断を受けるようにしましょう。シニアになったら半年に1回をおすすめします。
慢性腎不全の原因となる腎臓・尿管結石は、エコーやレントゲンで見つけることができます。「愛猫は元気だから大丈夫」と油断せず、愛猫の様子を日々観察するのはもちろん、猫の病気や健康に関する正しい知識を身につけて、定期的に動物病院で健康診断を受けるようにしましょう。
参考/「ねこのきもち」2017年11月号『飼い主さんに「できること」が増えている!慢性腎臓病最前線』
「ねこのきもち」2021年4月号『あらゆる分野でトップクラスが大研究!キャッと驚く東大猫学』
監修/田草川佳実先生(聖母坂どうぶつ病院副院長)
文/こさきはな
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
※アンケート/2020年8月実施「ねこのきもちアプリ」内アンケート調査(回答者数 400人)
「ねこのきもち」2021年4月号『あらゆる分野でトップクラスが大研究!キャッと驚く東大猫学』
監修/田草川佳実先生(聖母坂どうぶつ病院副院長)
文/こさきはな
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。
※アンケート/2020年8月実施「ねこのきもちアプリ」内アンケート調査(回答者数 400人)
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