猫の「噛む・引っかく」に悩んでいる飼い主さんは意外に多いよう。猫に噛まれたり引っかれたりすると、危険な病気につながるおそれもあります。この記事では、「噛む・引っかく」の防止法や対処法、応急処置などについて解説します。
猫が「噛む・引っかく」シーンは?
猫が噛んだり引っかいたりするのは、ほとんどが飼い主さんから猫に何かをしているとき。それぞれのシーンで猫がどんなことを嫌がるのか、また、嫌がっている様子の見極め方を理解すれば、「噛む・引っかく」は減らせるはずです。
「ねこのきもち」読者アンケートでは約9割の飼い主さんが引っかかれた経験あり
- 経験があり、病院にかかるほどのケガをした… 6.8%
- 経験があるけれど、軽いケガや無傷ですんだ… 82.4%
- 経験がない… 6.8%
- 無回答… 4%
※「ねこのきもち」調べ
よく噛む・引っかかれるのは4つのシーン
(1)なでたり抱っこしたりするスキンシップのとき
(2)爪切りやブラッシングなどのお手入れのとき
(3)おもちゃで遊んでいるとき
(4)思いがけない不意打ちなどのとき
この4つのシーンごとに、猫の「噛む・引っかく」サインや防止法をチェックしてみましょう。
スキンシップしているときの「噛む・引っかく」防止法
愛猫とのスキンシップの時間は何よりの癒し。しかし方法を一歩間違うと攻撃されてしまうことも……。そうならないための予防法やサインを紹介します。
シーン1:抱っこしたら暴れ出し引っかかれた
「噛む・引っかく」理由
・猫の気分がのらなかったから
ご存知のように猫は気分屋。かまわれたくないタイミングに抱っこされると、どんなにスキンシップが好きな猫でも不快感から攻撃することがあります。
・ 抱っこに不安を覚えたから
猫はもともと拘束されるのが苦手。その上、無理な体勢をさせられたり、不安定な抱き方をされると不安や身の危険を感じ、逃げようとします。
「噛む・引っかく」されないためにすること
・抱っこは猫からアピールしてきたときだけにして
飼い主さんを見つめてきたり、しっぽを立ててすり寄ってきたら、猫が飼い主さんに甘えたがっている証。このタイミングで抱っこすれば、攻撃されることはほとんどありません。
正しい方法で抱っこして
猫が不快に感じない抱っこのコツは、四肢と下半身を安定させること。さらに飼い主さんとの間に隙間をつくらず密着させると安心できます。
・身をよじらせたり逃げようとしたらすぐに離して
猫が抱っこを不快に感じると、飼い主さんの腕から逃げようと身をよじらせたり、足を突っ張ったり、嫌がるそぶりを見せます。このサインが出たら、抱っこをやめましょう。
シーン2: 愛猫が近付いてきたのでなでていたらいきなり噛まれた
「噛む・引っかく」理由
・スキンシップの時間が長過ぎたから
・スキンシップの時間が長過ぎたかから
長時間のスキンシップで猫が「もう十分!」と感じたときに飼い主さんを噛むことがあります。これは「愛撫誘発性攻撃行動」と呼ばれる、猫によく見られる行動のひとつです。
・触った部位や力加減がNGだった
必要以上の力でなでられたり、苦手な部分を触られたりすると、飼い主さんに「やめて」の意味で噛みつくことがあります。
「噛む・引っかく」されないためにすること
・なですぎは×。なでるときは指先で優しく
長時間のスキンシップは猫によっては大きなストレスになるので、気持ちよさそうなところでストップしてください。猫が毛づくろいするように、指先で軽くなでるくらいがベストです。
・猫が好きな部位を中心になでる
猫は自分で毛づくろいできない顔まわりを撫でられるのが好きな傾向にあります。おでこや後頭部・鼻筋・あご周りなど、猫が喜びやすい部位をなでてあげてください。
・しっぽをパタパタさせたらすぐになでるのをやめる
スキンシップのやめどきは、猫のしっぽをチェックしてください。パタパタと振り始めたらイライラしているサインなので、なでるのをやめ、そっとしておきましょう。
お手入れしているときの「噛む・引っかく」防止法
猫にとって必要不可欠なお手入れですが、苦手な猫は多く、攻撃されやすいシーンでもあります。なるべく猫の負担を減らして「噛む・引っかく」を防ぎましょう。
シーン: 爪切りの途中、猫が逃げようとした瞬間に引っかかれた
「噛む・引っかく」理由
・猫は長時間の拘束が苦手だから
