猫は吐きやすいというイメージがある動物です。今回は、いつ吐く・何を吐く・どこで吐く・何回吐くなど、ポイントごとに原因や対処法をチェックします。吐いたものの見極め方や、吐いたあとにすべきことも確認しておきましょう。
猫の「吐く」 その傾向と理由って?
猫が「いつ」「何を」「どこで」「何回」吐くかによって、考えられる原因を解説します。
いつ吐く?
「起きがけ」「人の留守中」「食後」「初夏」
→空腹時や換毛期などに関係することが多い
猫も人のように、空腹で胃が空のときに胃酸が過多になり、気分が悪くなって嘔吐することが。人の不在時や寝起きに吐くのは、それが原因のことが多いです。
食後の嘔吐は、主に空腹からの早食いが原因といわれています。また、換毛期の初夏や秋口は、飲み込む抜け毛の量が多くなり、毛玉を嘔吐することが増加します。
何を吐く?
「フード」「胃液」「ねこ草」「毛玉」「おもちゃなどの破片」
→胃が小さいことが理由のひとつ
猫は運動性や体の構造の都合で、胃が小さめです。食事は小分けにとるスタイル(不断給餌)でもあったので、胃の容量もさほど必要なかったのでしょう。
そのため、一気にフードを食べると吐いたり、逆に空腹時間が長すぎると胃液を吐くことがあります。また、ねこ草や毛玉は、便で排出されずに胃に残ると、吐き出す場合があります。
どこで吐く?
「家具の陰」「部屋の隅」「カーペット」「食事場のまわり」
→身を隠せる、安全な場所を選ぶ傾向がある
猫は警戒心が強く、かつ単独行動をする動物。「死に際は姿を隠す」なんて話もあるように、自分が弱っていることを周りに悟られにくい場所を選ぶ習性があります。嘔吐も、人目を気にせず、ひっそりとした場所がいいのでしょう。また、食事場周辺で吐くのは、食後すぐに吐く猫が多いからです。
何回吐く?
「1~2回」「3回続けて」「時間をおいて10回程」
→1~2回程度であれば、生理現象の可能性もある
回数に明白な理由や原因はありませんが、人と同様、猫も一度では吐ききれないことがあります。年齢などにもよりますが、1~2回程度なら生理現象である可能性もありますが、それ以上に吐くなら、内臓疾患があるか“本当に吐きたいもの”がなかなか出なくてえずいているのかもしれません。
また、何度も吐くと胃酸で食道が荒れる心配もあるので、明らかに回数が多い場合は動物病院で受診しましょう。
猫と嘔吐物の様子 ~受診したほうがいいサイン~
愛猫が吐いたときは、まず嘔吐物の内容を確認してください。原因を見つける一番の手掛かりになります。明らかに色がおかしい場合や、異物が混じっている場合は危険のサイン。
吐いたものにおかしな点が見られなくても、猫の様子がおかしい場合は、自己判断はせずかかりつけの獣医師に相談しましょう。
吐いたあとの猫の様子
・瞬膜が出たままぐったりしている
※瞬膜とは、目頭にある白い保護膜のこと。体調不良だと出たままになることがあります(上の写真参照)
・食欲がない
・物陰などに隠れて出てこない
・触ろうとすると嫌がる
・いつもと違う口臭がある
・1日に数えきれないくらい吐く
吐いたものの様子
血が混じっている
吐きすぎや胃液の逆流によって食道周りが荒れて傷ついていたり、血の量が多いときは重篤な病気の可能性もあります。
異物が混じっている
消化できない固形物を口にしてしまった可能性があります。部分的に体内に残っている場合や、消化管が傷ついている危険も考えられます。
明らかに異臭がする
小腸まで進んだものを吐き出していると、便臭がすることがあります。また、危険な液体を口にしてしまった場合にも異臭がすることがあります。
猫と嘔吐物の様子 ~急は要しないが原因に応じた対策が必要なサイン~
一概にはいえませんが、生理現象で吐くときは、猫が元気であれば、深刻な病気の心配は少ないでしょう。しかし、どんな嘔吐でも、猫の体に負担がかかることに変わりはありません。原因別に吐かせないよう対策をして、負担を軽くしてあげましょう。
吐いた後の猫の様子
・すぐに食事をとる
・遊びの誘いにのる
・毛づくろいなどしてくつろいでいる
吐いたものの様子
食べたフードの種類や消化具合、消化管にあった時間の長さによって、見た目が異なります。
