猫が吐くと病院に行くべきか迷う飼い主さんも多いでしょう。そこでこの記事では、猫の危険な嘔吐や吐しゃ物の見極め方、吐く原因や注意したい病気、嘔吐を減らすための予防法について解説します。あわせて病院を受診する際の注意点もご紹介しましょう。
猫が吐く原因とは
猫は特に吐きやすい動物といわれています。その理由のひとつには、体に高い運動性をもたせるために胃が小さくなっていることが挙げられます。胃の内容量も少ないため、大量のフードを食べると許容量を超えて吐いてしまうのです。
猫が吐く詳細の原因については、以下で見ていきましょう。
早食い・食べ過ぎ
フードを早食いしたり食べ過ぎたりすると、一気に流れ込んできたフードに胃が対応しきれず、食後に吐くことがあります。また、肉食動物である猫はフードを噛まずに丸飲みする傾向が強いため、フードが食道につまる、消化が間に合わないなどの原因で吐き戻すケースも見られます。
お腹の空きすぎ
食事の間隔があいて空腹状態が長く続くと、胃酸や胆汁が出て胃腸に負担がかかり吐くことがあります。また、空っぽの胃の中に急にフードを入れると吐く場合も考えられます。
フードが合っていない
猫によってフードの好みや相性は異なります。フードには粒の大きさ・硬さ・成分などに違いがあるため、特定のタイプのフードだけ吐く猫もいます。そのような症状が見られる場合は、そのフードが猫の体質に合っていないことが考えられます。
胃に毛玉がたまっている
猫の舌はトゲがあってザラザラとしたブラシのような構造をしているため、毛づくろい(グルーミング)をすると、舌に引っかかった抜け毛が体内に取り込まれてしまいます。通常は便と一緒に毛も排出されますが、胃の中に大量に毛がたまると、毛玉として吐き出すことがあります。
特に長毛種の猫は、体内に取り込まれる毛の量が多いため、吐く回数も短毛種の猫より多くなります。また、初夏や秋ごろの換毛期にはたまる毛玉の量も増え、吐く回数も増加するでしょう。
異物の誤飲・誤食
猫がおもちゃや輪ゴム、ビニール袋などを誤飲・誤食すると吐くことがあります。特にリボンなどのヒモ状のものは、シルエットがヘビや小動物の腸に見えるため猫が誤食しやすく、とても注意が必要です。
異物誤飲についてくわしく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
ストレス
猫はストレスに敏感な動物のため、強いストレスを感じると吐くことがあります。ストレスの原因は猫によってさまざまで個体差もありますが、引っ越しや同居の猫の増加など環境の変化、運動不足や飼い主さんの過干渉など日常生活に対する不満などがあげられます。
吐く症状が見られる際に考えられる病気
吐く症状は、病気を発症した際にもよく見られます。愛猫が頻繁に吐いていて前述した原因が当てはまらない場合は、以下のような病気を疑ったほうがよいかもしれません。
毛球症
体内にたまった毛玉がうまく排出されず、胃の中で大きな塊となって消化管につまる病気です。症状の程度は飲み込んだ毛玉の量にもよりますが、主に食欲不振や嘔吐、消化機能の低下などを引き起こします。
まれに毛玉の塊が胃から腸に入り込み、腸が壊死する「腸閉塞」の状態になることもあります。この状態になってしまった場合はすぐに開腹手術を行い、胃にたまった毛玉を取り出す必要があります。
胃腸炎(三臓器炎)
胃や腸に炎症が起きる病気です。発症の原因は感染症やアレルギーなどさまざまです。主に、食欲の低下や嘔吐などの症状が見られます。また、肝炎やすい炎が複合的に炎症を起こし、症状が顕著に出ることもあります。
腎不全(尿閉)
血液中の老廃物をろ過して、尿として排出させる役割をもつ腎臓の機能が低下する病気です。重症化すると血液中に残った老廃物が増加して、「尿毒症」を発症するおそれもあります。尿毒症は食欲の低下や嘔吐などを引き起こし、命の危険を伴います。腎不全の原因に尿石などにより尿が出ない急性腎不全があり、その症状として吐き気を催すことがあります。
慢性腎不全や尿毒症については、以下の記事でくわしくご紹介しています。
甲状腺機能亢進症
喉元にある甲状腺からホルモンが過剰に分泌される病気で、中年齢から高齢のシニア猫が発症しやすいでしょう。多飲多尿になる、代謝が上がって体重が減少するなどさまざまな症状が出ますが、嘔吐や下痢の症状もよく見られます。心拍数も速くなるため、心臓病を併発するおそれもあります。