自由気ままな猫は、束縛されるのが大嫌い。お手入れによっては何分も同じ体勢で拘束されることになるので、我慢できず逃げ出したくなってしまうのでしょう。
・お手入れ自体に恐怖を感じているから
猫は警戒心が強い動物なので、「何をされるかわからない」ことから逃げようとします。また、過去に爪切りで出血したなど、一度嫌な思いをすると、その後もずっと恐怖に感じてしまいます。
「噛む・引っかく」されないためにすること
・触られるのが苦手な部分にふだんから触って慣れさせて
猫が触られるのが苦手な部位はふだんのスキンシップで少しずつ触って慣れさせる方法もあります。子猫の頃から触っておくと、スムーズに慣れさせることができます。
・ほかのことで気をそらす
苦手なお手入れをするとき、一緒に猫の好きなことをすると気がそれるのでスムーズにいく場合が多いよう。愛猫の好みによっておやつや適度なスキンシップなど、気をそらすものを変えてみてください。
・拘束時間がなるべく短くなる工夫をする
お手入れを「怖い」と思わせないためには、とにかく早く終わらせることが大切。1回のお手入れの時間を短くしたり、2人で行ったり、寝ているすきに行うなど、拘束時間をできるだけ短くする工夫をしてあげましょう。
・猫の体がこわばってきたらすぐに自由にしてあげる
慣れないお手入れに恐怖を感じ、緊張すると、猫の体に力が入り、耳が外向きに。攻撃前のサインなので、抱っこしていてその様子が見られたらすぐに自由にしてあげましょう。
・自宅でするのが難しい場合は無理せず動物病院へ
極度に怖がったり、お手入れグッズを見ただけで逃げ出してしまうようなら、飼い主さんがお手入れをするのは難しいでしょう。無理せず、動物病院などで処置してもらいましょう。
遊んでいるときの「噛む・引っかく」防止法
ジャンプしたり猛ダッシュしたり…… 遊んでいるときは、猫が活発になるぶん、攻撃されると大きなケガにつながりかねません。予防法とサインを紹介します。
シーン: じゃらしおもちゃで遊んでいたら愛猫が飛びかかってきた
「噛む・引っかく」理由
・本能が刺激され、興奮し過ぎてしまったから
猫にとって遊ぶことは狩りをしているのと同じこと。遊びで野生の血が騒ぎ、興奮し過ぎてしまうことがあります。そのためおもちゃだけでなく、飼い主をターゲットにして襲いかかることもあります。
噛む・引っかく されないためにすること
・飼い主さんの手や足で遊ばせない
飼い主さんの手や足で遊ばせていると、猫はその手足を“獲物”だと思い、攻撃の対象と認識してしまいます。遊ぶときは必ずおもちゃを使うようにしてください。
・鼻息が荒くなったりヒートアップしたら一時中断する
鼻息が荒くなる、周りが見えなくなるほどおもちゃを追うなどしたら、興奮し過ぎている証。遊びをやめ、猫の呼吸が整うまでおもちゃは隠して様子をみましょう。
・おもちゃは竿やひもの部分が長いものに
興奮しやすい猫なら、おもちゃから見直してみても。竿やひもが長いおもちゃなら、飼い主さんとの距離を保って遊ばせられるので、勢い余って攻撃されることはなくなるでしょう。
不意打ちなどそのほかのときの「噛む・引っかく」防止法
何もしていないのに急に攻撃してくる、何かをアピールするために噛むなど、予測しにくいシーンでの予防法をお教えします。
シーン1:猫とすれ違った瞬間にいきなり噛まれた
「噛む・引っかく」理由
・飼い主さんの素早い動きが“獲物”に見えるから
猫の獲物はネズミや蛇など、素早い動きをする動物。そのため家の中でも飼い主さんの素早い動きを見て狩りモードになり、噛んだり引っかいたりすることがあります。
・遊びの欲求が満たされず不満だから
猫はもともと外で獲物を探す生活をしていました。しかし昨今はほとんどが室内飼いなので、家の中では刺激が足りず、退屈しのぎで攻撃行動をすることがあります。
「噛む・引っかく」されないためにすること
・猫が近くにいるときは素早い動きをしない
本能を刺激しないよう、猫の近くを通るときはゆったりした動きを心がけてください。またドアの動きに反応しないよう、猫のいる部屋に入るときにはドアはゆっくり開けましょう。
・1日最低3回は遊ぶ時間をつくって
猫を退屈させないよう、1日最低3回はおもちゃを使って遊び、ストレスを発散させてください。1回の時間は5~10分ほどでOK。回数を増やしてあげたほうが猫は喜びます。