白い泡が混じっていることも。水を飲んだあとに吐いた場合、水も混じっていて、量が多い場合があります。
飲み込んだ毛の長さや色によって、見た目や量は違います。写真は、白い毛にフードも混じって、少し茶色になっています。
ねこ草には、毛玉を吐くのを促す作用があるといわれています。写真の嘔吐物にも、少し飲み込んだ毛が混じっています。
吐いて時間がたってからの猫の様子 ~元気そうに見えても危険なサイン~
猫が吐いたあとは、しばらく油断せずに様子見をしてください。愛猫が元気そうに見えても、次の様子が見られたら、かかりつけの獣医師に相談しましょう。病気の疑いがあります。
1日経ってもウンチが出ていない
腸が詰まっているなど、胃より下の部分にトラブルがあるために、嘔吐している可能性があります。さらに時間が経つと、便臭がするものを吐く場合もあります。
未消化のフードをよく吐く、1回の食事量が減った
異物が詰まるなどして食道が細くなると、食べ物が胃まで届かず未消化のフードが食道にたまり、吐いてしまっている可能性があります。
猫が吐いたときの対処法
受診が必要な場合
猫が落ち着いたら嘔吐物を持って動物病院へ
嘔吐の原因を探るには、まず実物を見るのが一番です。受診時には、実物を持参すると診察がスムーズになります。難しい場合も、写真やメモを持っていくと○。
また、猫を連れていく際にはキャリーケースはなるべく揺らさないでください。誤えん(残った嘔吐物が気管や肺に入ってしまう)の危険も考えられます。
様子見の場合
その後異変がないか、しばらく様子を見守って
不安が少ない嘔吐でも、吐いた直後の猫は疲れているのでなるべくそっとしておきましょう。また、吐くと口の中が不快になったり、のどが渇いたりするので、飲み水も用意してあげてください。環境を整えたら、経過を見守ります。
〔NG〕背中をさすると誤えんの原因に
人は吐き気がするとき、背中をさすられると気分が楽になることもありますが、猫はさすると誤嚥の危険があります。もともと、気分がよくないときは触られるのも嫌う動物なので、余計に猫の負担になってしまいます。
「吐く」が代表的な症状の病気・トラブル
誤食
嘔吐で来院した猫の約4割は、誤食が原因ともいわれています。獲物を思わせるものを見ると、つい口にしてしまうことのある猫。中でも多いのがヒモ類の誤食です。吐いてすべてを出しきれない場合、胃腸内で絡まると消化管が閉塞し、炎症や壊死につながります。
毛球症
毛球症は、毛づくろいで飲みこんだ毛が、吐き出せないくらいの大きな塊になって、胃腸に停留してしまう病気。比較的長毛猫がなりやすいですが、同居猫の毛づくろいをすることが多い猫も要注意です。重篤な場合は、開腹手術が必要になることもあるので、ブラッシングをして余計な毛を飲み込まないようにしてあげてください。
寄生虫症
腸にすみ着く回虫や条虫など、寄生虫が原因で嘔吐することがあります。元外猫や子猫に比較的多い傾向があり、ヒモのような虫やを吐く場合があります。また、下痢を伴うことも多いです。治療は、内服薬などの駆除剤で行います。
甲状腺機能亢進症
のど元の甲状腺からホルモンが過剰に分泌されて代謝が上がり、異常に活発になる一方で体重減少が顕著に見られることが多い病気です。シニア猫での発症が多く、心臓にも負担がかかるため、心臓病を併発する可能性があります。
そのほかの病気
- 食べ物アレルギー・中毒
- 悪性腫瘍
- 尿毒症
- 膵炎
- 便秘
- ストレス など
猫が吐いたもの別 吐かせないための対策
フード・胃液を吐く
胃腸に負担がかからないよう食事を与える
フードや胃液を吐く場合、大半は空腹が原因です。胃に何もなくて胃液を吐く、急にフードを食べて胃が驚いてフードを吐くなどのケースが考えられます。猫本来の、少しずつ食べるスタイルを食事の仕方に取り入れれば、嘔吐を減らせるでしょう。
食事場に高さを出す
食道の通りが悪くてフードを吐くと診断された場合は、猫を2足立ちさせて食事を与える方法もあります。食道が床に対して垂直に近くなるので、重力の助けもあって、胃にフードが通りやすくなります。
フードを小分けにする
あるだけ食べてしまう猫に有効です。与える回数を分けてもいいですし、小分けにしてあちこちに置くのも○。“胃の休憩時間”ができますし、猫も“楽しい時間”が増えて、満足するでしょう。