甲状腺機能亢進症の症状や治療方法については、こちらの記事をご覧ください。
腫瘍
消化管やリンパ腺に腫瘍ができて消化管が塞がれることで、猫が吐く場合があります。腫瘍ができる場所や進行の度合いによっては、重度の便秘を引き起こして吐き気を催すケースも見られます。
すい炎
すい臓に炎症が起きることで発症する病気で、近年に診断や発見が増えてきました。食欲の低下や嘔吐、下痢などの症状が見られ、肝炎や糖尿病を併発する場合もあります。
便秘
猫の便秘には、水分不足や巨大結腸症、骨盤腔が狭いことなどさまざまな原因があります。1日1回は排便が望ましい状態ですが、あまりに便秘が継続すると吐気を催すことになります。
上記の病気だけでなく、食物アレルギーや中毒、寄生虫の感染や熱中症などの場合でも吐くことがあります。いずれの場合も自己判断せず、愛猫が心配な吐き方をした場合は早急に動物病院を受診して、獣医師に相談することが大切です。
猫が吐いたらまず確認すること
実際に愛猫が嘔吐したときは、まず以下のポイントを確認しましょう。
吐くタイミング・回数・頻度
起きがけや食後など、どのタイミングで吐いたか、1日に何回吐いたかを注意して見ておきましょう。猫が吐く回数や頻度には明確な基準があるわけではありませんが、1日1~2回なら生理現象で吐いている可能性が高いので、正常といえる場合があります。
吐しゃ物の内容や嘔吐の仕方
詳しくは後述しますが、どのような内容の吐しゃ物を吐いたかで、嘔吐の原因を見極めることができます。吐しゃ物の内容や色、ニオイなどをチェックしましょう。
吐いた後の体調・状態
吐いた後に愛猫がどのような体調や状態をしているかでも、何が原因で吐いたのか、どのようなトラブルや病気が起きているのかをある程度判断することが可能です。以下のポイントを参考に、吐いた後の愛猫の状態をチェックしてみてください。
- 元気があるか・いつもと違う様子はないか
- 食欲が落ちていないか
- 下痢をしていないか
- 瞬膜(目頭にある白い保護膜のこと)が出ていないか
- ぐったりしていないか、ふらついていないか
- なかなか姿を見せないような隠れ方をしていないか
- 体に触れられるのを嫌がらないか
咳・よだれ・口臭の有無
吐くと同時に咳やよだれが出ていないか、嘔吐物や口から異臭がしていないかをチェックすることも重要です。場合によっては、中毒など重篤な症状を引き起こしている危険もあるので、愛猫が何を食べていたかもあわせて確認してください。
大丈夫な嘔吐・危険な嘔吐の見極め方
前述したように、猫が吐く原因や嘔吐後の症状はさまざまです。そのため、愛猫が吐いた後の対応に迷う飼い主さんも多いでしょう。
特に吐しゃ物は、猫の不調や吐く原因を探る一番の手がかりになるため、どんなものを吐いたか、異常や異物が見られないかなどをしっかりチェックしましょう。
吐しゃ物に異常がない場合でも、猫にいつもと違う行動や様子が見られるケースもあります。愛猫の体重や食欲、体の動かし方などに少しでも異変を感じたら、そのままにせず獣医師に相談してください。
様子見でも問題ない嘔吐・吐しゃ物
まずは急を要さない嘔吐の様子や吐しゃ物を見ていきましょう。こちらの場合は、生理現象で吐くなど一過性のものが多く、病気の心配も少ないため自宅での様子見でOKといえます。
未消化のフードを吐く(1回のみ)
食べたフードの種類や消化具合にもよりますが、食後すぐにほとんど未消化のフードを吐く場合は、早食いなどで消化できなかったフードを吐き戻したと考えられます。吐いた後も体調や食欲が変わらないようであれば、特に問題ないでしょう。
しかし、食べるたびに未消化のフードを吐くようであれば異常な所見なので、そのときは病院に行きましょう。
白い泡状・透明・黄色・黄緑色の液体を吐く
白い泡状や透明の吐しゃ物、黄色・黄緑色の液体が混ざった吐しゃ物は、空腹が原因で胃液を吐いたと考えられます。黄色や黄緑色の液体は、胆汁が混ざった胃液や腸液で、液体の量は、猫が水を飲んだりウエットフードを食べたりしていると多くなるでしょう。たまに吐く程度であれば問題ありません。
ただし、色のついた吐しゃ物が頻繁に続くのであれば獣医師に相談してください。
毛玉を吐く
