犬と比べて、あまりよだれを出すイメージがない猫。実は猫がよだれを過剰に垂らしている場合、病気などのトラブルが考えられるため注意が必要です。今回は、猫のよだれの種類や原因、危険度の見極め方、ケースごとの対処法や予防法について解説します。
猫はふだんよだれをあまり出さない
犬は運動時や体温調整をするときなどに、パンティングという口を大きく開けてあえぐような呼吸をするため、日常的によだれが多く出ています。
一方、猫はグルーミングでついた唾液を気化させることで体の熱を逃がすため、口を開けて激しく呼吸をすることは少なく、よだれもそこまでの量を出すことはありません。そのため、猫が過剰によだれを垂らしている場合は、病気や中毒症状など、体に異変が起こっていることが考えられます。
とはいえ、リラックスしているときや、お腹がすいているときなどに出る緊急性の低いよだれもあるため、どんなよだれが出ているか、よだれと一緒にふだんと違う症状があらわれていないかなどをよく見極める必要があります。
猫のよだれの種類とそれぞれの危険度
ひとくちによだれといっても、粘度や色、ニオイを伴うものなどさまざまな状態のものがあります。ここでは猫によく見られるよだれの種類と、それぞれの危険度について解説します。
サラサラとしたよだれ
飼い主さんに甘えているときやグルーミングをしているときなど、気分がリラックスしているときに見られるよだれです。副交感神経が活発に働いていることでよだれの分泌量が増えているだけなので、特に心配はいりません。
ネバネバとしたよだれ
興奮したときや緊張状態にあるときによく見られるよだれです。交感神経の働きでよだれの分泌量が減って口の中が乾いただけなので、そこまで緊急性は高くありませんが、緊張状態が続くとストレスなど別のトラブルを引き起こすおそれもあるので、多少注意が必要です。
泡状のよだれ
けいれん発作を起こしたときや、有害物質を誤飲・誤食したときなどに見られるよだれです。発作の頻度や時間、飲み込んだ物質の種類や量によっては命にかかわる危険性があるので、迷わずすぐに動物病院を受診しましょう。
血混じりのよだれ
口内にできた傷やしこりから出血したときに見られるよだれで、茶色みを帯びていたり、ネバネバと粘度を伴っていたりすることもあります。
がんなどの緊急性の高い病気を引き起こしている危険性もあるため、よだれに血が混じっていることに気づいたらすぐに動物病院を受診し、出血の部位や原因を突き止めるようにしましょう。
緑や黄色など色のついたよだれ
細菌感染などが原因で口内にたまった膿が混じるよだれで、痛みや悪臭を伴うことがあります。歯の破損や口内の炎症など、深刻な口内トラブルが起きている危険性もあるので、できるだけ早く動物病院を受診してください。
口臭や嘔吐を伴うよだれ
強い口臭や嘔吐を伴うよだれは、口内や消化管の不調だけでなく、腸閉塞や腎不全などの重篤な疾患が起きていることが考えられます。進行すると取り返しのつかない事態を引き起こすおそれがあるので、すぐに動物病院を受診しましょう。
緊急性の低いよだれと緊急性の高いよだれの特徴については、以下の記事でも詳しく解説しているので、あわせて参考にしてみてください。
猫が過剰によだれを出す原因とは
猫が過剰によだれを出す原因としては、以下のような病気やトラブルが起きていることが考えられます。
口内トラブル
歯周病
歯周病は、歯ぐきや歯を支える周辺組織が炎症を起こす疾患です。猫のごはんは柔らかいものが多いため歯に食べカスがつきやすく、その食べカスから歯垢や歯石がたまって、歯ぐきの腫れや出血などの症状を引き起こしてしまいます。
歯周病が進行すると、膿や悪臭を伴うよだれが出るほか、口内の痛みや食欲不振、歯の抜け落ちなどが起きるおそれもあります。
歯周病については以下の記事でも詳しく解説しているので、あわせて参考にしてみてください。
口内炎
口内炎は、体の弱った猫や高齢の猫によく見られる、歯ぐきや舌、口内に炎症を起こす病気です。歯周病が悪化して発症することもありますが、「猫カリシウイルス感染症(猫カゼの代表的ウイルス)」などのウイルス性の病気の一症状として引き起こされることもあります。
発症すると口内の粘膜の腫れやただれ、悪臭を伴うよだれが見られるほか、目やにやくしゃみなどの風邪のような症状もあらわれることもあります。
口内炎と猫カリシウイルス感染症について以下の記事で詳しく解説しているので、それぞれ参考にしてみてくださいね。
腫瘍
皮膚がんの一種である「扁平上皮がん」や「線維肉腫(猫に多い口腔内腫瘍)」などの病気を発症すると、口内に大きな腫瘍やしこりができることがあります。進行すると、腫瘍やしこりがただれたり出血したりして血混じりのよだれが出るほか、口がうまく閉じられずに、よだれが過剰に分泌されることもあります。
消化管の異常・病気
腎不全や消化管腫瘍など消化管に病気や異常が起きると、猫にとって気持ち悪い感覚がずっと続き、嘔吐や食欲不振を伴うよだれが生じます。