一気食い防止のグッズを使う
最近では、時間をかけて食べる工夫が施されたフードボウルも。食べにくい構造が、猫に「どうしたら上手に食べられるかな?」と考えさせるため、知育発達の一貫にもなります。
猫草を吐く
与える場合は少量にして、食べるたび吐くなら与えない
猫草は、嗜好性も高いので好む猫は多いですが、与えすぎには注意してください。与える際は鉢から直接ではなく、手から数本与えるなどして、猫が食べる量を飼い主さんが管理するといいでしょう。与えるたびに吐くようであれば、与えない方がベターです。
異物を吐く
誤食しそうなものは片付けを徹底する
猫の口に入る小さなものは、片付けを徹底してください。「“ちょいちょい”している程度だし平気かな」と思っていても、つい口にしてしまうこともあります。特におもちゃや、猫が誤食しやすいものは、猫が届かない高い場所や、開けられない引き出しなどにしまいましょう。
毛玉を吐く
抜け毛は飲み込む前に取り除く
猫の舌は、トゲがあってブラシのようになっているため、毛づくろいすると抜け毛を飲み込んでしまいます。猫が自分で“ブラッシング”する前に、抜け毛を取り除いてあげてください。また、飲み込んでしまった抜け毛に対しては、専用のケア商品などで排出を促す工夫をするといいでしょう。
ブラッシングを習慣にする
定期的にブラッシングをしましょう。苦手な猫には、なでると喜びやすい額や腰からそっと始めても○。とくに長毛猫は毎日行えば、飲み込む毛量とともに、毛の絡まりも軽減することができます。
ストレスで吐く
ストレスの原因をなくすか、発散させる工夫をする
ストレスといっても内容はさまざまですが、多くは環境の変化に対するものです。可能なら以前の環境に戻すか、無理なら猫だけでくつろげる空間づくりができると○。たまったストレスは、遊びなどで発散させてあげましょう。
上下運動を取り入れる
猫は上下運動が大好きです。遊ぶだけでもストレス発散になりますが、ジャンプを意識した遊びを取り入れるとさらに○。目安として、1日5分は遊んであげてください。
同居猫と居場所を分ける
猫をもう一匹迎えた直後や、猫同士の仲があまりよくないときは、気が休まる場所がなくて吐いてしまうこともあります。可能であれば、それぞれの部屋を分けてあげましょう。
病気で吐く
獣医師の診断にしたがって正しく治療する
病気が原因で嘔吐している場合は、獣医師の指示に従って治療することが一番大切。薬を処方された際、「猫が嫌がるから」と量を独断で加減すると、病気も嘔吐もなかなか治りません。どうしても投薬できないときは、薬の形状や種類を替えられる場合もあるので、獣医師に相談をしましょう。
猫の「吐く」に関するQ&A
Q 吐くしぐさはするけど吐かない愛猫……大丈夫?
A「空嘔吐」です。異物が出せないか口周りに炎症を起こしている可能性も
空嘔吐は、毛玉などを吐き出したくても出ないときに見られることがあります。そのほか、口に違和感があってすることもありますが。口をチェックしてみて赤みや異臭があったら、歯周病の可能性があるので動物病院で相談しましょう。
Q 吐いたものを食べてしまっても問題ない?
A 食欲があるのは○。ただしなるべく食べさせないでください
猫が、吐いたものを食べようとするくらい元気なようなら、とりあえずは安心でしょう。ただ、吐いたものには胃酸が混じっているかもしれませんし、感染性のものであれば再度食べないほうがいいでしょう。嘔吐物を見つけたら、すぐに片付けましょう。
Q 嘔吐物を触っても平気? 感染症の心配は?
A 感染症のリスクは充分あります。極力触らないでください
猫が吐いた原因によっては、嘔吐物自体も病気の感染源になります。病気によっては、猫から人にうつる可能性もあります。また、衛生的な意味でも、直に触らないように気をつけて、なるべく早く掃除をしましょう。
猫が吐くときに考えられる原因や、適切な対処法・対策について解説しました。愛猫が吐いた場合は、あわてずに色・内容物・猫の様子を確認して、少しでも不安なら受診して獣医師の指示を仰ぎましょう。
監修/長谷川諒先生(きたじま動物病院)
文/ねこのきもちWeb編集室
参考&画像・イラスト出典/「ねこのきもち」本誌、ムックより