前述したように猫は体内に毛を取り込みやすいため、よく胃液と一緒に毛玉を吐きます。吐いた後の体調が変わらず、毛玉の中に異物などが見られない場合は、特に問題ありません。
飲み込んだ毛の長さや色によって吐しゃ物の見た目は異なりますが、写真のような毛の塊を吐き出すことが多いでしょう。
ねこ草を吐く
ねこ草には吐き戻しを促す作用があるといわれています。そのため、愛猫にねこ草を与えている場合は、写真のようなねこ草を含んだ吐しゃ物を吐くことがあります。このとき、消化されたフードや毛玉を一緒に吐く場合も見られます。
様子見でも動物病院を受診すべき場合もあり
元気そうに見えても時間をおいて症状が悪化したり、危険なサインが出たりすることも考えられます。愛猫の体調に変化が見られなくても、次のような症状が出たら消化管などに異常が起きている疑いがあるので、獣医師に相談しましょう。
- 1日経っても便をしていない
- 1回の食事量が減った
- 消化前のフードを頻繁に吐く
- 体重が減っている
- 同じような症状が続く
動物病院を受診すべき危険な嘔吐・吐しゃ物
次に、危険な嘔吐の仕方や吐しゃ物を見ていきましょう。こちらは猫の体内で危険なトラブルや病気が起きている場合もあるので、すぐに動物病院を受診してください。
血が混じった赤・ピンク・茶色の液体を吐く
写真のように、血が混じった赤やピンク色の吐しゃ物の場合は、吐きすぎや胃液の逆流で食道や胃、消化管が傷つき出血している疑いがあります。重篤な病気を発症しているおそれもあるので注意が必要です。また、黒っぽい茶色の嘔吐物は血が酸化したものなので、同様に出血の危険性があります。
猫がこれらのような液体を吐くなら、出血性胃腸炎や十二指腸炎などの疑いもあるのですぐに受診しましょう。
おもちゃなどの異物を吐く
おもちゃなどの消化できない異物を誤飲・誤食すると、写真のような異物の混じった吐しゃ物を吐く場合があります。ものによっては消化器官を傷つけたり、中毒を起こしたりする危険性も考えられます。また、吐き切れず一部が体内に残ってしまうと、胃腸内でつまるおそれもあります。
重症化すると腹膜炎を起こす、臓器が壊死するなどのリスクがあるので、早急に切開手術が必要です。
食べたものや胃液を何度も吐く
正常な状態でも食べたものや胃液を吐くことはありますが、あまりにも頻繁に吐く場合は、誤飲や誤食を起こして食道がつまり、フードなどが胃まで届いていないケースが考えられます。
また、吐こうとしているものがうまく吐けないため、胃液などを吐いているケースも考えられます。
吐く回数・頻度が多い
1日に何回も吐いたり、連日激しく吐いたりする場合は、病気など別のトラブルが起きているおそれがあります。早く受診して、詳しい検査を受けてください。
嘔吐以外の症状が出ている
嘔吐のほかにそれ以外の症状が出ている場合は、前述した病気のほかに、ガンなどの重篤な病気を発症しているかもしれません。以下のような症状が見られる場合は、なるべく早く動物病院を受診してください。
- ふらつきなどの神経症状が出ている
- 嘔吐とともに、下痢の症状が認められる
- 1日以上オシッコが出ていない
- 2日以上便秘をしている
愛猫の嘔吐が心配な飼い主さんは、こちらの記事もチェックしてみてください。
動物病院を受診する際の注意点
愛猫の嘔吐の仕方や吐しゃ物を見極めて受診が必要と判断される場合は、どのような点に注意して動物病院に向かえばよいのでしょうか? 受診までにすべきことや注意点をご紹介します。
吐しゃ物を持参する
猫が嘔吐した原因を探るなら、吐しゃ物を見るのが有効です。実物があれば、どのような状態でどのようなものを吐いたか獣医師にも説明しやすいでしょう。愛猫の体調が落ち着いたら、吐しゃ物を動物病院に持っていく準備をしてください。
吐しゃ物はラップに包んで密閉容器に入れると、ニオイや液漏れを防ぐことができます。吐しゃ物の形状により持参が難しい場合は、スマホなどで写真を撮っておきましょう。異物が混入していた場合は、できるだけその部分をアップにして撮影してください。
吐いた状況や回数などを記録する
吐いたときの状況や様子について、できるだけ詳しい情報があると診察の助けになります。吐いたときの動画があるのがベストですが、ちょうどいいタイミングで動画を撮るのは難しいため、できるだけ詳細にメモを取りましょう。吐いた回数や時間、吐いた後の症状や様子などを控えておいてください。