腎不全については以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
熱中症
熱中症は、体が高温多湿の環境に適応できないことで起こるさまざまな症状の総称で、体温をうまく調整できなくなり、熱が下がらなくなることで引き起こされます。熱中症になると、呼吸が早く荒くなる、苦しそうにあえぐ、口を開けながらよだれを垂らすなどの症状が見られます。
そのまま放置していると、よだれを垂らしながらぐったりとふらつき始め、最悪けいれんを起こして死亡することもあるので注意が必要です。
以下の記事で熱中症について詳しく解説しているので、あわせて参考にしてみてください。
てんかん
てんかんは脳の神経細胞が興奮して起こる病気で、意識障害や泡状のよだれを伴う、けいれん発作などの症状が見られます。発作は数分でおさまる場合もありますが、重篤化すると長時間の発作を頻繁に繰り返すため、すぐに動物病院の受診が必要です。
誤飲・誤食
おもちゃなどの異物
猫は、遊んでいる最中に噛みちぎってしまったおもちゃの飾りや、おいしそうなニオイのする食品トレーなどを誤飲してしまうケースがよく見られます。よだれのほかに突然の嘔吐や下痢、食欲の低下などの症状が見られる場合は、何かしら誤飲しているおそれがあります。
誤飲したものの形状や大きさによっては、開腹手術で取り出さなければならないケースもあるため、すぐにかかりつけの獣医師の指示を仰ぎましょう。
中毒症状を引き起こす食材
口まわりのけいれんなど、神経症状を伴う泡状のよだれは、有害物質の誤食が疑われます。以下のような食材が猫のまわりにないかどうかすぐに確認し、処置がスムーズに行えるよう①いつ ②何を ③どれくらい 誤食したかを獣医師へ伝えられるようにしましょう。
- 玉ねぎ、長ねぎ、ニラ
- アワビ、ハマグリ、アサリなどの生の貝類
- 生のイカ、タコ、エビ、カニ
- イチジク
- ブドウ
- チョコレート、ココア
- 緑茶、コーヒー、紅茶
- アルコール など
誤飲については以下の記事でも詳しく解説しているので、参考にしてみてください。
骨・神経などの痛み
交通事故などで顎の骨を骨折したり神経を傷つけたりすると、痛みで口が閉じられず、よだれが過剰に出ることがあります。緊急治療が必要となってくるため、口が閉じられない、痛そうなそぶりなどが見られたら、患部に衝撃を与えないよう注意しながら、すぐに動物病院を受診してください。
猫のよだれの治療・予防法
口内の消毒・歯石除去
口内トラブルが原因のよだれの場合は、口内の洗浄や歯石の除去、口腔内細菌を減らすための抗生物質の投与などの治療を行います。状況によっては、麻酔をかけての抜歯治療も必要となります。口内炎でウイルス感染や内臓疾患が疑われる場合は、血液検査もあわせて行われます。
歯磨きによる予防も大事
口内トラブルを予防するには、口内を清潔に保って歯垢や歯石をためないことも重要です。日ごろから歯ブラシやガーゼを使った、歯磨きを習慣づけておくとよいですね。
ワクチン接種
口内炎の原因にもなる、猫カリシウイルス感染症などの一部のウイルス性の病気は、ワクチンを接種することで重症化を予防することができます。獣医師の指示を仰ぎながら、定期的にワクチンを接種しておくと安心です。
食事・飲水量の見直し
飲水量の不足や過剰な栄養のとりすぎは、体や臓器に負担をかけて熱中症や腎不全などを引き起こす原因にもなります。常に新鮮な水を用意しておくだけでなく、空腹や肥満を防止するために食事量の見直しをすることも大切です。
住環境の見直し
室温が高すぎたり、猫の手や口が届く範囲に観葉植物などを置いていたりすると、熱中症や誤飲・誤食を引き起こすおそれがあります。エアコンをつけて猫に適正な室温を保つほか、猫が行き来する場所にモノや植物を置かないようにしましょう。
ストレス対策
前述したように、極度の緊張状態からストレスを起こして過剰によだれを出すことも考えられます。ペットホテルなど慣れていない場所には連れて行かない、猫の生活空間に来客は招かないなど、猫のストレスになりそうなことは極力やらないようにしましょう。
愛猫の口内状況や体調をよく観察しておこう!
重篤な病気やトラブルのサインにもなっている猫のよだれ。なかには早期発見が難しく重症化しやすい病気もあるので、たかがよだれと見落とさず、どれだけの量が出ているか、一緒に不審な症状は出ていないかなどを日ごろから観察しておきましょう!
参考/「ねこのきもち」『まんぞくさんも大満足♡猫に与えてOK?NG?食べ物図鑑』
「ねこのきもち」2017年12月号『甘く見ないで!猫カゼは人のカゼとは違うんです』
監修/三浦貴裕先生(町田森野プリモ動物病院院長/相模大野プリモ動物病院院長)
文/pigeon
※記事と写真に関連性はありませんので予めご了承ください。