シーン2:ゴハンの時間が近くなると噛まれた
「噛む・引っかく」理由
・「噛む=ゴハンが出てくる」と覚えているから
猫は欲求を通すために、飼い主さんにさまざまな方法でアピールをしてきます。たまたまお腹がすいて噛んだときに飼い主さんがゴハンをくれたことを覚えていて、それ以降、欲求の意味で噛むようになったのでしょう。
・おなかが減っている時間が長すぎるから
鳴き続けるなどして必死にアピールしても欲求が叶わないときに、攻撃して伝えようとすることも。お腹がすき過ぎてやむを得ず攻撃している可能性もあります。
「噛む・引っかく」されないためにすること
・食事の回数を見直す
フードの量は変えずに食事の回数を増やしてみてください。猫が空腹を感じる時間を短くすることができるので、アピールされることが少なくなります。
・食事をゆっくり食べさせる工夫をする
とくに早食いしてしまう猫におすすめ。食べにくい器で食事させたり、知育おもちゃをつかって遊びながら食べさせたりすれば、同じ量のフードでも時間をかけて与えることができます。
「噛む・引っかく」された場合の対処法
「噛む・引っかく」された場合に、飼い主さんがとるべき行動をご紹介します。
「あっ!」「だめ!」など短い音で猫をハッとさせる
攻撃がエスカレートしないよう、なるべく早く興奮した猫から離れる必要があります。飼い主さんが「あっ!」「だめ!」など短い言葉を発して猫を一瞬驚かせ、その隙に落ち着いて猫から離れましょう。
→スキンシップ・お手入れ・不意打ちなどのシーンに有効
無視して部屋を出る
遊んでいるときに噛んだり引っかいたりするのは、猫が夢中になっているから。攻撃されたらすぐに遊ぶのを中断し、部屋を出ていくと、夢中になれる楽しい遊びができなくなると猫に学習させることができます。
→遊んでいるシーンに有効
「噛む・引っかく」された場合の応急処置法
「噛む・引っかく」されたときの、手当の方法を紹介します。
ケース1:出血がない、または少量で傷が深くないとき
(1)流水で傷口をよく洗う
消毒などはせず、まずはできるだけ早く流水で洗ってください。傷口を清潔にすることが大切です。
(2)石鹸を泡立て傷口に置くようにして洗う
石鹸をよく泡立て、泡を傷口にのせて優しく洗ってください。泡の界面活性作用で菌を浮き上がらせることができます。その後、水でよく洗いましょう。
(3)その後変化があればすぐに病院へ
上の処置を行っても、出血が止まらない、痛みが続く、腫れてきたなどの症状が現れたら、速やかに病院で診てもらってください。
ケース2:出血があり傷が深いとき
(1)流水で数分洗う
深い傷の場合、時間をおいてしまうと細菌が体内に入り込み重症化する可能性が高くなるので、初期対応までのスピードが重要です。できるだけ早く流水で数分よく洗いましょう。
(2)血が止まらない場合、清潔なガーゼやタオルで15分ほど圧迫する
上の処置で血が止まらない場合、清潔なタオルやガーゼで圧迫をしましょう。ただし、時間が経ってから圧迫すると、菌を体内に入れてしまうことになるので、洗ってから時間をおかないのがポイントです。
(3)圧迫しながら一刻も早く病院へ
傷の具合によっては傷内部の処置や、縫合処置が必要になるので、なるべく早く医師に診てもらいましょう。可能なら圧迫しながら病院に向かいます。
「噛む・引っかく」でかかる怖い病気
猫に噛んだり引っかかれたりされることで、感染するおそれのある病気をご紹介します。
猫ひっかき病
バルトネラ菌が引っかき傷などから侵入してかかる病気です。感染後、発疹やリンパ節の腫れ、発熱などの症状が現れます。
パスツレラ症
ほぼすべての猫が口内に保有するといわれる、パスツレラ菌による病気です。傷口が腫れ、激痛に襲われます。悪化すると骨髄炎を併発することもあるので、噛まれた場合は程度によらず病院で受診しましょう。
猫の「噛む・引っかく」の悩みを解消するには、噛んだり引っかかれたりされやすいシーンと防止策を理解しておくことが大切です。子猫の甘噛みや成猫の噛みグセに加えて、高齢猫が急に攻撃的になるケースにも注意しましょう。
監修/長谷川諒先生(きたじま動物病院)
文/ねこのきもちWeb編集室
参考&画像・イラスト出典/「ねこのきもち」本誌、ムックより