キャリーケースを揺らさない
猫を動物病院に連れて行く際は、なるべくキャリーケースを揺らさないように注意しましょう。キャリーケースが揺れて猫の体が不安定になると、吐しゃ物を誤嚥(ごえん)して肺や気管に入るおそれがあります。
また車酔いなどを起こして、体調がより悪化するおそれも。キャリーケースをしっかり抱いて、揺らさないよう心がけてください。キャリーケースをタオルなどで覆うと、猫を落ち着かせやすいでしょう。
吐く症状を減らすための予防・対策法
猫は吐きやすい動物ですが、日常的に嘔吐を繰り返すのは体に負担がかかるうえ、別の病気を引き起こす危険性もあります。日ごろのお世話を工夫して、できるだけ愛猫が吐く回数を減らしましょう。
毛玉の予防・ケアをする
毛玉が原因で吐く場合は、猫が体内に取り込む抜け毛の量を減らすことが重要です。愛猫が毛づくろいをする前後に、以下のようなお世話やケアをおすすめします。
こまめにブラッシングをする
愛猫の体から抜け毛を減らしたいなら、毎日ブラッシングしましょう。長毛の猫なら1日2回など、こまめにブラッシングするよう心がけてください。
なかにはブラッシングなどのお世話が嫌いな猫もいるので、その場合はなでてリラックスさせながら、背中や腰など抵抗が少ない部分から始めるといいでしょう。
毛玉の排出を促すフードやケア用品を与える
体内に取り込んでしまった毛玉は、吐き出すよりも便と一緒に排出するのが望ましいです。ペットショップや動物病院には、消化器に働きかけて便と毛玉の排出を促すフードやサプリメントが販売されているので、そういったケア用品を処方してもらって愛猫に与えるといいでしょう。
愛猫がよく毛玉を吐く場合、以下の記事もぜひ参考にしてください。
フードの種類や量を変える
今のフードが愛猫に合わず吐き出してしまうなら、ほかのフードを試してみるといいでしょう。いきなり新しいフードに替えると、余計に吐くことも考えられるので、まずは現在のフードに新しいフードを1割程度混ぜて与え、2週間ほどかけてゆっくり変更しましょう。
また、早食いや食べ過ぎ、空腹が原因で吐く場合は一日量は変えずに、食事の回数を増やし、フードを少量ずつ4~5回に分けて与えるのが効果的です。こうすることで空腹の間隔が短くなり、胃に負担のかかる食べ方を防げます。
猫が興味をもちそうな物を片づける
好奇心旺盛な猫は、手の届く範囲に物が置かれていると興味をもってしまいます。触っているだけでも、飼い主さんが目を離した隙に口に入れてしまうおそれがあります。
猫が興味をもちそうなものや誤食しそうな小さいものは、猫の目や手が届かない場所に徹底して片づけましょう。ただし、猫は少しの高さや引き出しはものともしないので、開けられない高さの場所や密封容器にしまい、管理にも十分注意してください。
猫にストレスを与えない環境づくりをする
ストレスが原因で吐く場合は、思い当たる原因を改善し取り除きましょう。猫のストレスは環境の変化や日常生活の不満によるものが多いと考えられますので、以下のような生活環境の見直しを行いましょう。
- 以前の生活環境に可能な限り戻す
- 猫がくつろげる空間やスペースを作る
- 相性がよくない猫同士の居場所を分ける
- 過干渉せず愛猫のペースでスキンシップをはかる
また、猫によっては運動や遊びが不足して欲求不満になり、ストレスがたまるケースもあります。おもちゃでできるだけ遊ぶ、上下運動ができるようなグッズや家具を設置するなど、不満やストレスを発散させる工夫もしてみましょう。
愛猫の吐き方を見極めて正しい対処を
猫が吐く行為にはさまざまな原因が隠れています。「猫は吐く生き物だから」と油断していると、取り返しのつかない大病を引き起こす危険性もあります。ご紹介した吐しゃ物の見極め方やチェックポイントを参考に、日ごろから愛猫の様子を観察して、何か異変があったときには迅速に対処しましょう。
参考・写真/「ねこのきもち」2016年2月号『見極め方から掃除法まで “吐く学”な飼い主さんになろう! ねこの「吐く」大全』
参考/「ねこのきもち」2018年6月号『何を、どんな理由で吐くの? できることは? ねこの“吐く”を減らそうプロジェクト』
監修/佐藤貴紀先生(目黒アニマルメディカルセンター 隅田川動物病院 循環器担当)
文/松本マユ
※記事と一部写真に関連性はありませんので予めご了承ください。